100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「さぁ、我が客人たちよ!今宵の晩餐は贅を凝らした。思う存分味わうが良い!」
双王に俺、リカルドやムラマサも一堂に会する食堂。
中心にある机には、高級料理がこれでもかと並べられている。
今回の料理は『ビュッフェ』という形式。
好きな物を好きなだけ取って食べる食事形態だ。
本来、たかだか5人、内2人は人型に化けているドラゴンであるが、そんな少人数での食事形態ではない。
だが、これはある意味で示威行為だ。
ゴッホはミナ・ミヌエーラの豊かさと己の度量を表すため、あえてこの形式を取ったのだろう。
「お残しは気にするな!我が平らげる!」
表しているはずの紅竜王は微妙にみみっちい宣言をしているが。
まぁ、食料を無駄にするよりは良いか。
ドラゴンの図体なら机に並べられた程度は胃に収められるだろうし、心配は不要だ。
「飲み物は何が良いかしら?」
そしてこっちの白竜王は給仕の真似事をしていた。
自由か、この王様たち。
「あの、恐れ多いんですが……」
「気にしないで。給仕服を着たかっただけだから」
王様に給仕をさせる事へ恐縮するリカルドだが、グウィバーは聞く耳を持たない。
自由すぎる、この王様たち。
「葡萄酒で」
「はい、どうぞ」
ムラマサはなんの遠慮もなく葡萄酒を要求していた。
駄目だ、自由人が多すぎる。収拾が付かない。
「では、俺は牛乳で」
なので、俺は収拾を図らず、そのまま乗っかった。
王の自由を他国民が邪魔できる訳はないのだ。
「葡萄酒じゃなくて良いの?」
「王の前で酔い、醜態を晒すような危険は冒せません」
グウィバーが親切心で葡萄酒を提供してこようとするが、俺は丁寧に断った。
俺はあまり酒が好きではないのである。
(代わりに飲んでやろうか?)
二日酔いを肩代わりさせられそうなので断固拒否だ。
「あら、今日は無礼講よ?」
「ありがとうございます。もちろん、心から楽しませていただきます」
「うふふ、いらぬお節介だったかしらね。じゃあ、どうぞ」
俺はどうにか不興を買わず、牛乳の注がれたタンブラーグラスを受け取れた。
なんで飲み物貰うだけで腹芸をせねばならないのか。
「リカルドちゃんは?」
「……白湯を」
「そんなので良いの?」
「それで良いんです……」
自身以外誰も突っ込まないとあってか、リカルドは色々諦めてグウィバーに奉仕された。
白湯を選んだのは、胃薬を飲むためだろう。
不憫な男だ。せめて胃の無事を祈ってやろう。
「我は天然水を」
「貴方は自分で持って来て?」
「……」
グウィバーの職務怠慢(?)なのだが、ゴッホは文句を言わず飲み物が置かれた棚へ向かった。
天然水の入った瓶を手に取るゴッホの背中は、無駄に哀愁が漂っている。
「ああ、ゴッホ。私の分もお願いね」
「お前はなんのために給仕服を着ておるのだ!」
さすがのゴッホもこれには突っ込んだ。
これではただ服を着て遊んでいるだけなのである。
「給仕の真似して遊んでるだけだけど?」
本当に遊んでいるだけだった。
いや、確かに王様が真面目に給仕していたら訳が分からないのだが、そもそも王様が給仕の真似して遊んでいる訳が分からない。
「……」
「冗談よ。親交の証として、私自らお客人を持て成してるの。貴方は客人じゃないからってだけ」
ゴッホが正気を疑うような視線を投げかけていれば、グウィバーはあらぬ疑いを解くべく訂正した。
なるほど。王自ら持て成すとあれば、王の誠意は如実に表される。
グウィバーのその誠意の表し方は、ちょっと奇抜であるが。
ドラゴンだからヒューマンとの価値観に相違があるのだろう。
そういう事にしておけば平和だ。
ゴッホも真意の詮索より平和を望んだのだろう。天然水の瓶とワイングラスを渋々持ってきた。
「ありがとう」
「どういたしまして、だ。給仕よ」
若干渡す時に皮肉を言い放っていたが。
双王の関係に
それより、俺はちょっと気になった事があるのだ。
「双王陛下は水なのですね」
グウィバーが『無礼講』と言ったのにも拘らず、そのグウィバーとゴッホは酒を飲まない。
もしや、ドラゴンにとって酒は毒なのか。
「我々は酔えぬからな。酔えてこそ酒であろうに」
「それに、あまり美味しく感じないのよね。昔に美味しいお酒と巡り会ったのだけど、あのお酒と今のお酒は何が違うのかしら」
双王の答えは単純に、酒を楽しめないというモノだった。
魔物であるからか、本来の図体が大きいからか、酒を飲んでも酔えない。
そして、昔に飲んだお酒と比べて不味い。
それらの要因で、双王は酒を楽しめないようだ。
「でも、何故水を?果汁も楽しめないのですか?」
「果汁より、このエヴァーイーストの天然水が美味いからだ」
何故果汁よりただの水を優先するのか訊いてみれば、ゴッホが誇らしげに水の注がれたタンブラーグラスを差し出した。
飲めという事だと察し、俺はタンブラーグラスを受け取って水をあおる。
「これは……」
俺はその水に驚愕した。
その水には、ほのかな甘みがある。
それだけではない。飲んだ後に何か、力の漲りをわずかに感じたのだ。
「どうだ、我が国の天然水は」
「ただの水と
ゴッホの言い分に偽りなく、この水は、エヴァーイーストの天然水は美味かった。
奇妙な水ではあるが、これは酒や果汁より好まれるだろう。
「はっはっはっ!今宵は無礼講。汝の無礼はなんの咎にもならん!」
俺の驚愕に満足したのか、無礼を問題とせず、ゴッホはご満悦な笑顔を浮かべていた。
茶目っ気はあるが、良き王であると再認識する。
「良ければもう1杯貰えますか」
「うふふ。いくらでも飲んで」
グウィバーもご満悦なようで、俺のタンブラーグラスに天然水を注いでくれた。
俺はエヴァーイーストの天然水を味わいつつ、料理も堪能させてもらうのだった。