100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第七節 謁見の余興

「お待たせしました、皆さま。国王陛下との謁見準備が整いました」

 

 拉致被害者の引き渡しが終わり、官邸の庭で待つ事幾ばくか。

 ようやくミナ・ミヌエーラ双王陛下との対面である。

 初対面の衝撃は一旦忘れ、気を引き締めねばならない。

 

 玉座の間で謁見が許されたのは、ランテ、パース、俺、リカルド、ムラマサの5名だ。

 交渉事はランテとパースが引き受けてくれるが、王の逆鱗に触れぬよう注意が必要になる。

 正真正銘のドラゴンが相手なので、本物の逆鱗だ。

 比喩表現であるのは変わらないが、とにかくドラゴンを怒らせたくはない。

 

「ここが玉座の間。既に双王陛下の居室にございます。どうか失礼のないよう、お願いいたします」

 

 フィグに案内された、一際豪奢な扉の前。

 この先が紅竜王と白竜王の居る玉座の間。

 気を引き締めたいのだが、初対面の衝撃がちらついて口角が微動する。

 

(あのゴッホの叫びようは面白かったよな)

 

 止めろ。光景を思い出させるな。

 

「護送団代表、ラビリンシア王立近衛兵総長、ランテ・レート。拉致被害についての談義を願いたく、馳せ参じた。同行の4名と共に入室を許されたい」

「……入れ」

 

 ランテが扉を挿んで入室を願う口上を述べれば、奥から許可を出す声が響いた。

 不機嫌そうであるために多少音程が低いが、その声はゴッホのモノで間違いない。

 

「失礼する」

 

 ランテは得た許可を以て、その扉を開け放った。

 俺は扉を潜るランテに続いて入室し、その玉座の間を視界に収める。

 扉と同じように、豪奢な誂えの一室。

 最奥に大きく飾られた、対のドラゴンと山という意匠のミナ・ミヌエーラ国旗。

 そして、2つの玉座に座る、2つの人影。

 

「……え?」

 

 そう。玉座に座っているのはドラゴンではなく、人型の存在だったのだ。

 その奇妙さに、つい俺は驚きを口から漏らした。

 

 玉座に座るのは王だ。

 ならば、ゴッホとグウィバーが座っていなければおかしい。

 なのに、座っているのは人型。

 赤い鎧を着込み、炎のような赤く揺らめく長髪の男性。

 白いドレスを纏い、粉雪のように白く柔らかな長髪の女性。

 そんな2人が玉座に座っているのだ。

 

「謁見の機会を得られた事、感謝する。紅竜王陛下、白竜王陛下」

「は!?」

 

 ランテはその奇妙さを指摘もせず、自然に話を進めた。

 俺は困惑し、目を見開いてしまっている。

 俺だけがおかしいのかと周りを窺えば、俺と似たような反応なのはリカルドだけだった。

 ムラマサは呆れたような視線を俺に投げかけ、パースは失態を犯したかのように手で目を覆っている。

 玉座に座る2人は、笑みを浮かべていた。

 男性は不敵に、女性は微笑ましそうに、である。

 

「そ、その……。じょ、状況をお教え願いたいのですが……」

 

 俺は恥を忍び、状況説明を求めた。

 何がどうなっているのか、全く分からない。

 

「く、くく、くはははははははは!そうだ、我はそのような反応が欲しかったのだ!」

 

 男性はとても楽しそうに笑い声を上げた。

 その声は、扉の前で聞いたのと同じ声。

 つまり、こっちもゴッホのモノなのである。

 

「ま、まさか……。紅竜王陛下で、いらっしゃいますか……?」

「くくくくく。答えは是だ。我が、紅竜王ゴッホであるのだよ」

 

 信じられない。

 だが、王を騙るなんて重罪だ。

 まして、恐ろしきドラゴンの王を騙るなど、できる者は居ないだろう。

 それで、本物らしき紅竜王の隣に女性が居るのだが、彼女の正体は自ずと導き出せる。

 

「で、では……。そちらにいらっしゃるのは、白竜王陛下……?」

「うふふ。なんだかそういう反応されるのも久々ね」

 

 明確な肯定はされなかったが、否定もされなかった。

 とするなら、本物なのだろう。

 

「りょ、両陛下と見抜けず、さらには真偽を疑ってしまった事、真に申し訳ございませんでした!」

 

 俺は即座に膝を突いて首を垂れた。

 国王にして最強格の魔物に無礼を働いたのだ。

 全身全霊で謝らねば、厳罰に処されるかもしれない。

 

「そう畏まるな、勇者テノール。汝の反応に、我は大変満足しておる」

「そうね、私も別に咎めたりはしないわ。ちょっと楽しくなっちゃったくらいですし」

 

 双王の柔和な声音を耳にし、俺は恐る恐る顔を上げる。

 そうして双王の顔を視認すれば、確かに怒った様子はない。

 その様子に安心し、ならば今のこの態度こそ(まず)いのではと、俺は立ち上がる。

 

「さ、騒ぎ立てして、申し訳ありませんでした」

「くく……。構わぬよ。我の機嫌が直る程の喜劇だった故、恩赦を与えよう」

「うふふ。勇者ちゃん可愛いから、今回は大目に見てあげる。なんてね」

 

 どうやら好印象を与えられたようで、双王は甘い対応をしてくれた。

 面白い奴や可愛い子という印象は不本意であるが、その印象で好感度を稼げるなら甘んじよう。

 

「さて、談義の前にこの状況を説明しようではないか。と言っても、一言で済むがな」

「私たちの持つ魔術、『パーソニフィケーション』でヒューマンの姿をとっているだけなのよね」

 

 なるほど。そういう魔術を持っているという事か。

 本当に一言で説明が付いてしまったのである。

 

「人類の国を治めるにあたり、ドラゴンの図体では不都合だったのだ。そのため、とある魔術師の協力の下、ヒューマンの姿になれる魔術を開発したのである」

 

 君臨しているだけでも民は威光に平伏すだろうに、双王はそうしなかったのだ。

 国を治める者として、執政の役も担ったのである。

 ドラゴンがそういう意識に芽生えるのは稀有だろうし、己の姿を変えてまで責任を果たそうとするのは人類でも稀有だろう。

 色んな意味で恐れ多いドラゴンたちだ。

 そんな双王の行いを目の当たりにし、俺は双王に畏敬の念を抱くのだった。

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