100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「汝らか?ラビリンシアの使いは」
ケイヴェの相棒であるアジだったり、特級輸送班たちの騎乗するドラゴンだったりと、ドラゴンの個体数はそこそこある。
対し、人語を話すドラゴンというのは数体だけしか確認されていない。
おまけに、威厳に満ち、威圧感が溢れているドラゴンなど、たった2体だ。
赤い事も加味すれば、1体まで絞り込める。
「ミナ・ミヌエーラの王、ゴッホ……!」
誰がそう呟いたのか、もしかしたら俺だったかもしれない。
ただ、その呟きは真実を述べていた。
そう。俺たちの目の前に居るのが最強格の魔物にして国王、
「我々はラビリンシアの使いであり、拉致被害者を返還に来た護送団だ」
そんなドラゴンに相対してなお、先頭に立つランテは動揺していない。
冷静にゴッホの問いへ返答したのだ。
さすがは、ラビリンシア王立近衛兵総長である。
「汝が代表者か」
「私がこの団の代表者であり、使いの責任者。ラビリンシア王立近衛総長、ランテ・レート」
「……」
ゴッホがランテを睨んだ。
後ろに控える近衛兵隊員たちは、睨まれているのが自分ではないのに身震いしている。
あからさまに怯える者は居ないが、それにしてもランテの冷静さだ。
ランテは表情1つ変えていない。
「つまらぬ」
そんな相手に飽きてか、ゴッホは睨むのを止めた。
語気を和らげ、威圧感を抑えている。
取って食われるという展開は、とりあえずなくなったようだ。
「つまらぬな、ランテ・レート。汝の驚く顔を拝みにわざわざ出向いたのだ。演技くらいせよ」
どうやら驚かせに来ただけらしい。
風貌や口調に反してお茶目か、このドラゴン。
「お戯れを、ゴッホ国王陛下」
「悠久を生きているのだ、戯れもしよう」
暇だから来たと言うのか、この王様。
仮にも国王が暇などある訳がないだろう。
「まぁ良い。汝らが真に使いであるかは、しかと見定めた。
……もしかして王自ら検問に来たのか?
とするなら、随分と仕事熱心な王様だ。
「あらあら。こんなところで何をやってるのかしら?ゴッホ?」
「むむ!?」
ゴッホのモノとは違う声と、羽ばたく風が吹いた。
見上げれば、巨大な白いドラゴンが少しづつ降下してきている。
「いやはやこれは、随分と盛大なお出迎えですねぇ。国の入り口で王様が両方待ってくれてるとはねぇ……」
パースが疲れた拍子で言葉を漏らした。
その言葉でお分かりいただけるだろう。
巨大な白いドラゴンは、ミナ・ミヌエーラの王、ゴッホと対になって国を治める者、
ミナ・ミヌエーラの双王がお出迎えとは、確かに随分と盛大だ。
盛大すぎて、近衛兵隊員が何人か白目を剥いている。
泡吹いて倒れていないだけ、隊員たちはよくやっている。
「グウィバー!何故ここに!」
「『何故』、じゃないわよ。姿がないと思ってみれば、こんな国の端にまで逃げているなんて」
そんな脅えて固まっている護送団を他所に、ドラゴンたちは会話していた。
『逃げている』というのは非常に気になるところだ。
ゴッホはいったい何から逃げていると言うのか。
俺からすると、ゴッホは検問を王自ら行う仕事熱心なドラゴンなのだが。
「逃げてなどいない!我はこうしてラビリンシアからの使いが真であるか、検問していたのだ!」
「そんな事言って、逃げてるじゃない。健康診断。お医者様が困っているわよ?」
……健康診断?
「違う、断じて違う!我はあの医者の健康診断を恐れているのではない!あの予防接種と称して投与してくるあの薬物を恐れているのだ!」
予防接種に薬物。もしや、注射の事ではないだろうか。
いや、そんなはずはない。ドラゴンが注射を恐れる訳がない。
「そう言っていつまで注射を嫌がってるの?」
注射だった。
多くの人類に恐れられるドラゴンの王が、まさかの注射嫌いだったのだ。
「我々ドラゴンがなんの病気に
それもそうである。
魔物が病気に罹るなんて話、聞いた覚えがない。
「でもあの予防接種を受けなかった同胞たちは、皆等しく死んでしまってるわよ?」
「それこそもう予防接種ではなかろう!予防接種で長寿になれるものか!あの医者は我々で人体実験……ドラゴンだから竜体実験か?なんにしろ、実験しているのだ!我々は怪しい薬物を投与されているのだ!!」
ゴッホは必死に訴えかけていた。
ゴッホの言葉が真実なら一大事である。
なのだが、注射嫌いという単語が出てきた次点で、ゴッホの訴えは注射に抗う子供のそれにしか見えない。
「もう、ゴッホったら。実験だったら、とうの昔に私たちが異常をきたしてるわよ」
そんなゴッホに対応するグウィバーはまさに母親のよう。
おかしい。俺たちの目の前に居るのはミナ・ミヌエーラを治める2体のドラゴンだ。
なのに、息子と母親が送る病院での一幕を眺めている気分にさせられる。
「我は予防接種など受けぬぞ!受けるくらいなら我は喜んで死を迎えよう!」
「それだと私が困るのよ。私は親友に死んで欲しくないの。だから、強制連行よ?」
軽い雰囲気に反し、辺りは冷たい空気が包まれる。
そして、ゴッホは急に墜落した。
ゴッホの翼が凍っていたのだ。
「ぐあああああああああ!!何をする、止めろ!グウィバー、止めてくれ!!」
「だーめ。ちゃんと予防接種を受けましょうねー」
「嫌だ、嫌だああああああああああああああああ!!!」
グウィバーの氷魔術によって自由を奪われたゴッホは、悲痛に泣き叫んだ。
その叫びは誰の助けも呼べず、無慈悲にもグウィバーの魔の手に捕まってしまうのだ。
徐々に凍結箇所が増し、もはや首しか動かせないゴッホはグウィバーから逃れられない。
悲しきかな、俺たちは偉大なる王の最後を、その目に焼き付けるのだった。