100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二節 竜の牙

「改めて、今回の旅路を復習しましょう」

 

 長旅の暇潰しにか、パースは御者台で馬を操りながら話題を提示した。

 実際暇潰しには丁度良いので、俺は、それにムラマサとリカルドも耳を傾ける。

 

「ミナ・ミヌエーラは、ラビリンシア王国のナンタン領とセータン領に接する隣国です。そんな感じに広い範囲で接していますが、入国に使える道はとても少ないです。それは何故でしょう」

「ミナ・ミヌエーラは山と海に囲まれてて、国境に高い山が横たわっているからでしょう」

「正解です」

 

 パースの問題へ即座に答えたのはムラマサだった。

 その態度はとても不愛想であり、ムラマサは正解しても誇らない。

 ミナ・ミヌエーラの立地はとても特殊であり、教育を施されていないでもない限り誰でも知っている事だろう。

 そんな常識を問われたから、ムラマサは不名誉に感じたのかもしれない。

 

「ミナ・ミヌエーラは、陸の国境を余す事なく山が並び立っています。なので、陸路で入国するとなると谷を通るくらいしかないんですが、その谷すらも道として使えるのは少ないんですよねぇ」

 

 その特殊な立地とは、越える事が現実的でない山が並び立っている事である。

 どこを取っても標高が高く、傾斜が厳しい。

 その山を避けるとなると谷になるのだが、道幅がとても狭かったり、落石が多かったり。

 安全な道はとても少ないのだ。

 

「海路の方は駄目だったのか?ナンタン領から出港して、あっちに入港した方が安全だろ?」

「確かに、ミナ・ミヌエーラとの輸出入には船でほとんどやってるくらい安全ですね。ですが、今回は荷物が多くてですねぇ」

「あー、そうかー」

 

 リカルドがふとした疑問を述べ、パースの答えで納得していた。

 そう。今回は荷物が多いのだ。

 捕らえられていたドワーフたちは数が多く、彼女らの食料だけでも重荷になる。

 護衛の分も含めれば、荷物は倍近く膨れ上がるだろう。

 残念ながら、そこまでの大荷物を運べる船というのは、ラビリンシアもミナ・ミヌエーラも持っていない。

 それで陸路しか選択がなくなっている訳だが、陸路なら食料を途中で調達できるという点で、悪い選択ではない。

 

「しっかし、厄介な山ですね。少し削って流通経路を増やせば良いのに」

「流通経路を増やしてほしいのは、輸送を担う隊の長として同意ですが。ミナ・ミヌエーラの王は削らないでしょうねぇ。侵略を防ぐ天然の防壁になっていますから、国防を考えるとお得なんですよねぇ」

 

 もう見えている件の山へ、ムラマサは呆れのような気持ちを吐き出していた。

 パースも意見に賛同しているが、叶う事はないだろうと溜息を漏らしている。

 

「あれが、ミナ・ミヌエーラを守る山……」

 

 俺はムラマサたちと違い、目にしたその光景に圧倒されていた。

 ラビリンシアにももちろん山があり、王命で国中奔走する最中で見てきている。

 だが、目の前にそびえ立つのは、それらと比べる事も烏滸(おこ)がましい物だった。

 大きさ、高さ、規模が違いすぎる。

 正面が全て山なのだ。

 

(こういう地形を、山脈、と言うんだったか。こんなのが大地に点在してるんだな……)

(まぁこの山脈が世界最大だから、他では拝めない光景だぜ?)

 

 俺も知っている知識を、エクスカリバーが無駄にひけらかしてきた。

 今はこの景色に感動して気分が良いので、優しく聞き流してやろう。

 

「世界最大の山脈に守られた国、ミナ・ミヌエーラ、か……」

 

 思えば、他所の国に足を踏み入れるのは初めてだ。

 一生を生まれ育った国で送り、他所の国など観光にも訪れない。そんな人がほとんどではある。

 でも、勇者というのは旅するもの。

 そんな勇者である俺は、ようやく己の国以外に旅ができるのだ。

 不思議と感慨深い。

 

(……当初の計画では、もっと自由に旅する予定だったのになぁ。……どうしてこうなった)

 

 感慨を通り越し、悪い意味の感嘆としてきた。

 俺は頭を振って感情を追い出し、改めて山脈を目に収める。

 

「……あの山脈って、固有の名称がありましたよね。なんでしたっけ」

 

 そうして山脈を見つめていれば、それに地名が特別ある事を俺は思い出した。

 

 森や山などに名前が付いている事は珍しい。

 何故ならば、形を長く保つ地形がそう多くないからだ。

 要因は様々である。

 森ならば魔物が暴れて次の日には焦土となっていたり、山ならばこれまた魔物が暴れて更地になっていたり。

 森と山のどちらにもあり得る可能性は、ダンジョンに呑み込まれる事だ。

 ダンジョンの一部として取り込まれ、地脈穴がなくなればダンジョンと共に崩壊する。

 そういう事が稀に起こり、名付けた場所がなくなるのだ。

 なので、名付けても無意味であるから、人類に山や森などを名付ける風習はほぼなくなった。

 

 それでも、1000年単位で形を保ち続けた地形には名が付く。

 目の前にある山脈がその1つなのだが、肝心の名前を忘れてしまったのだ。

 

「竜の牙の山脈で、竜牙(りゅうが)山脈ですね。実に、言い得て妙な名付けです」

「ああ、そうでした。竜牙山脈でした。それで、通路として使える谷が、竜口谷(りゅうこうだに)。どっちも皮肉と言うか、本当に上手い名付けですね」

 

 パースのおかげで俺は地名を思い出し、連鎖的に谷の名前も思い出せた。

 それにしてもパースが言う通り、上手い名付けである。

 

「ミナ・ミヌエーラという国をよく表現していますよねぇ。竜の口を過ぎればどこに至るのか。丁度、あんなドラゴンの胃に、入るようなものですからねぇ……」

「そうですね。……て、『あんなドラゴン』?」

 

 パースは妙に引きつった様子で、何かを指差していた。

 その差す先を目で追い、俺はその何かを視認する。

 

「汝らか?ラビリンシアの使いは」

 

 そこには、竜牙山脈を背にする、巨大な赤いドラゴンが羽ばたいていたのだった。

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