100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十一節 面倒事の予約

 老人と若い女性冒険者からの聞き取り調査は、彼らが席を離れた事で終了となった。

 どうやら、依頼掲示板に張り出されるだろうパースが持ってきた依頼を待つようだ。

 他の冒険者も、掲示板の近くに座り直している。

 重要な依頼って報酬が高いだろうし、競争率も高そうだなぁ。

 

 そんな冒険者が気を張り巡らせている中、奥からパースが戻ってきた。

 その後ろには冒険者組合員も居り、その組合員は掲示板におそらく依頼書だろう紙を貼る。

 その瞬間に、冒険者はこぞって掲示板に群がった。

 これ、掲示板見に行けんな。なら、持ってきた本人に訊こう。

 

「パースさん」

「ん?おや、テノールさんではありませんか。こんなところで会えるとは、奇遇ですね」

 

 組合の扉に手をかけていたパースが回れ右し、俺の対面に腰かけた。

 いや、別に立ち話でも良かったんだが?もしかして(てい)の良い休憩に使われたかな?

 

「私は仕事だったのですが、テノールさんはどのような用件でここに?」

「組合の視察と銘打って、気まぐれに立ち寄っただけです」

「おやおや、余暇だというのに冒険者の戦力調査とは。精が出ますね」

 

 俺にとって都合が良いにしても、それはいったいどんな解釈の仕方なんだ。

 

「ところで。お仕事と言いますと、国からの依頼書を運ばれたのですか?」

「我が隊の仕事をご存知でしたか。いやぁいつもは隊員、重要な物でも副隊長に任せてるんですけどねぇ。今回はどうしてもお前が運べと、ランテ総長殿から直々に仕事を賜りまして。さすがの私も総長に睨まれては、仕事を部下に押し付けられません」

 

 やれやれって肩(すく)めてるがお前、総長に睨まれてなきゃ部下に押し付ける気だったのかよ。仕事しろ、4番隊隊長。

 

「総長の指名という事は、それ程に重要な依頼だったと?」

「そんな大した物ではありませんよ。ダンジョン調べて来いっていうだけの依頼ですからね」

「いや、それはかなり重要でしょう」

 

 この男は色々と大丈夫なのか。……仕事はできているから大丈夫なんだろうな。

 

 ダンジョン、それは魔物の巣窟だ。

 自然の魔力が流れる経路、地脈。そしてその地脈から魔力が溢れる箇所、地脈穴(ちみゃくけつ)

 この地脈穴が長く維持されると、その場の魔力濃度が上がり、結果として魔物が発生しやすい状態となる。

 つまり、ダンジョンを放置すれば魔物が大量に野へ放たれるのだ。目の前の男のように、気軽に構えていて良い事柄ではない。

 

「重要と言ってもねぇ。こうやって依頼を出せば、冒険者たちが有り難く対処してくれますし」

「それもそうなのですが……」

 

 確かに、冒険者にとってダンジョンは有り難い代物だ。

 何故ならば、ダンジョンは魔力石や魔術石の原料である魔力結晶の鉱脈だからだ。

 魔力結晶は魔力濃度が高いところでよく採掘される。

 自然、地脈穴が長く維持されたダンジョンでも魔力結晶がたくさん採掘される。

 そして、魔力結晶は魔力石や魔術石の原料だけあって、どこでも高値で取引される。

 以上の事から、ダンジョンは冒険者にとって宝の山に等しい。もちろん、大量の魔物から生き延びられればの話だが。

 

「俺もダンジョン調査の依頼を受けるかな……」

 

 冒険者組合本部に集っている冒険者とはいえ、いささか心配だ。

 ……別に、魔力結晶鉱脈で一儲けしたいなんて事はない。

 

「今は控えた方が良いじゃないかと」

「……どうしてですか?」

 

 パースからまさかの制止をかけられ、俺は目付きを鋭くした。

 ……別に、金儲けを止められて怒った訳ではない。

 

「ここだけの話なんですが。そのダンジョン、ちょっと様子がおかしいんですよ」

「様子がおかしい?」

 

 パースは声を潜め、俺だけに聞こえるようしていた。

 聞き耳をはばかる様子のおかしさとは、いったいどんな様子なのか。

 

「魔物、全然出てこないんですよね」

「……は?」

 

 前述の通り、ダンジョンとは魔物の巣窟だ。

 魔物の発生法則ついて、魔色が濃い場所で発生する以上の事は解明されていない。だから、発生の抑制方法も知られていない。

 では、魔力の濃い場所であるダンジョンで魔物の発生を抑制されているなど、果たしてあり得るだろうか。

 

「何かあるのは確定なんで、冒険者たちに斥候してほしいってのが国の方針です」

「未知の場所に勇者は放り込めないと?」

 

 今まで散々色んな面倒事に放り込んでおきながら?

 

「お気持ちは分からないでもないですが、どうかご自身の立場を鑑みてください。貴方、この国の勇者なんですから。失ったら堪ったもんじゃない」

「……」

 

 勇者の希少価値なんて、俺自身が最も鑑みている。今更手のひら返したように大事にされると、裏がありそうで怖いのだ。

 

「探索が進み次第駆り出されるでしょうから、それまでの辛抱ですよ」

 

 ほらね!?やっぱりこうなるんだよ!

 

「……承知しました。我慢します」

 

 後になって駆り出される面倒臭さを我慢します。

 

「それでは、私はこの辺で」

 

 パースは組合から颯爽と立ち去った。

 

(良かったじゃねぇか、ダンジョンで一儲けできるぜ?どう考えても厄介そうなダンジョンでな!)

 

 聖剣をぶん投げたい衝動に駆られるが、人目が多いので耐えるしかない。

 ダンジョン探索依頼の取り合いで浮かれる冒険者たちが、なんとも恨めしくなってくる。

 

 そうして、面倒臭さや恨めしさに歯を食いしばりながら、俺は冒険者組合を後にするのだった。

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