100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
俺の意識は、闇の中にあった。
奇妙な感覚だ。
夢の中という感じではない。暗い部屋の中という感じでもない。
強いて言うなら、水の中を漂っている感覚だろうか。
しかし、苦しくはないので、そこに居る訳ではない。
(……ル。お…、テノ……!)
そんな闇に光が差す。
(テノール!)
誰かが呼んでいる。
誰だろう。声がくぐもっていて判別できない。
だが、酷く聞き覚えはある。
(起きろこの下衆野郎!!)
(誰が下衆だクソ聖剣!!)
とても残念な事に、声の主はエクスカリバーだった。
最悪の気分だ。ああいう不思議空間からの目覚めは、美少女の声と相場が決まっているはずなのに。
(妄想語ってる場合じゃねぇっつの……)
(妄想じゃない、男の夢だ!お前は男の夢をぶち壊した!)
なんだって目覚めがエクスカリバーなのだ。
なんだったら白竜王陛下が良かった。
性格にやや難があるが、人型時は優しくて朗らかな美人だし。
(まだ目が覚めてねぇみてぇだな……。しっかりと現実を見やがれ……)
(目は覚めてる!現実もしっかり見て現実的な人生設計を……。ん?)
煽ってくるエクスカリバーの小憎たらしい顔を拝んでやろうと、俺は周りを見渡した。
それでようやく異変に気付いたのだ。
(なんで、俺の目の前で俺が寝てるんだ?)
小憎たらしい顔はどこにもなく、代わりに俺の体がベッドに横たえられているのを、俺は
そう。俺は、俺の魂は体から抜け出て、思念体のようになっていたのだ。
(エクスカリバー、何がどうなってる!)
(お前が、感謝祭の最中倒れたんだよ……)
エクスカリバーが苦しそうにしながらも、直前の記憶を思い出させてくれた。
エクスカリバーの言う通り、俺は激痛に見舞われて意識を手放したのである。
(毒を、飲まされたのか。そして、お前が肩代わりしてるんだな)
エクスカリバーは苦しそうにし、かつその姿は見えない。
とするなら、今俺の体に入っているのがエクスカリバーであり、毒の痛みに耐えているのだろう。
(……はっ。毒なんかで担い手に死なれたとなっちゃ、オレの箔も落ちるってもんだ……。それに、肉体強化で毒の耐性を得るなんて器用な事、お前にはできねぇしな……)
俺の推測は当たった。
現在、エクスカリバーが俺の体に宿り、肉体強化で治癒能力を上げ、毒に対抗している。
器用どころではない。魔力の操作に長けた、エクスカリバーの妙技だ。
(世辞なんて言ってる暇はねぇぞ……。魔力保有量からいって、猶予は2日だ……)
肉体強化も魔術の初歩。魔力は当然消費される。
そして、俺の魔力保有量では持続できて2日。
むしろ、平凡な俺の魔力保有量でよくも2日持続できるものだ。
とかく、その短い猶予で何をすれば良いか。
決まりきった事だ。
(毒を仕込んだ犯人を探す。そうだな)
(……今だけは、お前の狡賢さが頼もしいぜ)
即座に行動目標を察する事ができる俺の賢さを、エクスカリバーは信頼してくれた。
『狡』と、いらぬ文字が入っていたが、構っている時間が惜しい。
(オレからの助言だ……。毒は、魔術的な物で、おそらく継続して行使しねぇと駄目な類……。魔道具か本人かは知らねぇが、行使し続けてる奴が居るはずだ……)
(確認するが、魔術だが、毒なんだな?)
(経験則で、まだ実態を把握できてねぇが……。お前の飲み食いしたもんの中に、毒の素かつ魔術媒体が混ざってて、後から魔術で毒にした……。そんな感じだろうな……)
つまりは普通の毒薬と同じく、経口か注射によって投与された事にはなる。
だが、俺の体に入っている状態で毒を生成したため、俺が食べた物を調べたとしても、毒薬は検出できない。
よって、俺が食べた物自体を調べたところでほぼ無意味となり、食べ物から犯人を炙り出すのは不可能。
敵ながら上手い策を使ってくる。
(しかし、双王陛下も同じ毒にやられたとすれば、双王陛下は相当量毒の素を摂取してるはず……)
人型になっていたとはいえ、本当の姿はドラゴン。
毒の効力を発揮させるには、ドラゴンの大きな図体に比した量が必要となる。
双王陛下へ毒の素を大量に投与できるのは、いったい誰だ。
(……フローレンス?)
その条件に該当するのが1人。
双王陛下の予防接種をした女医、フローレンスだ。
(いや、俺の健康診断時には注射なんてされてない。彼女が俺に毒の素を投与できる機会はない、よな?)
もしかしたら、あの診察室に毒の素を漂わせ、俺やリカルドに嗅がせていたかもしれない。
あの女医なら、それくらいの事ができそうだ。
そんな思考をしていたところ、俺の体がうめき始める。
(悪いが……。肉体強化に、専念させてもらうぜ……)
エクスカリバーの余裕がなくなってきたようだ。
(最後に1つ……。フィグ・ドールは人間じゃねぇ……。それだけ、覚えとけ…………)
(フィグが人間じゃない?ちょっと待て、しっかり説明しろ!エクスカリバー!)
残念ながら、エクスカリバーはその言葉を最後に、返事をしなくなってしまった。
エクスカリバーはもう、肉体強化に専念せざるを得ないのだ。
(クソ、容疑者はとりあえず2人か。フィグとフローレンス。まずはその2人を洗う)
手掛かりはある。俺の頭はしっかり回っている。思念体だが、俺は動ける。
ならば、犯人を見つけ出せるはずだ。
(俺に毒を飲ませたんだ。高く付くぞ、犯人)
真相を絶対に暴くと、俺は決心するのだった。