100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十一節 先導付き観光

「ミナ・ミヌエーラ首都、シムルアムビスを案内できます事、大変光栄でございます。それも、勇者様方の案内ができるとは」

 

 フィグが俺とリカルドを王宮の入り口で迎えてくれた。

 言葉通り、フィグは俺とリカルドへの首都案内を任せられたのだ。

 すでに俺たちを主役と感謝祭が行われるとミナ・ミヌエーラ中に公表されているため、扱いは国賓。

 高官であるフィグも俺たちに腰が低い。

 元より礼儀正しい人物ではあったから、そこまで態度に差はないが。

 

 ちなみに、ランテとパースはラビリンシア国王への報告と護送に使った馬車の返却をかね、一旦ラビリンシアに帰っている。

 と言っても、ナンタン領の端で報告書の発送と馬車返却の取次ぎをするので、1週間かそこらでミナ・ミヌエーラに戻ってくるだろう。

 ムラマサの方は、聖剣修復に使わせてもらう鍛冶場の選定をしている。

 俺たちと似たように案内が付き、シムルアムビスの鍛冶場を巡っているそうだ。

 

 話を戻して感謝祭。

 その周知と準備に時間をかけるため、俺とリカルドはそれまでの間シムルアムビス観光である。

 

「わざわざお手数おかけします」

「いえいえ、お構いなく。拉致されたドワーフたちを救ってくれた事への、少ないながらの感謝でございます。では、どうぞ馬車の方へ」

 

 フィグは丁寧に応対しつつ、待機させていた馬車への乗車を促した。

 俺は促されるままに馬車へと近寄るが、隣のリカルドは非常に歩みが遅い。

 

「リカルドさん、どうかしましたか?」

「い、いや……。慣れないと言うか、緊張すると言うか。とにかく胃が芳しくない」

 

 リカルドの状態を直視してみれば、リカルドは胃の辺りを押さえ、顔色が悪かった。

 どうにも、精神的重圧にやられているのか。

 無理もない。

 リカルドの方も勇者とまではいけないが、英雄としてミナ・ミヌエーラの歴史に名が刻まれる事が内定しているのだ。

 貴族の癖に小市民の気質があるリカルドには、その名誉がとても重いのだろう。

 

「それはぁ、慣れるしかないのでは……」

「どうやって慣れれば良いんだよ……!」

「……どうやって慣れるんでしょうね?」

 

 自分で言っておいてなんだが、どうやれば精神的重圧に慣れる事ができるのか、まるで分からない。

 俺は覚悟を持って勇者になったから、初めから精神的重圧で体調を崩すなどなかった。

 名誉なんていくらあっても足りない、という俺の考え方のおかげか。

 エクスカリバーに振り回されて頭が痛くなった事はあったが、名誉を得て胃が痛むとかは未体験である。

 

「く、勇者様はさすがでございますねー全く」

「ははは……」

 

 リカルドに同調できない俺は、リカルドの皮肉を甘んじて受けた。

 それがせめてもの慈悲というやつだ。

 

「あの、お加減よろしくなければ、案内は後日に回していただいても……」

「胃以外は大丈夫なんで大丈夫です!代わりにちょっと低位回復薬ください!」

 

 リカルドは他人の厚意を無駄にできず、空元気で体を動かした。

 でも痛み止めの代用として回復薬を貰い、一息に瓶の中身をあおる。

 なんとも涙ぐましい姿だ。

 

「丁度名医が来ております。後程、胃薬を処方してもらいましょう」

「是非ともお願いします」

 

 胃薬を調達する目途が立ったところで、俺たちが乗り込んだ馬車は出発したのだった。

 

 

 

「この両脇に見えます山、雪山が白竜王陛下のお生まれになったエヴァーイースト、火山が紅竜王のお生まれになったキラーウェアーでございます」

 

 フィグがそう指し示し、高台から覗く景色はとても珍妙な物だった。

 何が珍妙って、雪山と火山が隣り合っている事だ。

 自然の神秘っていう事で、まだどうにか納得はできる。

 しかし納得しがたいのは、この山の近くに首都がある事だ。

 

「首都が神聖なる山の傍にある理由は、双王陛下がこの火山より離れられないからです」

「離れられない?」

 

 丁度疑問になっていた部分をフィグが解説し始めていたので、俺は有り難く食いついた。

 そうする事で、フィグは解説を快く先に進める。

 

「あの火山、実は活火山なのです。双王はあの火山を監視し、適度に熱を吸収したり冷やしたりで、噴火せぬよう抑制しているのです」

 

 火山噴火の抑制。双王には、そんな役目もあったようだ。

 噴火抑制と執政。それらを両立するために、王の仕事場を火山の近くに置いた、という訳だ。

 しかし、そもそもな話になるが、そんなところに国を築く必要はあったのだろうか。

 

「活火山の近くという事で、自然災害的には危険な場所なのですが、実はこの火山を中心にして空気中の魔力濃度が低いのです。そのため、魔物が自然発生する事はなく、魔物被害の観点からすれば、安全な場所となっています」

 

 抑えられる活火山より、抑えられない魔物発生を重視した故の場所選びだったのか。

 理には適っているだろう。

 

「ん?でも紅竜王陛下が生まれたのは火山の方だったのでは?ドラゴンが生まれる程となると、かなり魔力濃度は高そうですが」

「双王陛下がお生まれになったのは、もう1万年以上前の事だそうで。かれこれ5000年前から魔力濃度が下がってしまったと、双王陛下は仰っております」

 

 辻褄が合わない点を指摘してみれば、双王陛下が馬鹿みたいに高齢である事を知ってしまった。

 ドラゴンが長命である事は一般常識だが、まさか5桁生きているとは予想外である。

 

「活火山に首都がある理由はそれだけではありません。なんと、温泉がたくさん湧くのです」

 

 その解説で思い出す。

 ミナ・ミヌエーラは名湯が多い事で周知されているのだ。

 実際、この首都には温泉宿や銭湯などがそこそこ見かけられる。

 ミナ・ミヌエーラの貴族は自宅に温泉を引いている、という噂もあるのだ。

 

「ミナ・ミヌエーラ国民に恩恵をお与えくださっているのは、キラーウェアーだけではございません。エヴァーイーストの方も我々に水のお恵みを与えてくださっております。エヴァーイーストに降りしきる雪、それが融けて大地に染み、そうして湧き出た水は飲んだ物に活力を与える、極上の天然水なのです」

 

 鍛冶の栄えた国にして、温泉と天然水が有名な国。

 そんなミナ・ミヌエーラの復習をしながら、観光は続いていくのだった。

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