100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

122 / 221
第十二節 色んな意味で凄腕の医者パート2

 観光が続いていく、予定だったのだが。少しそこに観光以外の予定が挿まった。

 何故かと言えば――

 

「うぐぐぐぐ……」

 

――リカルドは激痛に耐え兼ねているからである。

 激痛の原因は相変わらず精神的重圧。

 特に痛んでいる箇所も変わらず胃である。

 1度回復薬を飲んだはずなのだが、観光の途中ですれ違うミナ・ミヌエーラ国民たちに『英雄』と持てはやされ、胃痛が再発したらしい。

 横で同じく『勇者』と持てはやされていた俺は笑顔で国民に応じていたのだが、リカルドにこういう器用な事はできなかったのである。

 

「お医者様はこの家にお住みです」

 

 フィグはとある家の前に馬車を停めさせていた。

 そこが曰く名医の家だそうだが、風貌が全然家ではない。

 一見協会のような神聖さがある外見と広い敷地は、家と言うより病院と言った(おもむき)だ。

 

「フローレンス殿!ご在宅でしょうか!」

「……フローレンス?」

 

 フィグは呼び鈴を鳴らしつつ、微妙に引っかかる名前を呼んでいた。

 どこかで聞いたような名前なのだが、はて、どこだったか。

 

「こんにちは、フィグ大臣。急患ですか?」

 

 病院のような家から顔を出したのは、とても母性が溢れ、包容力がありそうなヒューマン女性だった。

 

(端的に胸が大きい女って言ったらどうだ?)

 

 そんな相手の胸しか評価していないような表現をする訳がないだろう。

 

「急な訪問になってしまい、申し訳ない。しかし、要人の不調とありましてはフローレンス殿に検診していただきたく……」

「問題ありません。不調な方にいつでも手を差し伸べる。そのために医者は存在しますので」

 

 包容力のありそうな女性改めフローレンスは、とても寛容にフィグを迎えていた。

 俺の観察通り、やはり包容力のある女性である。

 しかもお医者様とくれば、賢さと高給取りは保証されているようなものだ。

 お近づきになってしかるべき相手である。

 

(久々に下衆だな。いや、指摘しなかっただけでいつも下衆かったが)

 

 能力ある人間と人脈を築く。

 そんな誰でもやっている当たり前の事が、どうして『下衆』と中傷されねばならないのか。

 

(下心たっぷりじゃん)

 

 下心のない清廉潔白で幸せに生きていけるなら、誰も苦労はしないのだ。

 この行いは幸せに生きようとする、人間として正常なモノである。

 誰にも咎める権利はない。

 

(左様で)

 

 左様だよ。

 

「患者さんがいらっしゃるのでしょう?どうぞ中へ」

 

 エクスカリバーとくだらないやり取りをしている内に、フローレンスが俺たちを中へ招いていた。

 俺はリカルドに肩を貸しながら、遠慮なく家(病院?)に上がらせてもらうのだった。

 

 

 

 リカルドを診察室へと運び込んでから十数分。

 

「精神的重圧を原因とする急性胃炎ですね。軽症でしたので、胃薬を処方しました。効き目が出るまで安静にしてほしいのと、窺えた疲労を軽減してほしいので、1時間は横になってもらっています」

 

 処置は難なく終わったようで、フローレンスは俺とフィグにリカルドの容態を伝えた。

 分かっていた事だが、やはり精神的なモノだったようだ。

 むしろそれ以外だったら、悪い物でも食べたかと心配になる。リカルドではなく俺が。

 ここしばらく同じ食事を取っているので、食中毒だった場合俺も毒に当たるのだ。

 

「それでは、そちらの方も検診いたしましょう」

「え?俺ですか?」

 

 フローレンスの視線は俺に向けられていた。

 しかし、別に悪いところはないのだが、どこに検診する必要があるのだろうか。

 

「念のためです。本来検診は常日頃健康でいられるよう受診するモノ。体の異常を感じられずとも、病魔が潜んでいるという事はあるのです。ですので、定期的な健康診断を私はお勧めしたいのですが……」

「ああ……。あんまり健康診断とかは、していませんね」

 

 フローレンスの勧めは理解できないモノでもない。

 炎症や骨折、裂傷などの傷害は回復薬で治せてしまうが、(がん)や脳梗塞(こうそく)は回復薬では治せない。

 そういう回復薬で治せない病を早期発見するために、定期健診を行った方が良い。

 しかし、世間の医療技術はそこまで発展しておらず、癌などの早期発見は難しい。

 だから、受けても発見できないなら、行く意味がないと俺は考えているのだ。

 

「『受診しても病を早期発見できないなら意味がない』……ですか?」

「……え?」

 

 今、俺はあり得ない現実に直面した。

 フローレンスが的確に俺の内心を言い当てたのだ。

 

「……心を読めたりするんですか?」

「精神医学は修めていますが、心を読めたりはしません。単に、定期健診を行わない理由の中で、最も多い理由を述べただけです」

「な、なんだ……。そうでしたか……」

 

 心を読まれた訳ではないと分かり、引いた血の気が返ってきた。

 正直、かなり恐怖したのだ。

 だってフローレンス、ずっと笑顔だから感情が読み取りづらいんだもん。

 

「動揺しているという事は、当たりましたか?」

「……失礼ながら、当たりです。受けても発見できないなら、行く意味がないと考えています」

 

 鎌をかけられたと言えば良いのか、結果として俺の考えが読まれてしまった訳だ。

 だが、考えを読んだフローレンスは、その笑顔に悲しさを混ぜる。

 

「貴方の考える通りです。現在の医療技術におきまして、癌などの早期発見は望めず、治療できる医者も極わずか。これでは医者の名折れですね」

 

 フローレンスは、不甲斐ない現状を憂いていた。

 病を治すために医者は居るのに、発見も治療も十全にできない。

 そんな1人のせいではない問題に、フローレンスは責任を感じている。

 

 なんと健気な女性だろう。

 そういう女性が憂いているのだ。慰めなければ男が(すた)る。

 

「いえ、決して名折れなどでは……。フローレンスさんも、お医者様方も、必死に医療の発展に努め、現状における最上の措置を選び取っている。どうか誇ってください。貴女のおかげで、俺たちは健康に生きています」

 

 俺は勝手ながらフローレンスの手を取り、包み込んだ。

 俺の本心が少しでも伝わってくれるよう、態度で表したのだ。

 

(お前の本心は、お近づきになりたいっつう下心だろうが)

 

 煩い。

 

「ありがとうございます、勇者テノール。貴方がそう言ってくれれば、私は、私たちは報われます」

 

 フローレンスが、俺の手を包み返してくれた。

 どうやら俺の真心は正しく伝わったようだ。

 

(こりゃ意思疎通が失敗してんな。下心が伝わってねぇ)

 

 誰もそんな心は伝えてないんだよ。

 

「では、勇者テノール。健康診断、受けてくれますよね?」

 

 とても朗らかな笑顔で、可愛らしく小首を傾げる所作もして、フローレンスは検診を受けるようにお願いしてきた。

 何故だろう、とても嵌められた気がする。

 包まれた手も、力強く掴まれている訳でもないのに、放す事ができない。

 

「喜んで」

 

 逃げ場がなくなっているような状態になっており、俺は受診するしかなくなっていた。

 せめてもの足掻きとして、俺は快く受け入れたように取り繕うのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告