100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
フローレンスに診察室へと連れてかれて数分。
「はい、もう服は下ろしてもらって大丈夫ですよ」
俺の肌に直接当たっていた聴診器は離され、フローレンスが診療録に診察した事を書き出した。
『エイゴ』で記されているため、俺にはその内容が読み取れない。
「内臓は正常と言って差し支えないでしょう。ですが、少し懸念が……」
「け、懸念ですか……?」
医者の曇る表情は心臓に悪かった。
まさか、病の兆候でも見つかったのか。
「表現が難しいのですが、筋肉や骨が多少疲労しています。無理な肉体強化をしていませんか?」
筋肉や骨の疲労という事は、高い負荷による損耗から回復しきっていない、という事だろうか。
そして、無理な肉体強化をしていないかという質問である。
俺には思い当たる節があった。
つまりは、エクスカリバーの肉体強化に俺の体が耐えきれていないのだろう。
(もうちょい体鍛えろ)
当の本人がこれである。
しっかり鍛えているつもりだが、まだ足りないらしい。
「身に覚え、あるんですね?」
エクスカリバーとのやり取りを遮るように、フローレンスが追求してきた。
フローレンスは笑顔ではあるのだが、わずかに強まった語気から迫力を感じてしまう。
「……勇者として、無理をせねばならない時があります」
「お気持ちは理解します。ですが、控えてください。命に関わりますよ?」
「……善処します」
と言うか善処してくれ。
(お前がな)
いや、お前だが。
「はぁ……」
俺の不誠実な返答を受けてだろう。フローレンスは溜息を吐いた。
素直に忠告を聞いてくれていないのだから、医者が落胆するのも止むなしだ。
「ムラマサがなんで首飾りを渡しているのかと思えば、そういう事だったんですね」
診察に邪魔だとして脇に束ねて置かれた俺の装備品。
フローレンスはその中にある首飾りヌエトラを見つめていた。
まだ返せていないのは心残りであるが、それよりも疑問が浮かんできている。
「どうしてムラマサの事を……。いや、そうか」
疑問に思考を割いた時、俺は思い出せた。
俺はフローレンスと言う名をユウダチから聞いたのだ。
敵から魔術で眠らされていたユウダチが、起こされた時に寝ぼけながらその名を口にしていた。
それらの情報で推察できる。
「フローレンスさん。貴女はユウダチ、それにムラマサの友人だったんですね?」
「ユウダチとも会っていましたか。そうです、私は彼らの友人です」
やはり、フローレンスたちは友達だった。
おそらくはレオナルドとも友人だろうが、今聞くべきはそれではない。
「『そういう事』とは、どういう事ですか?」
何か俺の秘密を握られたかもしれない。
その事について、俺は探らねばならないのだ。
知られたくない事だったら、口封じをしなければ
どうやって口封じするのか、という話になるが。
「そう、ですね。では、次の質問に答えてください」
フローレンスの顔から笑顔が消えた。
俺は、空気が引き締まったのを感じ、息を呑む。
「ぬるぽ」
「…………は?」
フローレンスが発した意味不明な単語に、俺は呆けた。
凄く答えづらい質問が飛んでくるものと身構えていた上で、ただ単語1つを吐かれたのだ。
呆けるなと言う方が無理である。
「その答えで絞り込めました」
「今ので!?」
フローレンスがいったい何を絞り込んだのか、皆目見当も付かない。
あの単語は特殊な暗号化何かだったのか。
「一応ですが、チート転生という単語はご存知ですか?」
「……『転生』だけなら知っていますが、『チート』と付くと全く。『エイゴ』の単語なのでしょうが」
「ご協力ありがとうございます。もう結構です」
意味が不明なまま、質問は終了した。
フローレンスが笑顔に戻ってくれたのは良いが、こちらの理解度的には全然良くない。
「あの、結局『そういう事』とはどういう事で、あの質問はなんだったんですか?」
「ムラマサが首飾りを渡す相手は3通りだけなんです」
「ほう?」
フローレンスは真実を教えてくれるようだ。
このまま教えられないままだったらどうしようかと、ちょっと心配していた。
そんな結末にならなくて、心底安心する。
「1つ目、古くからの友人であるか、です」
なるほど。レオナルドもユウダチも首飾りを持っていたが、そういう訳だったのか。
確かにかなり親し気であったから、長い付き合いというのも納得である。
「2つ目は、ムラマサのお気に入りであるか」
……お気に入りに首飾りを渡し回ってるの、ムラマサ。
(お前も似たようなもんだろ)
支持者に認識票の首飾りを配ってるのと同じにするな。
「3つ目は……。そうですね、さっきの質問に答えられる方、ですね」
「……ちょっと待ってください。それって、俺はムラマサにお気に入り認定されたって事ですか?」
1つ目・3つ目に該当しないとなると、必然2つ目に俺が当てはまっているはずなのだ。
しかし、ムラマサは俺の何を気に入ったのか。
と言うか全然気に入られた気がしないのだが。態度全然変わらないし。
「彼女は否定するでしょうけど、私が見てきた限りはお気に入り認定でしょう。3つ目疑惑を持っている、という線もありますが」
難しいところになってきた。
ムラマサからフローレンスがしたような質問はされていない。
ムラマサは俺を3つ目の分類から除外できていないのだ。
「気になるのでしたら、後で直接訊いてみるのが良いかと。その時に私が絞り込んだ事を伝えても良いので」
「……そうですね。ありがとうございます、そうさせてもらいます」
フローレンスの助言を、俺は参考にさせてもらう事にした。
そうして、途中から話が逸れていた健康診断は、終了となるのだった。