100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三節 王の偉大なる姿の最後

「汝らか?ラビリンシアの使いは」

 

 竜牙(りゅうが)山脈を背に羽ばたく巨大な赤いドラゴン。

 ケイヴェの相棒であるアジだったり、特級輸送班たちの騎乗するドラゴンだったりと、ドラゴンの個体数はそこそこある。

 対し、人語を話すドラゴンというのは数体だけしか確認されていない。

 おまけに、威厳に満ち、威圧感が溢れているドラゴンなど、たった2体だ。

 赤い事も加味すれば、1体まで絞り込める。

 

「ミナ・ミヌエーラの王、ゴッホ……!」

 

 誰がそう呟いたのか、もしかしたら俺だったかもしれない。

 ただ、その呟きは真実を述べていた。

 そう。俺たちの目の前に居るのが最強格の魔物にして国王、紅竜王(こうりゅうおう)ゴッホなのである。

 

「我々はラビリンシアの使いであり、拉致被害者を返還に来た護送団だ」

 

 そんなドラゴンに相対してなお、先頭に立つランテは動揺していない。

 冷静にゴッホの問いへ返答したのだ。

 さすがは、ラビリンシア王立近衛兵総長である。

 

「汝が代表者か」

「私がこの団の代表者であり、使いの責任者。ラビリンシア王立近衛総長、ランテ・レート」

「……」

 

 ゴッホがランテを睨んだ。

 後ろに控える近衛兵隊員たちは、睨まれているのが自分ではないのに身震いしている。

 あからさまに怯える者は居ないが、それにしてもランテの冷静さだ。

 ランテは表情1つ変えていない。

 

「つまらぬ」

 

 そんな相手に飽きてか、ゴッホは睨むのを止めた。

 語気を和らげ、威圧感を抑えている。

 取って食われるという展開は、とりあえずなくなったようだ。

 

「つまらぬな、ランテ・レート。汝の驚く顔を拝みにわざわざ出向いたのだ。演技くらいせよ」

 

 どうやら驚かせに来ただけらしい。

 風貌や口調に反してお茶目か、このドラゴン。

 

「お戯れを、ゴッホ国王陛下」

「悠久を生きているのだ、戯れもしよう」

 

 暇だから来たと言うのか、この王様。

 仮にも国王が暇などある訳がないだろう。

 

「まぁ良い。汝らが真に使いであるかは、しかと見定めた。竜口谷(りゅうこうだに)を抜け、我が王宮へと参れ」

 

 ……もしかして王自ら検問に来たのか?

 とするなら、随分と仕事熱心な王様だ。

 

「あらあら。こんなところで何をやってるのかしら?ゴッホ?」

「むむ!?」

 

 ゴッホのモノとは違う声と、羽ばたく風が吹いた。

 見上げれば、巨大な白いドラゴンが少しづつ降下してきている。

 

「いやはやこれは、随分と盛大なお出迎えですねぇ。国の入り口で王様が両方待ってくれてるとはねぇ……」

 

 パースが疲れた拍子で言葉を漏らした。

 その言葉でお分かりいただけるだろう。

 巨大な白いドラゴンは、ミナ・ミヌエーラの王、ゴッホと対になって国を治める者、白竜王(はくりゅうおう)グウィバーである。

 ミナ・ミヌエーラの双王がお出迎えとは、確かに随分と盛大だ。

 盛大すぎて、近衛兵隊員が何人か白目を剥いている。

 泡吹いて倒れていないだけ、隊員たちはよくやっている。

 

「グウィバー!何故ここに!」

「『何故』、じゃないわよ。姿がないと思ってみれば、こんな国の端にまで逃げているなんて」

 

 そんな脅えて固まっている護送団を他所に、ドラゴンたちは会話していた。

 『逃げている』というのは非常に気になるところだ。

 ゴッホはいったい何から逃げていると言うのか。

 俺からすると、ゴッホは検問を王自ら行う仕事熱心なドラゴンなのだが。

 

「逃げてなどいない!我はこうしてラビリンシアからの使いが真であるか、検問していたのだ!」

「そんな事言って、逃げてるじゃない。健康診断。お医者様が困っているわよ?」

 

 ……健康診断?

 

「違う、断じて違う!我はあの医者の健康診断を恐れているのではない!あの予防接種と称して投与してくるあの薬物を恐れているのだ!」

 

 予防接種に薬物。もしや、注射の事ではないだろうか。

 いや、そんなはずはない。ドラゴンが注射を恐れる訳がない。

 

「そう言っていつまで注射を嫌がってるの?」

 

 注射だった。

 多くの人類に恐れられるドラゴンの王が、まさかの注射嫌いだったのだ。

 

「我々ドラゴンがなんの病気に(かか)るのだ!なんの予防をせねばならぬのだ!!」

 

 それもそうである。

 魔物が病気に罹るなんて話、聞いた覚えがない。

 

「でもあの予防接種を受けなかった同胞たちは、皆等しく死んでしまってるわよ?」

「それこそもう予防接種ではなかろう!予防接種で長寿になれるものか!あの医者は我々で人体実験……ドラゴンだから竜体実験か?なんにしろ、実験しているのだ!我々は怪しい薬物を投与されているのだ!!」

 

 ゴッホは必死に訴えかけていた。

 ゴッホの言葉が真実なら一大事である。

 なのだが、注射嫌いという単語が出てきた次点で、ゴッホの訴えは注射に抗う子供のそれにしか見えない。

 

「もう、ゴッホったら。実験だったら、とうの昔に私たちが異常をきたしてるわよ」

 

 そんなゴッホに対応するグウィバーはまさに母親のよう。

 おかしい。俺たちの目の前に居るのはミナ・ミヌエーラを治める2体のドラゴンだ。

 なのに、息子と母親が送る病院での一幕を眺めている気分にさせられる。

 

「我は予防接種など受けぬぞ!受けるくらいなら我は喜んで死を迎えよう!」

「それだと私が困るのよ。私は親友に死んで欲しくないの。だから、強制連行よ?」

 

 軽い雰囲気に反し、辺りは冷たい空気が包まれる。

 そして、ゴッホは急に墜落した。

 ゴッホの翼が凍っていたのだ。

 

「ぐあああああああああ!!何をする、止めろ!グウィバー、止めてくれ!!」

「だーめ。ちゃんと予防接種を受けましょうねー」

「嫌だ、嫌だああああああああああああああああ!!!」

 

 グウィバーの氷魔術によって自由を奪われたゴッホは、悲痛に泣き叫んだ。

 その叫びは誰の助けも呼べず、無慈悲にもグウィバーの魔の手に捕まってしまうのだ。

 徐々に凍結箇所が増し、もはや首しか動かせないゴッホはグウィバーから逃れられない。

 悲しきかな、俺たちは偉大なる王の最後を、その目に焼き付けるのだった。

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