100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十二節 魔剣アロンダイト

「診断を続けましょう」

 

 パースから恐れられてなお、医者の務めを果たそうとするフローレンス。

 ある意味でムラマサと同じように自分勝手である。

 

「1つ、条件を呑んでほしい」

 

 自分勝手なフローレンスと相対しているランテは、平静でありながら願いを切り出した。

 直感ではあるが、フローレンスの診断からは逃げられそうにない。

 ランテは己の秘密を明かさねばならない状態にある。

 しかし、ただ明かすには惜しい秘密であるため、ランテは代価を求めていたのだ。

 

「確認ですが。その条件を呑めば、貴方の心臓が止まっている訳を教えてくれるのですね?」

「ああ」

「では、条件をお聞きしましょう」

 

 フローレンスは務めを全うするため、ランテの言葉に耳を傾ける。

 

「我が国からも、貴女を支援させていただきたい」

「なるほど!その手がありましたか」

 

 ランテの言葉にまず声を上げたのは、パースだった。

 ランテの意図がパースには読めたのだ。

 

 ここでフローレンスとの縁を切ってしまえば、フローレンスの正体を知る事のできる可能性はとても下がる。

 そうなれば、正体不明の存在にランテたちは、ひいてはラビリンシアが恐れ続ける事になるだろう。

 だから、縁を切らぬように、ラビリンシアにも立ち寄ってもらえる動機を作ろうとしているのだ。

 

「願ってもない提案です。支援の内容を詰めに、ラビリンシアへ後日伺わせていただきます」

 

 フローレンスが喜悦を滲ませるように微笑んだ。

 好印象を与えられ、正体を暴く機会を得られた事に、ランテは薄っすらと、パースは明らかに安堵する。

 

「感謝する。約束通り、秘密を明かそう。パース、頼む」

 

 故あって口下手な自身の手伝いに、ランテはパースを指名した。

 パースはランテの秘密を知る、ラビリンシアでも数少ない者として、その指名に頷く。

 

「最初に、心臓が動いていない理由ですが。ランテ総長は、人間としてはすでに死んでおられるからです」

「やはりそうでしたか」

 

 パースが言い放った事実。

 本来なら衝撃を与えるモノのはずだが、フローレンスは自然に受け止めていた。

 只者ではないと認識していたため、パースは意外感も抱かず話を進める。

 

「ヒューマンであるランテ・レートは10数年前、近衛兵としての任務中に重傷を負い、亡くなられています。ですが、彼は魔物として生を繋いだのです」

 

 人として死に、魔物へと転生した。

 それがランテの心臓が動かなくなるまでの経緯である。

 だが、まだここまでの話では、ランテの心臓が動いていない説明になっていない。

 肉の体は動いているのだ。

 肉の体ではないゴーレムやリビングドールならまだしも、デビルやホムンクルスは人間と同じように心臓が動いている。

 なのに、ランテの心臓は動いていない。

 推測できる事はそう多くなく、だからフローレンスは答えを導き出す。

 

「ランテ・レートが本体ではないのですね」

「正解です」

 

 ランテの体は操り人形のように動かされている。

 それが、答えだ。

 その正解に呼応するように、ランテは診断の邪魔として端にまとめられた剣を手に取る。

 

「種族はカースドソード。銘はアロンダイト。この剣が、私を動かしてくれている」

 

 鞘から抜かれ、露となったアロンダイトの刀身。

 それは、血しぶきを浴びたように赤みを差し、魔力を帯びている。

 その剣がカースドソードである事は間違いない。

 そして、カースドソードは所有者を乗っ取って操る魔物であるため、心臓が動いてない事には合点が行く。

 ランテが死にながら活動できている疑問はこうして解消されたのだが、別の疑問が湧いてしまっている。

 

「……カースドソードは、触れた人を操って、怨念を晴らそうとする危険極まりない存在のはず」

 

 そう。カースドソードに操られているなら、理性的な行動が取れるはずはないのだ。

 ここに来てやっと、フローレンスはその疑問で笑顔を崩し、眉間に(しわ)を寄せたのである。

 

「怨念を晴らそうとしていますよ?ただ、その怨念が他人に向かっていないそうなんですよねぇ」

「なるほど。怨念は己に対するモノであると」

 

 人への恨みがある故に、カースドソードは人を害する。

 ならばもしも、その恨みが他人に向けたモノでなかったら。

 その実例が、アロンダイトなのだ。

 

「アロンダイトはレート家初代当主、ランス・レートの剣だった。ランス・レートは第1次魔人戦争で戦死した。最期までアルト王に尽くせぬ、無念の死だった。その無念が、アロンダイトに宿った」

 

 無念という、己の不甲斐なさを呪う意思。

 その意思を基に、アロンダイトはカースドソードとなったのである。

 

「以来この剣はレート家歴代当主が所有し、当時の当主が無念の死を迎えぬよう、生きながらえさせる」

「カースドソードにあるまじき力です。おそらく、無理に性質を捻じ曲げているでしょう。その力には、代償があるはずです」

 

 先に述べたが、カースドソードは触れた人を操る。

 よって、操られている人の意思など無視するのだ。

 目の前の男は、アロンダイトに意思を無視されているようには見えない。

 操る人間の意思も維持し、死体を動かすという、あまりに都合が良すぎる力を発揮している。

 そも、死んでいるのであれば、その魂は肉体に残っている訳はない。

 

「代償は常に支払っている。私の、ランテ・レートの魂は、アロンダイトの怨念に少しずつ溶けている」

 

 そう。実は、肉体にもう魂はなかった。

 もはや、ランテの魂はアロンダイトの一部なのだ。

 そのため、ランテの魂が溶けきるまで、ランテはランテの意思で、ランテの死体を操れる。

 レート家歴代当主もそうであった。

 レート家歴代当主の魂は怨念となって、アロンダイトに積載している。

 

「……お辛くは、ないですか」

 

 フローレンスは、悲しい顔をランテへ向けた。

 その言葉には、憂いや憐みが込められている。

 

「無念の死をとげるよりは良い」

 

 感情がもう溶けてしまったかのようなランテ。

 そんな彼を直視できなかったフローレンスは、思わず目を伏せてしまうのだった。

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