100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第八節 賠償の交渉

「話を戻すとしよう。拉致被害についての談義であったな。ラビリンシアの言い分を聞こうではないか」

 

 ゴッホが場の雰囲気を引き締め直した。

 俺が慌てふためいて双王に大目に見てもらうという、茶番のような交流は終わりだ。

 ここからは真面目な話し合いである。

 

「では、護送団代表ランテ・レートに代わりまして、私、ラビリンシア王立近衛兵4番隊隊長パースが交渉役を務めさせていただきます」

「良い。ランテが口下手なのは、我も知るところだ」

 

 交渉役が代表ではない、というのは失礼かもしれないが、ゴッホはその辺りを気にしなかった。

 口数の少ないランテと交渉するよりは、代わりの者でも舌が回る者と交渉したいのだろう。

 というか、ランテとゴッホは以前から面識があるのか。

 竜牙(りゅうが)山脈でもランテを驚かせに来たようだったし。

 

「まずはラビリンシア国王バーニンの(ふみ)を読ませていただきます」

 

 パースは懐より手紙を取り出した。

 その手紙にはラビリンシア王家の家紋を模した封蝋がされており、その封蝋がバーニン王の文である事を証明している。

 パースはゴッホとグウィバーにも封蝋が見えるように掲げてから、封を解いて文書を広げる。

 

「えー、『ミナ・ミヌエーラ国民が拉致され、奴隷とされていた事について、紅竜王(こうりゅうおう)ならびに白竜王(はくりゅうおう)の怒りは計り知れぬものと存じる。同時に、貴国民が我が国で奴隷として取引され得る状況を招いた事、我が不徳の致すところと自覚し、誠心誠意謝罪する所存である。故に、我が国に居る貴国の拉致被害者を捜索し、返還する事に尽力する。今後も貴国との和平を固く誓い、共栄を強く望む』。……以上が文書の内容です」

 

 パースが読み上げた文章は、実に実直さと誠実さが窺えるモノであった。

 もちろん、文章ではなんとでも言えてしまう。

 しかし、現在発見された限りの拉致被害者を護送した事によって、態度は明確に示されているのだ。

 少なくとも、しっかり発見した拉致被害者を返還するという意思は、双王にも伝わっているだろう。

 

「……確認であるが。犯人が魔王軍幹部と言うのは、真か」

 

 ゴッホは神妙な顔つきで問い詰めた。

 固い表情ではないから、誠意は伝わっているのだろう。

 これはあくまで、国を治める者として、話を詰めているだけだ。

 

「物的証拠の提示は、難しいかと」

 

 パースはそう少しぼかしたが、実際は現状不可である。

 物的証拠の提示はできない。

 拉致被害者たちが捕らえられていた拠点には、奴隷取引を証明できる物品がなかったのだ。

 マニの件で確保された契約書も、残念な事にヴァンの名は記されていない。

 署名されているのはどこの誰とも知らない名、ヴァンの偽名だけだった。

 そのため、提示できる物的証拠は1つもない。

 

「ただ、勇者テノールと冒険者リカルドが実行犯のヴァンを目にし、当時の協力者である冒険者1名と近衛兵隊員2名が自白を耳にしております。また、総長を除く4名が犯人の拠点で攻撃を受けました」

 

 証拠もないのでは犯人偽装と取られかねないので、パースは代替品となる証言を提示した。

 だが、その証言者はこの場に4名しか居らず、その内3名はラビリンシア国民。

 自国のためと嘘を吐いている可能性は否めず、証拠としては弱い。

 

「ムラマサ、この者の言葉は真であるか」

 

 しかし、ゴッホは抜け目なかった。

 4名の内1名だけ、ムラマサだけがラビリンシア国民でない事を見抜いていたのだ。

 パースの提示した証言は本当であるか、ムラマサに問う事で確度の高い裏付けが取れる。

 

「本当です。ちなみに言えば、自白を耳にした冒険者ってのがレオナルドです」

「そうか。とするならば、真であろうな」

「そうね。レオナルドちゃんはどこかの国を庇うような事なんてしないわよね」

 

 ムラマサはレオナルドの事も明かし、双王の信頼を勝ち取った。

 さりげなくだが、検問免除の証書を貰っているムラマサはともかく、レオナルドまで双王と面識もあるのか。

 しかも、かなり信じられている。

 ムラマサとその友人たちの人脈がかなり謎だ。

 

「ラビリンシア王国の誠意、しかと確かめさせてもらった。その意思に敬意を表し、不問とする。と、できれば良かったのだが……」

「私たちも国王。打算的な交渉をしなくちゃいけないの」

 

 丸く収まるかと思いきや、そうはいかなかった。

 被害を受けてしまった状態では、相手が完全に悪い訳でなくとも、賠償請求しなくてはいけない。

 それが国を治める者の責務だ。

 申し訳なさそうにしているだけ、双王は優しい方である。

 

「こちらから差し上げられるモノは、この鍛冶師の駐留です」

 

 ここに来て、パースは手土産であるムラマサを差し出した。

 ムラマサも不承不承ではあるが、拒否していない。

 

「ほう、ムラマサの駐留か。鍛冶師の国としては、利益のある話だ。それにしても、汝が手土産とは。さてはラビリンシアでもやらかしたな?」

「人を犯罪者みたいに言わないでくれます?終いにはドラゴン特攻の剣をぶっ刺しますよ」

「くははははははは!汝の剣では我に届くまい!」

 

 ムラマサが凄く不敬な物言いしているのだが、ゴッホは笑って流していた。

 なんでそんなに仲が良いのだ。

 

「ムラマサちゃんの駐留は、ありがたく貰うわ。だけど、もう1つ貰えないかしら」

「……もう1つ、と仰いますと?」

 

 手土産だけでは足らなかった事に苦渋をなめるパースは、恐る恐るグウィバーの要求を訊ねた。

 酷い要求でない事を、パースはきっと願っているだろう。

 

「勇者テノールと冒険者リカルドへの感謝祭を催す権利、下さらない?」

「え?」

「え?」

 

 突拍子もない要求に、俺とリカルドの素っ頓狂な声は奇しくも重なったのだった。

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