100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十五節 暗闇に差す一筋の光

 俺の意識は、闇の中にあった。

 奇妙な感覚だ。

 夢の中という感じではない。暗い部屋の中という感じでもない。

 強いて言うなら、水の中を漂っている感覚だろうか。

 しかし、苦しくはないので、そこに居る訳ではない。

 

(……ル。お…、テノ……!)

 

 そんな闇に光が差す。

 

(テノール!)

 

 誰かが呼んでいる。

 誰だろう。声がくぐもっていて判別できない。

 だが、酷く聞き覚えはある。

 

(起きろこの下衆野郎!!)

(誰が下衆だクソ聖剣!!)

 

 とても残念な事に、声の主はエクスカリバーだった。

 最悪の気分だ。ああいう不思議空間からの目覚めは、美少女の声と相場が決まっているはずなのに。

 

(妄想語ってる場合じゃねぇっつの……)

(妄想じゃない、男の夢だ!お前は男の夢をぶち壊した!)

 

 なんだって目覚めがエクスカリバーなのだ。

 なんだったら白竜王陛下が良かった。

 性格にやや難があるが、人型時は優しくて朗らかな美人だし。

 

(まだ目が覚めてねぇみてぇだな……。しっかりと現実を見やがれ……)

(目は覚めてる!現実もしっかり見て現実的な人生設計を……。ん?)

 

 煽ってくるエクスカリバーの小憎たらしい顔を拝んでやろうと、俺は周りを見渡した。

 それでようやく異変に気付いたのだ。

 

(なんで、俺の目の前で俺が寝てるんだ?)

 

 小憎たらしい顔はどこにもなく、代わりに俺の体がベッドに横たえられているのを、俺は傍(はた)から拝んだ。

 そう。俺は、俺の魂は体から抜け出て、思念体のようになっていたのだ。

 

(エクスカリバー、何がどうなってる!)

(お前が、感謝祭の最中倒れたんだよ……)

 

 エクスカリバーが苦しそうにしながらも、直前の記憶を思い出させてくれた。

 エクスカリバーの言う通り、俺は激痛に見舞われて意識を手放したのである。

 

(毒を、飲まされたのか。そして、お前が肩代わりしてるんだな)

 

 エクスカリバーは苦しそうにし、かつその姿は見えない。

 とするなら、今俺の体に入っているのがエクスカリバーであり、毒の痛みに耐えているのだろう。

 

(……はっ。毒なんかで担い手に死なれたとなっちゃ、オレの箔も落ちるってもんだ……。それに、肉体強化で毒の耐性を得るなんて器用な事、お前にはできねぇしな……)

 

 俺の推測は当たった。

 現在、エクスカリバーが俺の体に宿り、肉体強化で治癒能力を上げ、毒に対抗している。

 器用どころではない。魔力の操作に長けた、エクスカリバーの妙技だ。

 

(世辞なんて言ってる暇はねぇぞ……。魔力保有量からいって、猶予は2日だ……)

 

 肉体強化も魔術の初歩。魔力は当然消費される。

 そして、俺の魔力保有量では持続できて2日。

 むしろ、平凡な俺の魔力保有量でよくも2日持続できるものだ。

 とかく、その短い猶予で何をすれば良いか。

 決まりきった事だ。

 

(毒を仕込んだ犯人を探す。そうだな)

(……今だけは、お前の狡賢さが頼もしいぜ)

 

 即座に行動目標を察する事ができる俺の賢さを、エクスカリバーは信頼してくれた。

 『狡』と、いらぬ文字が入っていたが、構っている時間が惜しい。

 

(オレからの助言だ……。毒は、魔術的な物で、おそらく継続して行使しねぇと駄目な類……。魔道具か本人かは知らねぇが、行使し続けてる奴が居るはずだ……)

(確認するが、魔術だが、毒なんだな?)

(経験則で、まだ実態を把握できてねぇが……。お前の飲み食いしたもんの中に、毒の素かつ魔術媒体が混ざってて、後から魔術で毒にした……。そんな感じだろうな……)

 

 つまりは普通の毒薬と同じく、経口か注射によって投与された事にはなる。

 だが、俺の体に入っている状態で毒を生成したため、俺が食べた物を調べたとしても、毒薬は検出できない。

 よって、俺が食べた物自体を調べたところでほぼ無意味となり、食べ物から犯人を炙り出すのは不可能。

 敵ながら上手い策を使ってくる。

 

(しかし、双王陛下も同じ毒にやられたとすれば、双王陛下は相当量毒の素を摂取してるはず……)

 

 人型になっていたとはいえ、本当の姿はドラゴン。

 毒の効力を発揮させるには、ドラゴンの大きな図体に比した量が必要となる。

 双王陛下へ毒の素を大量に投与できるのは、いったい誰だ。

 

(……フローレンス?)

 

 その条件に該当するのが1人。

 双王陛下の予防接種をした女医、フローレンスだ。

 

(いや、俺の健康診断時には注射なんてされてない。彼女が俺に毒の素を投与できる機会はない、よな?)

 

 もしかしたら、あの診察室に毒の素を漂わせ、俺やリカルドに嗅がせていたかもしれない。

 あの女医なら、それくらいの事ができそうだ。

 

 そんな思考をしていたところ、俺の体がうめき始める。

 

(悪いが……。肉体強化に、専念させてもらうぜ……)

 

 エクスカリバーの余裕がなくなってきたようだ。

 

(最後に1つ……。フィグ・ドールは人間じゃねぇ……。それだけ、覚えとけ…………)

(フィグが人間じゃない?ちょっと待て、しっかり説明しろ!エクスカリバー!)

 

 残念ながら、エクスカリバーはその言葉を最後に、返事をしなくなってしまった。

 エクスカリバーはもう、肉体強化に専念せざるを得ないのだ。

 

(クソ、容疑者はとりあえず2人か。フィグとフローレンス。まずはその2人を洗う)

 

 手掛かりはある。俺の頭はしっかり回っている。思念体だが、俺は動ける。

 ならば、犯人を見つけ出せるはずだ。

 

(俺に毒を飲ませたんだ。高く付くぞ、犯人)

 

 真相を絶対に暴くと、俺は決心するのだった。

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