100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「護送団の皆さま、ラビリンシアよりよくぞお越しくださいました」
脇目も振らず目的地へ直行したラビリンシアの護送団。
そんな俺たちを目的地であるミナ・ミヌエーラの首都、シムルアムビスの城門で、1人の男性ドワーフに出迎えられた。
身なりの良さからして、位の高い文官だろうか。
「貴公は」
護送団の代表者として、ランテがその文官へ口を開いた。
にしても口数が少ない。
口の達者さから考えると、パースの方が代表者に適している気がする。
「申し遅れました。私はフィグ・ドール。主に我が国の人や物の出入りを帳簿に付けている、一端の文官でございます。入国者の管理も管轄という事で、此度は私が王宮までの案内役を仰せつかりました」
俺の読み通り、出迎えたドワーフは文官だった。
しかも複数分野を噛んでいる文官だ。
物の出入りと人の出入りは同じ物として扱っていけないのだが、文官フィグは両方担当している。
仕事ができるという事か。
やはり、なかなか位が高そうだ。
「まずは……。すみませんが、王宮より先に拉致被害者の方々をお預かりしたいかと。少し陛下らは公務が立て込んでおりますので……」
居たたまれない様子で、フィグはゴッホとグウィバーへの謁見を後にするようお願いしてきた。
王の公務であるなら何事にも優先すべき事であるから、フィグがそう罪悪感を抱く必要はないのだが。
「止めろおおおおおおおおおお!!!!嫌だああああああああああああ!!!!」
まだ遠いはずの王宮から響いた声で、その罪悪感の正体が割れた。
国王陛下が予防接種を嫌がっているせいで、公務が立て込んでいるのだ。
そんな不甲斐ない正体を晒したくはなかったのだろう。
残念ながら、国王陛下の叫びで正体が暴かれてしまったのだが。
おかげで、フィグの居たたまれない様子に拍車がかかっている。
というか、入国してから数日経っているのだが、ゴッホはその間も抗い続けていたのか。
「拉致被害者を預ける場所まで、案内を頼む」
ランテはフィグを哀れんでか、平静にフィグの願いを呑んだ。
いつも平静なせいで本当に哀れんでいるのかは、全くと言って不明である。
「かしこまりました。では、こちらへ」
フィグは額に浮かぶ汗を拭いながら、護送団を先導し始めた。
フィグの足が向けられた先は、
「こちら、拉致被害者の名簿です」
「おお!わざわざ名前を書き出しておいてくれたのですか」
官邸の広い庭園で、パースがフィグに紙束を手渡した。
それが、拉致被害者たちの名前を聞いて書き連ねておいた、拉致被害者の名簿だ。
出身の町まで細かく明記してあるのだが、それにしてもその紙束は厚い。
拉致被害者の多さが改めて窺えるだろう。
「ふむ。行方不明とされていた者ばかりですね……」
フィグは紙束を読み取り、神妙な顔をしていた。
同族が多く拉致されていた事の怒りか、はたまたこれ程拉致を許してしまった不甲斐なさか。
そういう煮え切らない感情をフィグは抱えていそうだ。
「……こんなに多くのドワーフを連れ帰っていただき、真にありがとうございました。僭越ながら、ミナ・ミヌエーラを守る文官の一員として、御礼申し上げます」
「いえいえ。私は連れ帰ってきただけでしてね。むしろ、彼らの救出時には役立てていないんですよぉ」
フィグに深々と下げられた頭を下げられ、苦笑するパース。
ヴァンに眠らされてしまった彼としては、お礼を受け取るに忍びないらしい。
「では、実際に救出してくれた方々は?」
「あそこに居ます勇者テノールと、冒険者リカルドです」
「ほう!勇者様と冒険者様が!」
フィグから本当の功績者を問われたところで、これ幸いにと、パースはこちらに仕向けた。
仕向けられたフィグは笑顔で近付いてくる。
リカルドは身構えているが、俺は万全の態勢で待ち構えるのだ。
俺の名声をミナ・ミヌエーラにまで広める良い機会である。
(お前の頭はそればっかりだな)
『そればっかり』とはなんだ。名声以外にも、ちゃんと金や女の事は頭に入っている。
(もっと駄目なもんが詰まってんな、そりゃ)
全く何を『駄目』と称しているのか分からん。エクスカリバーとは価値観が違いすぎる。
これでは話し合うだけ無駄だ。
「音に聞こえた勇者様よ!聖剣エクスカリバーの担い手よ!貴方の活躍は隣国であるミナ・ミヌエーラにも届いております」
「勇者の名に恥じぬ働きをしているまでです」
俺を褒め称えるフィグ。
勇者に会えて感激したのか、彼は俺が差し出す前に手を取って握りしめる。
「ああ、噂通りの謙虚にして潔白なお方だ。ですが、深く感謝します。貴方様は種族の壁を越え、ドワーフをお救いくださった」
感激のあまり、フィグの握る力がどんどん強くなっていく。
「本当に本当に、貴方は人類を守る、魔物の壁だ」
「あの……。そ、そろそろ手を……」
「おっと!申し訳ない。ついついはしゃいでしまいました」
さすがに痛くなってきたので指摘すれば、フィグは俺の手を放してくれた。
照れたように後頭部をかくフィグ。
俺を強く支持してくれるのは良いが、握る力は考えてほしい。
不興を買いたくないから黙っているが、手がまだ痛い。
(……なるほどな)
急にエクスカリバーが1人で納得してるんだが。
何かあったか。
(いや、なんでもねぇよ。今はまだ、な)
意味深長な物言いだが、おそらくかっこつけているだけだろう。
構うだけ損だ。
「ほう!かの武神が使っていた聖剣に選ばれたと?」
「え、ええ。偶然なんですけどね」
「素晴らしい!では実質勇者様であり、勇者様2人にドワーフはお救い頂けたのか!」
エクスカリバーに注意を割いている内に、フィグはリカルドと話をしていた。
あっちでも勝手に手を握り、振り回すように握手をしている。
そんなフィグの扱いに困ったリカルドは、ただ引きつった笑いを零しているのだった。