100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十節 王の問答、勇者の解答

 炎のような赤い長髪で鎧を着込む紅竜王ゴッホと、粉雪のような白い長髪でドレスを纏う白竜王グウィバー。

 そんな2人が座する玉座の間に、俺1人だけが残された。

 双王が人の大きさまで縮んではいるが、その威圧感というか、荘厳さは健在である。

 俺は気圧されてしまいそうだ。

 

「そう固くなるな、と言ったところで無理だろうな」

「警戒されちゃうのは少し悲しいけど、当然の対応よね」

 

 助かった事に、双王は俺のこの気圧されそうな面持ちも寛容に扱ってくれた。

 ならば何故こんな警戒心を煽る状況を作り出したのか、問い詰めたいところだ。

 

「汝だけ残したのは、汝の持つ聖剣について問答したいからだ」

「……聖剣エクスカリバーについて、ですか?」

 

 俺だけ残してしたい話が聖剣エクスカリバーについて。

 とすると、双王は聖剣エクスカリバーの真実を知っているのかもしれない。

 ムラマサ以来の関門だ。

 その真実を明かさぬようにと、どうやって双王の口を塞げば良いのか。

 

「その聖剣エクスカリバーに、違和感を覚えた事はないか?」

 

 俺が内心頭を悩ましているのを他所に、問答は開始される。

 しかも、最初から核心を突いてきた。

 俺は答えに窮し、沈黙する。

 

「……違和感を覚えているようだな」

 

 沈黙してしまえば、そう解釈されてしまうだろう。

 それはそうだ。

 違和感を覚えていないのなら、すぐにでも否定するはずである。

 これはもう駄目だな。隠し通せる状態ではない。

 

「……白状させていただきますと、違和感を覚えています。伝説にある勇者アルトの聖剣と、俺が手にした聖剣エクスカリバーは違うのではないかと」

「で、あろうな……」

 

 俺の白状を受け、ゴッホは嘆息していた。

 その目は俺を憐れんでいるかのようである。

 

「私たちも違和感を覚えているのよね。だって、初めに聞いた勇者アルトの聖剣と、名前が違うのだもの」

「名前が、違う?」

 

 グウィバーの告白に首を傾けつつ、俺はひっそりと安堵していた。

 名前が違うという事は、実在はしていたという事だ。

 そして、それは勇者アルトの伝説がおおよそ本当だったという確証にも繋がる。

 勇者アルトの伝説が本当であるなら、俺が勇者になった前提の話は、しっかり成立しているのだ。

 そのため、勇者剥奪の可能性は極めて低いと、安堵したのである。

 そしてもう1つ、俺が安堵している要因がある。

 

(話し出しがそれって事は、おそらく聖剣エクスカリバーが魂を宿した武器である事、少なくともエクスカリバーの人格は知らないな)

 

 俺の本性を暴かれかねないエクスカリバーの真実。

 俺が本来口封じしようとしていた事項については、心配いらなかったようだ。

 これで不安なく双王と話せる。

 

「我らが勇者アルトの活躍を耳にし始めた時、かの者が持つ聖剣は、聖剣カリバーンだとされていた」

「聖剣カリバーン!」

 

 ゴッホが言及した勇者アルトの剣に、俺は目を見開いた。

 ムラマサが言っていた、歴代ムラマサの作品。ラビリンシアにある内の1つとして、その名は上がっていたのだ。

 こんなところでその名をまた聞く事になるとは、実に数奇である。

 

「聞き覚えはあるみたいね」

「聞き覚えがあるだけで、どこにあってどんな剣なのかは全くですが」

「そう……」

 

 グウィバーからも、憐れみの目が向けられた。

 双王の中で、何か俺の不憫な点を見つけてしまっているのか。

 バーニン王の使い走りであるのは自覚する不憫な点だが、それ以外は見当付かない。

 

「いつかのラビリンシア王が聖剣エクスカリバーとすり替え、聖剣カリバーンを隠したか」

 

 ゴッホがかなりそれらしい推理を語った。

 確かに、新たな勇者を擁立するためとはいえ、王家に伝わる宝剣にして聖剣を手放すとは思えない。

 用意したか、偶然手に入れたか。同じ聖剣である聖剣エクスカリバーとすり替えた。

 そして、王家はまだ勇者アルトの剣を保持しているのだろう。

 

「貴方は、騙されているという事ね……」

 

 グウィバーの呟きで、俺は双王の憐れみを理解した。

 双王は、俺がラビリンシアに騙され、良いように使われている悲しい人間と捉えているのだ。

 使い走りって意味では合っているのが、なんとも言えない。

 だが、これは俺が厳格な勇者であると印象付ける好機だ。

 

「騙されていたのかも、しれませんね。でも、俺はそれでも構いません」

「如何にしてそう思う、憐れな人の子よ」

「俺が、力を得られたからです。勇者となる、力を」

 

 俺はゴッホの憐れみに対峙する。

 その悲しき目に、俺は真っ正面から見つめ、聖剣エクスカリバーを鞘越しで掴んで掲げた。

 これが、俺の得た力だと示したのだ。

 

「俺は、母を失いました。死因は、ただの風邪です。そんな、くだらない死因なんです。でも、幼くて無力だった俺は、そんなくだらない死に方を母親にさせてしまった」

 

 言葉に真実味を混ぜるため、母親が死んだあの日の悔しさを想起した。

 そうすれば、自ずと剣を掲げる手に力が籠る。

 

「俺は、無力なままでありたくない。無力なままではいられない。死んでしまった母に、顔向けできるような男にならねばならない……!」

 

 この言葉は、本心からのモノだ。

 金も名誉もない人間にはなりたくない。

 失う事しか待っていない人生には耐えられない。

 だから、俺は手っ取り早く金と名誉を得るため、聖剣エクスカリバーを握ったのだ。

 

「そうやって走った先が、今なのです。例え仮初の栄誉でも、俺は勇者という誇れる存在になり、聖剣エクスカリバーという確かな力を手に入れた。後は、仮初の栄誉を本物にできるよう、努めれば良いだけです」

 

 剣を腰に収め、毅然と佇む。

 偽りならば本物になれるよう頑張れば良いと、気概を見せ付けるのだ。

 

「く、くく、くははははははははははははははははは!!!!」

 

 ゴッホは、盛大に笑い上げた。

 嘲笑というよりは、心底面白そうに笑っている。

 

「見事、実に見事だ、勇者テノール!この紅竜王ゴッホ、汝に感服した!」

「ええ。私たちが心配する必要がない程に立派な子ね、テノールちゃん」

 

 双王に俺を憐れむ気配は消え、打って変わって賛辞していた。

 どうやら上手くいったらしい。

 

「ならばこそ、憂いなく汝を称えられる」

「充分にお褒めの言葉をいただきました。これ以上はいただけません」

「いや、駄目だ。我は称えよう。正式に認めよう」

 

 俺の謙遜では止まらず、ゴッホはここに宣言する。

 

「我が国からも汝へ、勇者の称号を与えよう」

 

 俺はミナ・ミヌエーラの王より、勇者の称号をいただくのだった。

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