100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第九節 交渉の行方

「勇者テノールと冒険者リカルドへの感謝祭を催す権利、貰えないかしら?」

「え?」

「え?」

 

 白竜王(はくりゅうおう)グウィバーのその要求は、俺とリカルドにとって衝撃的なモノであった。

 ラビリンシアならまだしも、何故ミナ・ミヌエーラで感謝祭を催そうと言うのか。

 

「拉致の件は、私たちにも非があるのよ。単純に、拉致を許してしまったという非がね」

 

 俺やリカルドが呆け、ランテとパースが静聴しているので、グウィバーは言葉を続けた。

 感謝祭開催の意図は、しっかり開示してくれるようだ。

 

「この非は我らの不信感を煽り得るモノだ。もちろん、国民への説明責任は負う。非難は甘んじて受けよう。しかし、我々は国民が不安に囚われる事を良しとしない」

 

 ゴッホは自身らの国防体勢に不備があったと、そう罪を国民に伝える覚悟があるようだ。

 それで不信感を抱かれ、非難を浴びる事も許容する姿勢である。

 だが、国民が不安で夜も眠れないというのは許容できない、という事か。

 グウィバーもゴッホの意見に頷き、同意している。

 

「それで、そういう悪い知らせだけで終わるのではなく、ラビリンシアの勇者が私たちを助けてくれたという良い知らせを、大々的に発表したいの」

 

 なるほど。良い知らせで不安を打ち消そうとしているのか。

 その良い知らせとして用いられるのが、俺とリカルドという訳だ。

 

「……総長」

「許可する」

 

 パースがランテにお伺いを立てれば、ランテはパースのお伺いを把握し、即行で許可を出した。

 なんのお伺いでなんの許可かは、おおよそ察しが付く。

 

「護送団代表かつ使いの責任者を代行し、その権限を以てその賠償を呑みます」

 

 やはり、賠償を呑むか否かのお伺いを立てており、しかも賠償を呑んだ。

 そういう事だと察していたし、賠償を呑む事も俺は予想していたのだ。

 だって、この賠償にラビリンシアが不利になるような賠償ではない。

 なら、ラビリンシアに仕える者が呑まないはずはない。

 

「ちょ、ちょっと待った!俺に拒否権は!?」

 

 これで交渉成立というところで、リカルドが否を唱えた。

 自身を抜きにして話が進んでいる事に、リカルドは不服だったのかもしれない。

 抜きにされていた理由は、リカルドが呆けて話に付いてきていなかったからなのだが。

 

「ほう?我より感謝が賜れる事、不満と申すのか?」

「いやいやいやいや!決して不満ではありません紅竜王陛下!むしろ大変光栄でありまして大変身に余る光栄なのでございます!」

 

 ゴッホに睨まれたリカルドは早口で自身の内心を開示した。

 ゴッホの怒りを買わぬよう、リカルドは凄く必死である。

 対し、ゴッホは怒るどころか、わずかに口角が吊り上がっていた。

 このドラゴン、リカルドの必死さを楽しんでいるのだ。

 お茶目か。

 

「テノールちゃんの方は良いかしら?」

 

 まだ会って2回目なのだが、グウィバーはもう俺に『ちゃん』付けしていた。

 王にあるまじき距離の詰め方だが、王であるからこそこちらは逆らえない。

 まぁ、親密に接してくれるなら、俺としては有り難い。

 

「拉致を未然に防げなかった身でありながら、感謝を賜れる。その事に付いて幸福に思う反面、罪悪感を覚えます。しかし、両国のためとあらば、喜んで賜りましょう」

 

 なので俺は勇者の態度を取り繕いながら、友好的に話を呑んだ。

 元より、褒め称えてくれるのなら喜んで称えられるつもりである。

 名声はいくらあっても良いのだ。

 

「じゃあ決まりね」

「待って!待ってくださいお願いします白竜王陛下!俺の陳述をどうかお聞きください!」

 

 決定を下すグウィバーにまだ食い下がるリカルド。

 彼は『コジ記』にも記されている最上の敬礼、『土下座』まで披露していた。

 敬礼されている当のグウィバーは、その姿を微笑ましそうに見つめているのだ。

 双王揃ってなかなか良い性格をしている。

 

「リカルドさん」

「な、なんですか……。肩に手を置いて、そんな遠い目をして……」

 

 そんなリカルドの肩に手を置き、パースは自身の方へと振り向かせた。

 リカルドは嫌な予感を感じているのか、身を退こうとしている。

 だが、リカルドの肩に置かれたパースの手が、リカルドを掴んで放さない。

 パースに逃がす気はないのだ、色んな意味で。

 

「護送団代表かつ使いの責任者を代行し、その権限を以て命じます。ミナ・ミヌエーラで催される感謝祭の主役になってください。この命令は、王命に近い効力を持ちます」

「…………」

 

 ある種犠牲になれとパースから命じられたリカルドは、涙を1筋零しながら固まっていた。

 自国に裏切られた今日この日を、リカルドは一生忘れないだろう。

 せめて、リカルドの行き先に幸多からん事を、俺は祈っておく。

 

「うむ、実りある談義であった。理性的かつ協力的に応じてくれた貴国とは、今後とも共栄していく事を誓おう」

「私も。仲良くやりましょうね?」

「もちろんですとも」

 

 双王の暖かいお言葉に、パースが代表して返事をし、俺たちは一同頭を下げた。

 リカルドは固まったままだが。

 

「では、我らは感謝祭の準備に取りかかる。日程は確定次第報告しよう。それまで汝らは王宮にて体を休めよ」

「ご配慮、感謝する」

 

 このゴッホの指示にはランテが答え、退室を促されたものとし、出口へと進む。

 皆もまた一礼した後、ランテに続いた。

 リカルドはパースに引きずられている。

 

「あっと、ごめんなさい。テノールちゃんは残ってもらえるかしら?」

「……はい?」

 

 皆と同じように退出しようとしていた俺が、グウィバーに呼び止められた。

 まさかの俺だけ居残りに、俺は冷や汗をかくのだった。

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