100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第五節 溢れる感情

「護送団の皆さま、ラビリンシアよりよくぞお越しくださいました」

 

 脇目も振らず目的地へ直行したラビリンシアの護送団。

 そんな俺たちを目的地であるミナ・ミヌエーラの首都、シムルアムビスの城門で、1人の男性ドワーフに出迎えられた。

 身なりの良さからして、位の高い文官だろうか。

 

「貴公は」

 

 護送団の代表者として、ランテがその文官へ口を開いた。

 にしても口数が少ない。

 口の達者さから考えると、パースの方が代表者に適している気がする。

 

「申し遅れました。私はフィグ・ドール。主に我が国の人や物の出入りを帳簿に付けている、一端の文官でございます。入国者の管理も管轄という事で、此度は私が王宮までの案内役を仰せつかりました」

 

 俺の読み通り、出迎えたドワーフは文官だった。

 しかも複数分野を噛んでいる文官だ。

 物の出入りと人の出入りは同じ物として扱っていけないのだが、文官フィグは両方担当している。

 仕事ができるという事か。

 やはり、なかなか位が高そうだ。

 

「まずは……。すみませんが、王宮より先に拉致被害者の方々をお預かりしたいかと。少し陛下らは公務が立て込んでおりますので……」

 

 居たたまれない様子で、フィグはゴッホとグウィバーへの謁見を後にするようお願いしてきた。

 王の公務であるなら何事にも優先すべき事であるから、フィグがそう罪悪感を抱く必要はないのだが。

 

「止めろおおおおおおおおおお!!!!嫌だああああああああああああ!!!!」

 

 まだ遠いはずの王宮から響いた声で、その罪悪感の正体が割れた。

 国王陛下が予防接種を嫌がっているせいで、公務が立て込んでいるのだ。

 そんな不甲斐ない正体を晒したくはなかったのだろう。

 残念ながら、国王陛下の叫びで正体が暴かれてしまったのだが。

 おかげで、フィグの居たたまれない様子に拍車がかかっている。

 

 というか、入国してから数日経っているのだが、ゴッホはその間も抗い続けていたのか。

 

「拉致被害者を預ける場所まで、案内を頼む」

 

 ランテはフィグを哀れんでか、平静にフィグの願いを呑んだ。

 いつも平静なせいで本当に哀れんでいるのかは、全くと言って不明である。

 

「かしこまりました。では、こちらへ」

 

 フィグは額に浮かぶ汗を拭いながら、護送団を先導し始めた。

 フィグの足が向けられた先は、竜心(りゅうしん)王宮の傍に建つ、高官たちの仕事場である官邸だったのだ。

 

 

 

「こちら、拉致被害者の名簿です」

「おお!わざわざ名前を書き出しておいてくれたのですか」

 

 官邸の広い庭園で、パースがフィグに紙束を手渡した。

 それが、拉致被害者たちの名前を聞いて書き連ねておいた、拉致被害者の名簿だ。

 出身の町まで細かく明記してあるのだが、それにしてもその紙束は厚い。

 拉致被害者の多さが改めて窺えるだろう。

 

「ふむ。行方不明とされていた者ばかりですね……」

 

 フィグは紙束を読み取り、神妙な顔をしていた。

 同族が多く拉致されていた事の怒りか、はたまたこれ程拉致を許してしまった不甲斐なさか。

 そういう煮え切らない感情をフィグは抱えていそうだ。

 

「……こんなに多くのドワーフを連れ帰っていただき、真にありがとうございました。僭越ながら、ミナ・ミヌエーラを守る文官の一員として、御礼申し上げます」

「いえいえ。私は連れ帰ってきただけでしてね。むしろ、彼らの救出時には役立てていないんですよぉ」

 

 フィグに深々と下げられた頭を下げられ、苦笑するパース。

 ヴァンに眠らされてしまった彼としては、お礼を受け取るに忍びないらしい。

 

「では、実際に救出してくれた方々は?」

「あそこに居ます勇者テノールと、冒険者リカルドです」

「ほう!勇者様と冒険者様が!」

 

 フィグから本当の功績者を問われたところで、これ幸いにと、パースはこちらに仕向けた。

 仕向けられたフィグは笑顔で近付いてくる。

 リカルドは身構えているが、俺は万全の態勢で待ち構えるのだ。

 俺の名声をミナ・ミヌエーラにまで広める良い機会である。

 

(お前の頭はそればっかりだな)

 

 『そればっかり』とはなんだ。名声以外にも、ちゃんと金や女の事は頭に入っている。

 

(もっと駄目なもんが詰まってんな、そりゃ)

 

 全く何を『駄目』と称しているのか分からん。エクスカリバーとは価値観が違いすぎる。

 これでは話し合うだけ無駄だ。

 

「音に聞こえた勇者様よ!聖剣エクスカリバーの担い手よ!貴方の活躍は隣国であるミナ・ミヌエーラにも届いております」

「勇者の名に恥じぬ働きをしているまでです」

 

 俺を褒め称えるフィグ。

 勇者に会えて感激したのか、彼は俺が差し出す前に手を取って握りしめる。

 

「ああ、噂通りの謙虚にして潔白なお方だ。ですが、深く感謝します。貴方様は種族の壁を越え、ドワーフをお救いくださった」

 

 感激のあまり、フィグの握る力がどんどん強くなっていく。

 

「本当に本当に、貴方は人類を守る、魔物の壁だ」

「あの……。そ、そろそろ手を……」

「おっと!申し訳ない。ついついはしゃいでしまいました」

 

 さすがに痛くなってきたので指摘すれば、フィグは俺の手を放してくれた。

 照れたように後頭部をかくフィグ。

 俺を強く支持してくれるのは良いが、握る力は考えてほしい。

 不興を買いたくないから黙っているが、手がまだ痛い。

 

(……なるほどな)

 

 急にエクスカリバーが1人で納得してるんだが。

 何かあったか。

 

(いや、なんでもねぇよ。今はまだ、な)

 

 意味深長な物言いだが、おそらくかっこつけているだけだろう。

 構うだけ損だ。

 

「ほう!かの武神が使っていた聖剣に選ばれたと?」

「え、ええ。偶然なんですけどね」

「素晴らしい!では実質勇者様であり、勇者様2人にドワーフはお救い頂けたのか!」

 

 エクスカリバーに注意を割いている内に、フィグはリカルドと話をしていた。

 あっちでも勝手に手を握り、振り回すように握手をしている。

 そんなフィグの扱いに困ったリカルドは、ただ引きつった笑いを零しているのだった。

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