100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第四節 一応伝説の存在だし

 偉大なる紅竜王(こうりゅうおう)は死んだ。死んだのだ。

 

「止めろおおおおお!死にたくない、死にたくなああああああい!!」

 

 だってもう威厳も何もなく泣き叫んでるんだもん。

 その威光に恐れをなした俺たちの気持ちを返してほしい。

 

「お騒がせしちゃってごめんなさいね。私たちは竜心(りゅうしん)王宮で待ってますから、そんなに急がず、安全第一に来てくださいね」

 

 そんな偉大だった王を抱えて飛び上がる白竜王(はくりゅうおう)

 口調と声音から、性別は雌なのだろう。

 それにしても、こちらも緊張感と言うか、威圧感がないので王様って感じがしない。

 

「あ、それと。検問は専門の衛兵が竜口谷(りゅうこうだに)の出口に控えていますので、そちらでしっかりお受けになってください。それでは、また後程」

 

 色々と親切に応対してから、白竜王グウィバーは飛び立っていった。

 脅威は去ったのに、護送団は固まったままである。

 あの状況に頭が追い付いていないからだろうが。

 

「進行を再開する」

 

 反して、この近衛総長である。

 淡々と指示を出し、馬を走らせ始めている。

 どれ程平静なのだ。

 俺もちょっとランテの驚く顔が拝みたくなってくる。

 

「なんだか、どうにかなったみたいですね。一時はどうなる事かと……」

 

 何事もなかったかのように動き出し、竜口谷に入る護送団。

 その平和の証明に、パースは胸を撫でおろしていた。

 確かに、無事に済んで良かったのだが、何かが台無しになったような、一抹の不安を覚える。

 その不安を具体化するならば、俺はあの竜王たちの御前でどんな顔をすれば良いのか、という事である。

 

「あの2人は変わりませんね」

 

 不意に、ムラマサの囁きが耳に届いた。

 

「ムラマサはあの2体に会った事があるのか?」

「以前この国へ立ち寄った時に、ですね。不名誉にも不審者として捕まり、あいつらの前まで連れていかれました」

「……何をしたんだ?」

「悪い事はしてませんよ。歴代ムラマサの作品を回収して、さっさと出ていこうとしただけです。そしたら検問されまして、馬車の中は見せられないと突っぱねていたら、問答無用で逮捕ですよ」

 

 ムラマサには悪いが、それは捕まる。

 検問がしっかり仕事した結果だ。

 

「逮捕されて、それでどうやってあの王様たちの前に?」

「おかしい証言ばかりだと、尋問官からの報告が行ったそうで。興味を覚えたらしいあの2人に呼ばれました」

 

 尋問官はどうやら、ムラマサの証言を信じなかったみたいだ。

 正直、俺も聖剣デュランダルの件がなかったら、まだムラマサを襲名したという事に疑いを持っていただろう。

 そういう証拠がない故、疑われてしまうのは必然だ。

 

「結局、最終的にどうなったんだ?」

「2人がボクの無罪を証言してくれたため、なんとか解放されました」

 

 意外にも、王たちはムラマサを信じたのか。

 どういう経緯で信頼を勝ち取ったのか、多少気にはなる。

 が、王たちだけとのやり取りだ。あまり深く聞かない方が良いだろう。

 うっかりムラマサの口からミナ・ミヌエーラの機密事項など滑ろうものなら、俺が厄介事に巻き込まれてしまう。

 

 危機回避のためにその話題には触れず、無難な会話で退屈を紛らわせた。

 そして幾ばくかすれば、ようやく竜口谷の出口に辿り着く。

 

「検問だ!大人しく止まり、積み荷を改めさせてもらおう!」

 

 グウィバーが言っていた通り、出口には衛兵が何人か待機していた。

 当然だが、皆背が低いのに髭がたくましい。

 ドワーフの成人男性であると、分かりやすく証明していたのだ。

 そうしてドワーフの衛兵たちがランテから事情を聴き取りつつ、馬車の中を改めていく。

 拉致被害者に衛兵の知り合いでも居たのか、途中でドワーフたちが涙しながら抱きしめ合っていた。

 そんな心温まる出来事が繰り広げられたりしたが、検問を順調に進む。

 しかし、その順調な進みはとあるところで切れる。

 

「待った!その馬車の検問は待ってください!」

 

 検問がある馬車に差しかかったところで、ムラマサが慌てて待ったをかけたのだ。

 その馬車は、ムラマサの所有馬車。

 ムラマサの私物が積み込まれている馬車だ。

 ならば、ムラマサが待ったをかけるのも無理はない。

 推測ではあるが、あの馬車の中身はムラマサが流出したくない技術の宝庫だろう。

 

「『待った』って。これは検問だ、個人の都合は考慮してやれんよ」

 

 至極尤もな弁である。

 個人の都合で検問を免除できるなら、検問の意味がない。

 

「個人の都合ではないんですよ!ちょっと待ちなさい、証書を出しますので!」

「検問を免除する証書か?フィグ様から聞いてないぞ?」

「とにかく待ってなさい!」

 

 検問の衛兵は困り果てながら、所有馬車を漁るムラマサを監視していた。

 悪事の証拠を隠滅していないか、その所作を見逃さぬようにしていたのだ。

 漁るのを許す辺り優しいが、少しでも怪しければ逮捕できるという計算高さも兼ね備えている。

 さすが、検問を任されているミナ・ミヌエーラの衛兵だ。

 

「これ、これです!ゴッホとグウィバー直筆の証書!」

「は?お前、王様の直筆なんてある訳……。おい、みんな集まれ」

 

 ムラマサから紙を1枚手渡された衛兵が、紙面を覗いた瞬間に血相を変えた。

 他の衛兵も集め、その紙を見つめている。

 

「……紅竜王陛下と白竜王陛下の証印、だよな?」

「間違いない。こんな精巧な印鑑は、陛下たちの物だけだ」

「マジかよ……」

 

 見つめた衛兵たちが揃って、驚愕を露にしていた。

 それだけあり得ない証書だと言うのか。

 

「し、失礼しました、ムラマサ様!陛下両名により検問が免除されている事を確認しました!ご自由にお通りください!」

 

 しかも態度まで一変していた。

 どんだけ効力がある書面なのだ。

 

「分かれば良いんですよ」

 

 証書を返されたムラマサは、無駄に威張ってパースの馬車に戻ってくる。

 

「……お前って、凄い奴だったんだな」

 

 何に感心したのか、ムラマサの凄さを認識するリカルド。

 彼にムラマサはない胸を張って鼻を鳴らすのだった。

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