100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「改めて、今回の旅路を復習しましょう」
長旅の暇潰しにか、パースは御者台で馬を操りながら話題を提示した。
実際暇潰しには丁度良いので、俺は、それにムラマサとリカルドも耳を傾ける。
「ミナ・ミヌエーラは、ラビリンシア王国のナンタン領とセータン領に接する隣国です。そんな感じに広い範囲で接していますが、入国に使える道はとても少ないです。それは何故でしょう」
「ミナ・ミヌエーラは山と海に囲まれてて、国境に高い山が横たわっているからでしょう」
「正解です」
パースの問題へ即座に答えたのはムラマサだった。
その態度はとても不愛想であり、ムラマサは正解しても誇らない。
ミナ・ミヌエーラの立地はとても特殊であり、教育を施されていないでもない限り誰でも知っている事だろう。
そんな常識を問われたから、ムラマサは不名誉に感じたのかもしれない。
「ミナ・ミヌエーラは、陸の国境を余す事なく山が並び立っています。なので、陸路で入国するとなると谷を通るくらいしかないんですが、その谷すらも道として使えるのは少ないんですよねぇ」
その特殊な立地とは、越える事が現実的でない山が並び立っている事である。
どこを取っても標高が高く、傾斜が厳しい。
その山を避けるとなると谷になるのだが、道幅がとても狭かったり、落石が多かったり。
安全な道はとても少ないのだ。
「海路の方は駄目だったのか?ナンタン領から出港して、あっちに入港した方が安全だろ?」
「確かに、ミナ・ミヌエーラとの輸出入には船でほとんどやってるくらい安全ですね。ですが、今回は荷物が多くてですねぇ」
「あー、そうかー」
リカルドがふとした疑問を述べ、パースの答えで納得していた。
そう。今回は荷物が多いのだ。
捕らえられていたドワーフたちは数が多く、彼女らの食料だけでも重荷になる。
護衛の分も含めれば、荷物は倍近く膨れ上がるだろう。
残念ながら、そこまでの大荷物を運べる船というのは、ラビリンシアもミナ・ミヌエーラも持っていない。
それで陸路しか選択がなくなっている訳だが、陸路なら食料を途中で調達できるという点で、悪い選択ではない。
「しっかし、厄介な山ですね。少し削って流通経路を増やせば良いのに」
「流通経路を増やしてほしいのは、輸送を担う隊の長として同意ですが。ミナ・ミヌエーラの王は削らないでしょうねぇ。侵略を防ぐ天然の防壁になっていますから、国防を考えるとお得なんですよねぇ」
もう見えている件の山へ、ムラマサは呆れのような気持ちを吐き出していた。
パースも意見に賛同しているが、叶う事はないだろうと溜息を漏らしている。
「あれが、ミナ・ミヌエーラを守る山……」
俺はムラマサたちと違い、目にしたその光景に圧倒されていた。
ラビリンシアにももちろん山があり、王命で国中奔走する最中で見てきている。
だが、目の前にそびえ立つのは、それらと比べる事も
大きさ、高さ、規模が違いすぎる。
正面が全て山なのだ。
(こういう地形を、山脈、と言うんだったか。こんなのが大地に点在してるんだな……)
(まぁこの山脈が世界最大だから、他では拝めない光景だぜ?)
俺も知っている知識を、エクスカリバーが無駄にひけらかしてきた。
今はこの景色に感動して気分が良いので、優しく聞き流してやろう。
「世界最大の山脈に守られた国、ミナ・ミヌエーラ、か……」
思えば、他所の国に足を踏み入れるのは初めてだ。
一生を生まれ育った国で送り、他所の国など観光にも訪れない。そんな人がほとんどではある。
でも、勇者というのは旅するもの。
そんな勇者である俺は、ようやく己の国以外に旅ができるのだ。
不思議と感慨深い。
(……当初の計画では、もっと自由に旅する予定だったのになぁ。……どうしてこうなった)
感慨を通り越し、悪い意味の感嘆としてきた。
俺は頭を振って感情を追い出し、改めて山脈を目に収める。
「……あの山脈って、固有の名称がありましたよね。なんでしたっけ」
そうして山脈を見つめていれば、それに地名が特別ある事を俺は思い出した。
森や山などに名前が付いている事は珍しい。
何故ならば、形を長く保つ地形がそう多くないからだ。
要因は様々である。
森ならば魔物が暴れて次の日には焦土となっていたり、山ならばこれまた魔物が暴れて更地になっていたり。
森と山のどちらにもあり得る可能性は、ダンジョンに呑み込まれる事だ。
ダンジョンの一部として取り込まれ、地脈穴がなくなればダンジョンと共に崩壊する。
そういう事が稀に起こり、名付けた場所がなくなるのだ。
なので、名付けても無意味であるから、人類に山や森などを名付ける風習はほぼなくなった。
それでも、1000年単位で形を保ち続けた地形には名が付く。
目の前にある山脈がその1つなのだが、肝心の名前を忘れてしまったのだ。
「竜の牙の山脈で、
「ああ、そうでした。竜牙山脈でした。それで、通路として使える谷が、
パースのおかげで俺は地名を思い出し、連鎖的に谷の名前も思い出せた。
それにしてもパースが言う通り、上手い名付けである。
「ミナ・ミヌエーラという国をよく表現していますよねぇ。竜の口を過ぎればどこに至るのか。丁度、あんなドラゴンの胃に、入るようなものですからねぇ……」
「そうですね。……て、『あんなドラゴン』?」
パースは妙に引きつった様子で、何かを指差していた。
その差す先を目で追い、俺はその何かを視認する。
「汝らか?ラビリンシアの使いは」
そこには、竜牙山脈を背にする、巨大な赤いドラゴンが羽ばたいていたのだった。