100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「勇者テノールと冒険者リカルドへの感謝祭を催す権利、貰えないかしら?」
「え?」
「え?」
ラビリンシアならまだしも、何故ミナ・ミヌエーラで感謝祭を催そうと言うのか。
「拉致の件は、私たちにも非があるのよ。単純に、拉致を許してしまったという非がね」
俺やリカルドが呆け、ランテとパースが静聴しているので、グウィバーは言葉を続けた。
感謝祭開催の意図は、しっかり開示してくれるようだ。
「この非は我らの不信感を煽り得るモノだ。もちろん、国民への説明責任は負う。非難は甘んじて受けよう。しかし、我々は国民が不安に囚われる事を良しとしない」
ゴッホは自身らの国防体勢に不備があったと、そう罪を国民に伝える覚悟があるようだ。
それで不信感を抱かれ、非難を浴びる事も許容する姿勢である。
だが、国民が不安で夜も眠れないというのは許容できない、という事か。
グウィバーもゴッホの意見に頷き、同意している。
「それで、そういう悪い知らせだけで終わるのではなく、ラビリンシアの勇者が私たちを助けてくれたという良い知らせを、大々的に発表したいの」
なるほど。良い知らせで不安を打ち消そうとしているのか。
その良い知らせとして用いられるのが、俺とリカルドという訳だ。
「……総長」
「許可する」
パースがランテにお伺いを立てれば、ランテはパースのお伺いを把握し、即行で許可を出した。
なんのお伺いでなんの許可かは、おおよそ察しが付く。
「護送団代表かつ使いの責任者を代行し、その権限を以てその賠償を呑みます」
やはり、賠償を呑むか否かのお伺いを立てており、しかも賠償を呑んだ。
そういう事だと察していたし、賠償を呑む事も俺は予想していたのだ。
だって、この賠償にラビリンシアが不利になるような賠償ではない。
なら、ラビリンシアに仕える者が呑まないはずはない。
「ちょ、ちょっと待った!俺に拒否権は!?」
これで交渉成立というところで、リカルドが否を唱えた。
自身を抜きにして話が進んでいる事に、リカルドは不服だったのかもしれない。
抜きにされていた理由は、リカルドが呆けて話に付いてきていなかったからなのだが。
「ほう?我より感謝が賜れる事、不満と申すのか?」
「いやいやいやいや!決して不満ではありません紅竜王陛下!むしろ大変光栄でありまして大変身に余る光栄なのでございます!」
ゴッホに睨まれたリカルドは早口で自身の内心を開示した。
ゴッホの怒りを買わぬよう、リカルドは凄く必死である。
対し、ゴッホは怒るどころか、わずかに口角が吊り上がっていた。
このドラゴン、リカルドの必死さを楽しんでいるのだ。
お茶目か。
「テノールちゃんの方は良いかしら?」
まだ会って2回目なのだが、グウィバーはもう俺に『ちゃん』付けしていた。
王にあるまじき距離の詰め方だが、王であるからこそこちらは逆らえない。
まぁ、親密に接してくれるなら、俺としては有り難い。
「拉致を未然に防げなかった身でありながら、感謝を賜れる。その事に付いて幸福に思う反面、罪悪感を覚えます。しかし、両国のためとあらば、喜んで賜りましょう」
なので俺は勇者の態度を取り繕いながら、友好的に話を呑んだ。
元より、褒め称えてくれるのなら喜んで称えられるつもりである。
名声はいくらあっても良いのだ。
「じゃあ決まりね」
「待って!待ってくださいお願いします白竜王陛下!俺の陳述をどうかお聞きください!」
決定を下すグウィバーにまだ食い下がるリカルド。
彼は『コジ記』にも記されている最上の敬礼、『土下座』まで披露していた。
敬礼されている当のグウィバーは、その姿を微笑ましそうに見つめているのだ。
双王揃ってなかなか良い性格をしている。
「リカルドさん」
「な、なんですか……。肩に手を置いて、そんな遠い目をして……」
そんなリカルドの肩に手を置き、パースは自身の方へと振り向かせた。
リカルドは嫌な予感を感じているのか、身を退こうとしている。
だが、リカルドの肩に置かれたパースの手が、リカルドを掴んで放さない。
パースに逃がす気はないのだ、色んな意味で。
「護送団代表かつ使いの責任者を代行し、その権限を以て命じます。ミナ・ミヌエーラで催される感謝祭の主役になってください。この命令は、王命に近い効力を持ちます」
「…………」
ある種犠牲になれとパースから命じられたリカルドは、涙を1筋零しながら固まっていた。
自国に裏切られた今日この日を、リカルドは一生忘れないだろう。
せめて、リカルドの行き先に幸多からん事を、俺は祈っておく。
「うむ、実りある談義であった。理性的かつ協力的に応じてくれた貴国とは、今後とも共栄していく事を誓おう」
「私も。仲良くやりましょうね?」
「もちろんですとも」
双王の暖かいお言葉に、パースが代表して返事をし、俺たちは一同頭を下げた。
リカルドは固まったままだが。
「では、我らは感謝祭の準備に取りかかる。日程は確定次第報告しよう。それまで汝らは王宮にて体を休めよ」
「ご配慮、感謝する」
このゴッホの指示にはランテが答え、退室を促されたものとし、出口へと進む。
皆もまた一礼した後、ランテに続いた。
リカルドはパースに引きずられている。
「あっと、ごめんなさい。テノールちゃんは残ってもらえるかしら?」
「……はい?」
皆と同じように退出しようとしていた俺が、グウィバーに呼び止められた。
まさかの俺だけ居残りに、俺は冷や汗をかくのだった。