100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十三節 パース・ヴァル

「……ランテ・レートさん。貴方の容態は、残念ながら施しようがありません」

 

 ランテの秘密に目を伏せて数秒。フローレンスはしっかりと相手を直視していた。

 笑顔ではない。されど悲観したようでもない。

 どこか決心が付いたような、そんな顔をしている。

 

「熟知している」

「ですが、容体の進行状況なら、私でも確認ができます」

 

 フローレンスの宣言に、ランテは平静だったが、パースは目を見開く。

 魂の状態が確認できると、フローレンスはそう言っているのだ。

 フローレンスに対する驚きは、パースの中で更新され続けている。

 

「では、如何に」

「定期的に経過観察するため、ラビリンシアへ度々訪れさせていただきます」

 

 ランテという患者を、フローレンスは見過ごせなかった。

 病気とも言い難いランテの状態に、治療法は存在しない。

 だが、そんな言い訳を、フローレンスは許せないのだ。

 だから、経過観察を行い、治療法も探す。

 どれ程不可能であったとしても、フローレンスはそうする。

 

「心遣い、感謝する。故に、レート家からの支援は確約しよう」

「ありがとうございます」

 

 互いに謝意を伝え、ランテについての話はここで終わった。

 フローレンスは笑顔を取り戻す。

 

「次は、貴方です」

「……私ですか?」

 

 フローレンスの目は、パースに向けられていた。

 パースの背中に汗が流れる。

 気付かれていると、パースは悟っていた。

 何せ、フローレンスはパースとランテを診断して、『ラビリンシア王立近衛兵とは、人外の集まりですか?』と訊ねていた。

 そう。パースもおよそ人から外れていると、気付かれているのだ。

 

「貴方で間違いありませんよ?パースさん」

「もしかして、私にも何か異常がありましたか?健康には注意していたんですけどねぇ。困ったなぁ、これでは仕事に差し支えてしまいますよぉ」

 

 フローレンスはパースを笑顔の下から視線で射抜いていた。

 射抜かれている当の本人は、苦し紛れに(とぼ)けている。

 決して口を滑らせぬよう、パースは必死だ。

 

「貴方の血液には、霊薬が混じっていますね?傷をすぐに癒すような類の物が。その霊薬が血に混じって流れている結果、不老不死に近しい体になっておられるのでは?」

「……」

 

 パースは落胆した。

 ほぼ全て見透かされていたため、自身の行動はまさしく苦し紛れになったのだ。

 

「……もっと調べないと解析できないモノじゃないですかね、私の容態って」

「すみません、鎌をかけました」

「……」

 

 パースはうずくまった。

 口を滑らせぬようにしていたのに、この体たらく。

 鎌にかかった己の未熟に、パースは打ちひしがれている。

 

「と言っても、血液に異物を見つけた事とパース・ヴァルの霊薬から推理したのですが」

「いや、まぁ、うん……。そこでその霊薬と繋げられる時点で、私はお手上げです……」

 

 約1000年前であるパース・ヴァルの霊薬探索失敗と、パースの血液に混じった詳細不明の異物。

 絶対繋がらないだろうその2点。繋がる材料を鎌かけで渡してしまった事実は、なんら変わりない。

 しかし、フローレンスが擁護してくれたのをパースは感じ取っていた。

 その擁護に応え、パースは一旦立ち直る。

 

「あまり吹聴したくはないのですが、もう言い逃れもできないでしょう。……私がパース・ヴァルです」

 

 パースは諦念を滲ませながら、白状した。

 そう。パースが勇者アルト伝説に登場していた、パース・ヴァルなのである。

 

「霊薬は見つかっていたのですね?」

「ええ。幸運な事に、霊薬は見つかりました。ですが、それで運を使い果たしたのでしょう。霊薬を持ち帰る道中、魔物に襲われた私は、誤ってその霊薬を被ってしまいました」

 

 勇者アルトがレヴィから受けた致命傷を癒すための霊薬。

 ただ1つの、1人分だけのその霊薬は、パースの失敗で失われた。

 残ったモノは、勇者の死と、凡人の永生である。

 

「後の事は、ご想像にお任せします。今語るべき事ではないですし、語りたい事でもありません」

 

 パースは過去に付いて口を噤んだ。

 悲しみや悔いを、パースは苦笑の裏に隠す。

 

「それで、霊薬のおかげで至って健康なのですが。何か病気の兆候はありましたか?」

「体の方は何も。ただし、精神の方に懸念があります」

「なるほどなるほど。思い当たる節は、なくはないですね」

 

 ヒューマンの身でありながら、その生は1000年を越えている。

 精神の摩耗はあるかもしれない。

 

「デビルの血によって長く生きている者からの助言です。あまり過去に囚われず、楽しみを忘れないようにしてください」

「おや、フローレンス女医も長生きしていたんですねぇ。しかもデビルとの混血ですか」

 

 フローレンスという人物の輪郭がわずかでも捉えられたと、パースは内心喜んだ。

 悲しい事に、偽りの情報を掴まされているのだが。

 未熟さに打ちひしがれたり、己の失敗を暴かれてしまったりで、精神的に疲弊しているパースには、嘘と判別する余裕がなくなっている。

 

「デビルが言うと様にならないでしょうが。ご自愛くださいませ」

「いいえ。貴女程の医者には、相応しい言葉ですとも」

 

 パースもフローレンスも、相手の事情は詮索せず、友好的なやり取りをした。

 こうして、健康診断は締められるのだった。

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