100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
偉大なる
「止めろおおおおお!死にたくない、死にたくなああああああい!!」
だってもう威厳も何もなく泣き叫んでるんだもん。
その威光に恐れをなした俺たちの気持ちを返してほしい。
「お騒がせしちゃってごめんなさいね。私たちは
そんな偉大だった王を抱えて飛び上がる
口調と声音から、性別は雌なのだろう。
それにしても、こちらも緊張感と言うか、威圧感がないので王様って感じがしない。
「あ、それと。検問は専門の衛兵が
色々と親切に応対してから、白竜王グウィバーは飛び立っていった。
脅威は去ったのに、護送団は固まったままである。
あの状況に頭が追い付いていないからだろうが。
「進行を再開する」
反して、この近衛総長である。
淡々と指示を出し、馬を走らせ始めている。
どれ程平静なのだ。
俺もちょっとランテの驚く顔が拝みたくなってくる。
「なんだか、どうにかなったみたいですね。一時はどうなる事かと……」
何事もなかったかのように動き出し、竜口谷に入る護送団。
その平和の証明に、パースは胸を撫でおろしていた。
確かに、無事に済んで良かったのだが、何かが台無しになったような、一抹の不安を覚える。
その不安を具体化するならば、俺はあの竜王たちの御前でどんな顔をすれば良いのか、という事である。
「あの2人は変わりませんね」
不意に、ムラマサの囁きが耳に届いた。
「ムラマサはあの2体に会った事があるのか?」
「以前この国へ立ち寄った時に、ですね。不名誉にも不審者として捕まり、あいつらの前まで連れていかれました」
「……何をしたんだ?」
「悪い事はしてませんよ。歴代ムラマサの作品を回収して、さっさと出ていこうとしただけです。そしたら検問されまして、馬車の中は見せられないと突っぱねていたら、問答無用で逮捕ですよ」
ムラマサには悪いが、それは捕まる。
検問がしっかり仕事した結果だ。
「逮捕されて、それでどうやってあの王様たちの前に?」
「おかしい証言ばかりだと、尋問官からの報告が行ったそうで。興味を覚えたらしいあの2人に呼ばれました」
尋問官はどうやら、ムラマサの証言を信じなかったみたいだ。
正直、俺も聖剣デュランダルの件がなかったら、まだムラマサを襲名したという事に疑いを持っていただろう。
そういう証拠がない故、疑われてしまうのは必然だ。
「結局、最終的にどうなったんだ?」
「2人がボクの無罪を証言してくれたため、なんとか解放されました」
意外にも、王たちはムラマサを信じたのか。
どういう経緯で信頼を勝ち取ったのか、多少気にはなる。
が、王たちだけとのやり取りだ。あまり深く聞かない方が良いだろう。
うっかりムラマサの口からミナ・ミヌエーラの機密事項など滑ろうものなら、俺が厄介事に巻き込まれてしまう。
危機回避のためにその話題には触れず、無難な会話で退屈を紛らわせた。
そして幾ばくかすれば、ようやく竜口谷の出口に辿り着く。
「検問だ!大人しく止まり、積み荷を改めさせてもらおう!」
グウィバーが言っていた通り、出口には衛兵が何人か待機していた。
当然だが、皆背が低いのに髭がたくましい。
ドワーフの成人男性であると、分かりやすく証明していたのだ。
そうしてドワーフの衛兵たちがランテから事情を聴き取りつつ、馬車の中を改めていく。
拉致被害者に衛兵の知り合いでも居たのか、途中でドワーフたちが涙しながら抱きしめ合っていた。
そんな心温まる出来事が繰り広げられたりしたが、検問を順調に進む。
しかし、その順調な進みはとあるところで切れる。
「待った!その馬車の検問は待ってください!」
検問がある馬車に差しかかったところで、ムラマサが慌てて待ったをかけたのだ。
その馬車は、ムラマサの所有馬車。
ムラマサの私物が積み込まれている馬車だ。
ならば、ムラマサが待ったをかけるのも無理はない。
推測ではあるが、あの馬車の中身はムラマサが流出したくない技術の宝庫だろう。
「『待った』って。これは検問だ、個人の都合は考慮してやれんよ」
至極尤もな弁である。
個人の都合で検問を免除できるなら、検問の意味がない。
「個人の都合ではないんですよ!ちょっと待ちなさい、証書を出しますので!」
「検問を免除する証書か?フィグ様から聞いてないぞ?」
「とにかく待ってなさい!」
検問の衛兵は困り果てながら、所有馬車を漁るムラマサを監視していた。
悪事の証拠を隠滅していないか、その所作を見逃さぬようにしていたのだ。
漁るのを許す辺り優しいが、少しでも怪しければ逮捕できるという計算高さも兼ね備えている。
さすが、検問を任されているミナ・ミヌエーラの衛兵だ。
「これ、これです!ゴッホとグウィバー直筆の証書!」
「は?お前、王様の直筆なんてある訳……。おい、みんな集まれ」
ムラマサから紙を1枚手渡された衛兵が、紙面を覗いた瞬間に血相を変えた。
他の衛兵も集め、その紙を見つめている。
「……紅竜王陛下と白竜王陛下の証印、だよな?」
「間違いない。こんな精巧な印鑑は、陛下たちの物だけだ」
「マジかよ……」
見つめた衛兵たちが揃って、驚愕を露にしていた。
それだけあり得ない証書だと言うのか。
「し、失礼しました、ムラマサ様!陛下両名により検問が免除されている事を確認しました!ご自由にお通りください!」
しかも態度まで一変していた。
どんだけ効力がある書面なのだ。
「分かれば良いんですよ」
証書を返されたムラマサは、無駄に威張ってパースの馬車に戻ってくる。
「……お前って、凄い奴だったんだな」
何に感心したのか、ムラマサの凄さを認識するリカルド。
彼にムラマサはない胸を張って鼻を鳴らすのだった。