100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
ミナ・ミヌエーラとラビリンシア、両方の国旗が至る所に飾られたシムルアムビスの街並み。
竜心王宮前の広場に組み上げられた、祝典用の舞台。
町中が活気づき、ミナ・ミヌエーラ国民は笑顔で溢れている。
ならば、今日が祭りの日である事は明白だ。
そう。今日が、俺とリカルドを主賓とする、感謝祭の日なのである。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!我らが前に座すは、我が国民、汝らが同胞を魔王軍の魔の手より救い出した者ら!勇者テノール、英雄リカルドなり!」
広場にて響くのは、紅竜王ゴッホの言葉。
舞台上の席に座る俺とリカルドを称えるその言葉は、俺たちの背後から広間に集まる国民へ聞かせるモノだった。
ドラゴンの姿で響かせる声は大きいが、集まった国民たちは勝るとも劣らない歓声を上げている。
俺とリカルドは、ミナ・ミヌエーラ国民に勇者と英雄である事を認めてもらえたのだ。
俺は新たに支援者となってくれる者たちへ、微笑みと手振りを返した。
リカルドは、胸に手を当てて一礼している。
俺には分かる。その動作が、痛みに耐えるための俯きと、胃に沿えた手である事を。
やっぱりリカルドは胃を痛めているのだ。
「彼らは魔王軍に拉致された国民を解放してくれたわ。その功績に報いるべく、私たちは勇者テノールをミナ・ミヌエーラでも正式に勇者の称号を、冒険者リカルドには英雄として歴史に名を刻む名誉を贈る事にしました。そして、感謝を示すために、祭りを催したのです」
いつも柔らかな雰囲気の白竜王グウィバーも、今は威厳と凛々しさを携えていた。
ゴッホの時とは対極に、国民は静かに聞き入っている。
「今日は皆、勇敢な彼らへの感謝を捧げ、そして彼らが連れ帰ってくれた同胞と酒を酌み交わせる事を喜びましょう」
グウィバーの意に沿うように、国民は目を瞑って祈るように感謝を捧げる。
恐ろしい統率力だ。ゴッホが喧騒を、グウィバーが静寂を操っていた。
そうして、頃合いを見て、またゴッホが国民を静寂より引き上げる。
「では、感謝祭を開催する!皆の者、楽しめ!!」
ゴッホが宣言すれば、辺りは凄まじい喧騒に包まれ、国民は思い思いに祝い始めた。
宣言を聞き終えてすぐに酒をあおっている者が居るあたり、酒を飲む口実にされてないか、多少不安である。
まぁ祈るような動作は途中してくれたし、感謝はしてくれているのだろう。
……されてるよな?
「テノール、リカルド。改めて、感謝する」
「私の大事な民を助けてくれて、ありがとうね」
双王は人型で俺たちと対面し、面と向かって感謝を告げた。
威厳があるが、傲慢ではない双王。
まさに名君だな。
「繰り返すようですが、勇者として当然の務めを果たしたまでです」
「俺は本当、成り行きだったんで……。その、今からでも英雄の名誉をなかった事に……」
俺は勇者らしく毅然とした応対をした。
リカルドの方は、周囲の目があるために取り繕ってはいるが、名誉の白紙を願い出ている。
「諦めよ。今さら撤回すれば、我の名誉にも傷が付く」
言葉を違えるようでは、民の信頼を損なわれる。
そういう言い分を盾にして、ゴッホはリカルドの嘆願を切り捨てた。
リカルドの笑みは引きつり、ゴッホは楽しそうに笑っている。
「おやおや、何やら歓談のご様子。私はお邪魔になってしまいますかねぇ」
そんな喜劇が繰り広げられる舞台に、パース、それとランテが上がってきた。
一応この2人も拉致被害者を送り届けた者として、ミナ・ミヌエーラに広められている。
主賓ではないが、来賓ではあるのだ。
舞台に上がる資格は充分にある。
「問題ない。むしろ、我が呼びかけに逆らう方が問題だ」
そもそも、ゴッホがパースとランテを呼んでいたらしい。
資格以前の話だった。
では、なぜ呼び寄せたのか。
「集まってもらったのは、国民にラビリンシアの使者と私たちが仲良くやっているのを見届けて欲しかったからよ?」
つまりは、ラビリンシアとミナ・ミヌエーラの友好関係を見せ付けたいとの事。
グウィバーは国家間の友誼を確固たるモノにしようとしているのだ。
ゴッホも同意見のようで、誇らしげに腕組している。
「という事で、乾杯しましょう?」
グウィバーが給仕から受け取ったのは、人数分のワイングラス。
そのワイングラスには、水が注がれていた。
おそらくは、エヴァーイーストの天然水だろう。
ここに居る皆も同じ意見に辿り着いているのか、訝しむ事なくグラスを手に取る。
「音頭は我が担おう。グラスは行き渡ったか?……良し」
ゴッホは皆の手にグラスがあるのを確認し、自身のグラスを掲げる。
「ミナ・ミヌエーラとラビリンシアの共存共栄を願い、乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯……」
「乾杯!」
「乾杯」
ゴッホの音頭に続き、グウィバーと俺、パースが乗り良く、リカルドが元気なく、ランテが静かにグラスを掲げ、グラスの中身を一息に飲み干した。
水はやはり、エヴァーイーストの天然水であった事を、味覚で感じ取る。
皆も天然水を味わい、他国の者同士で同じ水を味わえる喜びを噛みしめた。
そうして、和やかな祭りの時間が過ぎていく――
「ぐ、がああああああああああああああああ!!!!」
「う、あ……くぁ…………っ」
――はずだった。
「双王陛下!!」
ゴッホとグウィバーが突然苦しみだし、ドラゴンの姿となって空で身をよじっている。
事態の急変に、声を上げた俺も、リカルドもパースも、ランテさえも目を見開き、双王の異変に気を割いていた。
だが、俺たちに他人を心配する余裕などなかったのだ。
「ぐっ」
「あ……?」
「ぬ!?」
俺とリカルド、それにパースも、双王と同じ苦しみに見舞われる。
体中に、激痛が走ったのである。
(テノール!)
激痛で意識が途切れそうになった瞬間、エクスカリバーの声が聞こえたような気がして、俺は聖剣エクスカリバーの柄を握った。
しかし、声が聞こえた確証も、柄を握れた自覚も得られないまま、俺の意識は闇へと落ちるのだった。