100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十一節 浮かび上がる異常性

「端的にお訊きしますが。ラビリンシア王立近衛兵とは、人外の集まりですか?」

 

 フローレンスは診療録を眺めつつ、患者たちに笑顔のまま質問した。

 それは質問であると同時に、パースとランテを診断した感想でもある。

 

「何か異常があったか」

「異常しかありません。ランテ・レートさんでしたね?貴方は心臓も動かさず、どうやって生きているのですか?」

 

 診療録には、脈拍がなかった事が記録されている。

 そう。ランテの心臓は動いていなかったのだ。

 それなのに、ランテはフローレンスと会話している。

 

「驚かないんですねぇ、フローレンス女医」

 

 ランテの後ろに控えるパースは飄々とした態度を取りながら、フローレンスを注意深く観察していた。

 異常が目の前にあるというのに、フローレンスは笑顔を崩していないのだ。

 フローレンスが普通の医者でない事は、もう疑いようがない。

 

「魔物の診察も経験がありますので。それより、種族の方を明かしていただけますか?適切な診断ができません」

 

 相手に探られながらも、フローレンスは診断を慣行する。

 おまけにその物言いは、種族さえ分かれば適切な診断ができるかのようだ。

 

「私どもとしては、我々の容態より貴女の正体が気になってきたところなんですがねぇ」

 

 パースはフローレンスに歩み寄る。

 あまりにもこちらの探りを無視するため、直接的な方向に舵を切ったのだ。

 

「医療技術の発展に尽力する医学者であり、病魔の根絶に奔走する医者です。それ以外の回答が入り用ですか?」

「入り用ですとも。所属はどこであるかとか、そんな回答が欲しいですよぉ?」

 

 医学者であるならば、研究を支援する何者かは居るはずだ。

 研究費用なんていくらあっても足りないし、研究施設は必要不可欠である。

 医者で費用を稼いでいる、というのもあり得なくはない。

 だが、旅の医者であるフローレンスに、施設を自前で用意できるとは思えない。

 

「無所属です。と、答えたところで、納得はされないのでしょうね」

 

 実のところ、パースとランテに警戒されているのを、フローレンスはしっかり感知していた。

 感知してはいたが、真実を答えても納得が得られないと、本当に無視していたのだ。

 どこの国にも属していないと、自身が『医神テヌート』であると、そんな答えを返したところで、信じてもらえる訳はない。

 

「それはもちろん。せめて支援者の1人くらいは教えていただけませんか?」

「支援者ですか。嬉しい事に、支援者の方は多くいらっしゃいます」

 

 少しでも信用を買おうと、フローレンスは素直に口を開く。

 

「まずはミナ・ミヌエーラの双王陛下。パローナの教皇猊下。ジパングの帝王陛下。パンデモニウムの天皇陛下。有名どころとなると、その方々でしょう」

 

 ミナ・ミヌエーラ。現在パースらが居るドワーフの国。

 パローナ。『始まりの六柱』を敬う宗教の聖地を中心とする宗教国家。

 ジパング。絶海の孤島であり、約1000年鎖国状態にある詳細不明の国。

 パンデモニウム。魔王軍に(くみ)さない魔物たちの国。

 

 上げられただけでもそんな国々の長たちが支援してくれていると、フローレンスは明かした。

 しかし、『医神テヌート』と自白するよりは信じてもらえるだろうが、結局にわかには信じ難い事実である。

 そも、鎖国状態であるジパングの帝王から支援を得られているという自体、信憑性を下げている。

 

「……随分と大きく出ましたね」

 

 そんな信じ難い事実であるが、パースは嘘と断定しなかった。

 フローレンスに、嘘を吐いている様子はないのだ。

 笑顔は相変わらず崩さないし、汗をかいているようにも見えない。

 発言こそ疑わしいが、態度は迫真なのである。

 

「証言で足りないのであれば、物的証拠をお見せします」

 

 鍵の付いた棚より鞄を取り出せば、その鞄の中からいくつもの書状をフローレンスは差し出す。

 どれもこれも、設備を借り受ける事が明記された借用書や、支援金提供の証明書であった。

 ジパングの書状は真贋の判別が付かないが、その他の書状は本物であると、パースには見分けられた。

 輸送部隊の隊長として、それらの書状を目にした事があるおかげである。

 

「まさかまさか、ですね……」

 

 信じ難いのに証拠がある。

 パースは頭が痛む程の珍事態に、思わず苦い顔を浮かべてしまった。

 ランテはその顔を見納め、フローレンスの発言に嘘がない事を把握する。

 多くの国、それも長から複数支援されているという事で、フローレンスが無所属である事の信憑性は非常に高まった。

 どこかの国に肩入れするような者に、こんな複数の長が支援する事は国益の観点からあり得ないからだ。

 そして、長たちから支援されている事が分かったため、フローレンスが旅の医学者兼医者であってもおかしくなくなった。

 こうして、多くの疑いが晴れたのである。

 そのはずなのだが、それらの証明が反って1つの疑いを生んでしまう。

 

「フローレンス女医……。貴女は、何者なのですか……?」

 

 多くの長から支援される。そんな存在がいったい何者であるかという、根本的な疑いが生まれてしまったのだ。

 

「医療技術の発展に尽力する医学者であり、病魔の根絶に奔走する医者です」

 

 そんな恐れすら含まれていそうなパースからの問いに、フローレンスは変わらず笑顔で、変わらぬ答えを返すのだった。

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