100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十四節 古い知り合いとの歓談に花は咲かず

 テノールたちが観光に出るより少し早い時間。

 

「改めて。久しぶりね、ムラマサ。元気だったかしら?」

「『久しぶり』と言っても、以前に会ったのは数か月前でしょう」

 

 双王の執務室で、その双王とムラマサが歓談していた。

 紅竜王の方は書類仕事をこなしつつだが。

 

「『始まりの六柱』の中で、汝と一番出くわしておる気がしてならん」

 

 1万年生きているから当然と言えば当然だが、ゴッホもグウィバーも、『始まりの六柱』の正体を知っている。

 目の前に居る少女が実は自身らより年上で、『鍛冶神アチューゾ』と称えられている存在である事をもちろん知っているのだ。

 

「年に1度健康診断に来ているフローレンスよりもですか?」

 

 ムラマサが言う通り、実はあのフローレンス、双王の健康診断を行いに毎年ミナ・ミヌエーラへ訪れているのだ。

 かれこれ1000年近くは継続されている。

 ちなみに、年老いない事については、デビルの血が入っているという言い訳で通している。

 

「フローレンスちゃんは健康診断の時しか来ないから」

「その時以外に来られても困る」

 

 グウィバーはフローレンスにもっと滞在してほしいのだが、反してゴッホは頻繁な来訪を望んでいなかった。

 片や求めている指圧を、片や嫌がる注射を受けているのだ。

 態度が違うのも仕方がない。

 

「とかく。このところ、汝の顔をよく見るだけだ。累積回数なら、間違いなくフローレンスの方が多いであろう」

 

 ムラマサは、だいたい何か問題起こして双王の前に連れてこられる。

 そういう出くわし方だから、印象が強くてよく会っている気がするという話なのだ。

 なので、毎度問題を起こさぬようにと、ゴッホがこうして遠回しに注意しているのである。

 しかし、ムラマサにその注意は一切伝わっていない。

 伝わったとして控えるムラマサではないが。

 

「そういえば、他の子たちは元気なの?レオナルドちゃんとユウダチちゃんは少し前に顔を合わせたけど、フィーネちゃんやリーダーちゃんとは全然会わないわ」

「ボクたちの中で何してるか分からないトップ2ですね」

 

 ムラマサの仲間たちに話題が向いたので、グウィバーは他の仲間たちにも興味を示した。

 だが、残念ながら、フィーネとリーダーについては、ムラマサも分からないのである。

 

「ムラマサちゃんも会ってないの?」

「最近会ったのは、いつだったでしょうね。フィーネは確か、5年くらい前にあいつの端末スライムと会って、ちょっと話したくらいですか」

 

 偶然出会ったフィーネとムラマサ。

 2人は特にいがみ合うでもなく、近況を適当に語り合った。

 そうして、好きにやってるなと、お互いに感想を漏らして別れたのである。

 フィーネとムラマサ、『始まりの六柱』でも趣味に突っ走った2柱。

 彼らはそうやって自分勝手を推し進めた結果起こる被害について、割と無頓着なのだ。

 だから、お互い全く悪感情がなく、むしろ親近感を覚えている節すらある。

 

「リーダーちゃんの方は?」

「……そっちは、最近会ったのは本当にいつだったでしょうか。少なくとも20年以上は会ってないです。どうせこっちの動向は把握してるんでしょうから、たまには会いに来れば良いのに」

 

 ムラマサは不満を顔に出した。

 ただ、その不満は怒りより寂しさの方が大きい。

 

「あらあら。お熱いわね」

「はぁぁぁ……。頭の中は桃園か何かですか……?」

「ちょっと?」

 

 ムラマサの不満を恋によるモノと勘違いするグウィバー。

 そんな彼女へ、ムラマサはとても深い溜息を吐き、おまけに罵倒した。

 ムラマサはグウィバーがすぐに恋愛へ持っていく思考に、呆れかえっていたのだ。

 

「じゃあ、どうして会いたがっているのよ」

「友達であり、恩人だからですよ」

 

 ムラマサはリーダーに恋愛感情を抱いていなかった。

 もしかすると、忘れてしまう程遠い昔には、そんな感情もあったのかもしれない。

 でも、今抱いている感情は、時々は恩や借りを返させてほしいというモノだ。

 

「異性の友情という事ね。それもそれでとても微笑ましいわ」

「貴女はボクたちのお姉さんか。年を考えなさい、年を」

「ババアって言ったかしら?」

「ボクの方が年上だって言ってるんですよ」

 

 グウィバーは冗談を交えながらムラマサを揶揄っていた。

 揶揄われているムラマサはその対応がやや面倒臭くなってきている。

 

「というか、異性の友情って言いだしたら、ゴッホとグウィバーもそうじゃないですか。そっちも恋愛感情とかないんでしょう?」

「微塵もないわね」「微塵もない」

「見事に重なりましたね」

 

 返答が綺麗に重なる程、グウィバーとゴッホの中にも恋愛感情はなかった。

 双王も結局異性の友情、果ては相棒だと互いを尊重している関係である。

 

「こんな感じで、仲が良い異性だからって恋愛感情が湧くとは限らないんですよ」

「でもぉ」

「ああもう面倒臭い。さっさとボクを鍛冶場に案内してください」

 

 恋愛話がし足りないグウィバーに、ムラマサはついに付き合い切れなくなった。

 仕事に向かわせてくれるよう、悪態をつきながら要求する。

 聖剣デュランダルを修理するために鍛冶場を借りる事について、了承は得られているのだ。

 

「案内役がまだ来ぬのだ。しばし待て」

「それまでは私とお話ししましょうね」

「まだくだらない話をしなくちゃいけないんですか……?」

 

 疲労すら感じ始めたムラマサは、座っている椅子に体を鎮めるのだった。

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