100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十九節 類は友を呼ぶ

 奇妙にも美味しい天然水を飲んだ次の日。

 俺はその天然水に興味が湧いたため、エヴァーイーストにあるその水源への案内を頼んだ。

 しかし、本当の水源である泉は険しい道の先にあるという事で、案内を拒否されてしまったのだ。

 代わりに、その手前にある麓の滝まで案内してくれるらしい。

 

「今日はエヴァーイーストの滝をご所望という事で。水質検査であの滝にはよく向かうので、このウレが案内を務めさせていただきます」

 

 案内は人や物の流通を管理するフィグから、生活環境の衛生を管理するウレへ変更。

 ウレの方が滝に詳しいという事だ。

 細かいところはともかく、女性が案内をしてくれると言うなら、俺は大歓迎である。

 

「また、お偉いさんが案内するのか……」

 

 リカルドの方はあまり歓迎していないようだ。

 胃薬と休養のおかげか、昨日よりは顔色が良い。

 でも胃痛の兆候はあるのか、さっそく胃をさすっている。

 

「えっと。では、私に付いてきてください」

 

 そんなリカルドの容態などお構いなしに、案内は開始された。

 ウレが申し訳なさそうな顔をしていた辺り、リカルドにはもう慣れてもらうしかないという苦渋の決断をしたのだろう。

 リカルドもその決断を察してか、案内へ素直に従うのだった。

 

 

 

 馬車に揺られる事約2時間。俺たちの目の前には絶景が広がっていた。

 

「ここが、水源に繋がっているエヴァーイーストの滝でございます」

 

 ウレが指し示す先では、高所より水が降り注いでいる。

 透き通る水はまるで鏡のように対面の光景を映し、木々の合間に覗く空と太陽を絵画の如く切り取っていた。

 滝というのも初めて見たが、おそらくここ以上に美しい滝は見られないだろう。

 

「凄いな……」

 

 リカルドも胃痛を忘れ、この絶景に感動していた。

 俺も言わずもがな、絶景に感動して魅入っている。

 そんな優雅な時間にそぐわぬ喧騒が俺の耳に届く。

 

「おい!そこで何をやっている!」

 

 衛兵だろうドワーフの男性が不審な行為を見咎めたのか、叫びあげていた。

 どうやら滝壺を囲む柵を越えた者が居るようで、その者が滝壺の前で屈んでいる。

 

「ん?あれって……」

 

 その者の姿に、俺は既視感を覚えた。

 その者は、この国で珍しいヒューマンの女性であり、医者の白衣を着ていたのだ。

 

「フローレンスさん?」

 

 ある意味でそういう特徴的な見た目であったため、俺はすぐに思い出せた。

 しかし、医者がわざわざ立ち入り禁止区域に侵入して何をやっているのか。

 

「すみませんが、ちょっと様子を窺いに行ってきます」

「お、俺も」

 

 気になったので確かめてこようとすれば、リカルドが俺の後に続く。

 リカルドも気になっているのだろう。

 だが、俺は柵を越えてまで近づくが、リカルドは柵のところで止まった。

 これが独自裁量権を持つ勇者であるか、そうでないかの差である。

 

「お前、水を汲み取って何をしていた!まさか、エヴァーイーストの天然水を密売するつもりではないだろうな!」

「いえ。汲み取っただけで、まだ何も。密売などの犯罪行為には使いませんので、ご安心ください」

 

 衛兵に捕まりかけているのに、フローレンスは笑顔を崩さなかった。

 落ち着きすぎていて逆に怪しさがある。

 あれではなかなか衛兵を振り切れないだろう。

 では、勇者の出番だ。

 

「なんの騒ぎですか?」

「こ、これは、勇者様!」

 

 良かった。もうだいぶ俺の顔はミナ・ミヌエーラに知れ渡っているようだ。

 これで勇者の権利を問題なく行使できる。

 

「状況の説明をお願いできますか?」

「ははっ!現在立ち入り禁止区域に侵入し、不審な行為をしていた者を尋問している最中です!」

 

 この衛兵は職務に忠実なようで、佇まいを正しながら俺に応対した。

 やりやすくて助かる。

 

「不審な行為をしていた者というのは、貴女で間違いないんですね?フローレンスさん」

「ええ。些細な行き違いが起きまして、不審な行為と勘違いされてしまいました」

 

 この女医、勇者にも容疑をかけられているのだが、全く動揺していない。

 精神力が凄い。

 

「水を汲み取っていたと耳にしましたが、何故水を汲み取っていたのですか?」

「水質の調査をしたくてですね。このように汲み取っていました」

 

 フローレンスが掲げたのは試験管数本。

 確かにこれなら密売に足る量ではなく、その疑いは晴れる。

 だが、疑問は尽きない。

 

「なんで水質の調査を?」

「……内緒です」

 

 にこやかに笑って誤魔化そうとしてきたぞ、この女医。

 

「フローレンスさん、困りますよ。双王の恩があるとは言え、あまり勝手をされては」

 

 意図が聞き出せないからどうしようかと悩んでいたところ、ウレが割り込んできた。

 ウレは注意しに来たようだ。

 

「申し訳ありません。この天然水の効能が如何なる成分によるモノか、調べたくなりまして。もし解明できれば、薬品などに転用できるかもしれません」

 

 フローレンスは、俺へは内緒にしたくせに、ウレには白状した。

 政府高官に抗えないのは分かる。

 でも勇者の方にも抗わないでほしい。

 

「職務に熱心なのは良いですが、度が過ぎた行為は取り締まられますからね」

「心得ております」

 

 高官から忠告されているのだが、フローレンスに応えた様子はない。

 さすがのウレも溜息を吐く。

 

「……今回は見逃しますが、今後はどうか承諾を得てくださいね」

「承知しました。では、失礼させていただきます」

 

 お咎めなしとされるや否や、フローレンスはすぐにその場を立ち去る。

 初見の時からほのかに感じていたが、フローレンスは意外と自分勝手な人物だった。

 なんだかムラマサに似ている。

 古くからの友人だけある、という事なのか。

 

 とかく、俺も衛兵もウレも、そしてリカルドも、そんな自分勝手のフローレンスの背を見送るのだった。

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