100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十六節 窮地を1つ乗り越えて

 俺の体に入って毒に対抗するエクスカリバー。

 俺の体から抜け出し、思念体のようになっている俺。

 調査役は当然俺になるのだが、問題があった。

 

(どうやって思念体で犯人を指名すれば……)

 

 意思疎通を図れるエクスカリバーは、毒への対抗に専念してしまっている。

 思念体となった俺は、誰とも意思疎通を図れない状態にあるのだ。

 

(情報収集は、どうにでもなる。誰にも感知されないのを良い事に、容疑者に付きまとえば良い)

 

 真相を暴くには、思念体は適している。

 だが、暴いても真相を他人に伝えられない。

 犯人が分かっても、俺は傍観しかできないのだ。

 

(考えろ。何かあるはずだ、思念体でも他人に意思を伝える方法が……!)

 

 意思を伝える方法を見つけるべく、俺は思考する。

 

(思念体が意思疎通を図れるのは、思念体が宿る物体の所有者……)

 

 エクスカリバーと会話できていたのは、俺が聖剣エクスカリバーの所有者だったからだ。

 エクスカリバーの声は俺にしか聞こえず、思念体は俺しか見えない。

 

 ……本当にそうか?

 何故だか、俺にはそれ以外の例があったような気がする。

 俺以外の誰かと、エクスカリバーが会話をしていたような記憶。

 それがおぼろげに存在する。

 では、誰だったか。

 

(誰だ……、誰だ!俺もその現場を目撃してたはずだ!だが、聖剣エクスカリバーを誰かに渡した事なんてない。そも、俺が所有してなかったら、エクスカリバーを知覚できない!)

 

 エクスカリバーともう1人、その両者を俺が知覚していたのは確かだ。

 そうなると、俺が聖剣エクスカリバーを所有し、かつその相手も聖剣エクスカリバーを所有していた事になる。

 

(ムラマサ、じゃない……。俺へエクスカリバーの状態を確認してきた。だから、あいつはエクスカリバーが見えない。……ムラマサ?)

 

 『ムラマサ』という言葉に、俺は引っ掛かりを覚えた。

 ムラマサ関連の相手だったような、そんな感覚がある。

 

(レオナルド……、違う。ユウダチ……、違う。リカルド……、違う)

 

 ムラマサの友人ではない。聖剣デュランダルをムラマサに直してもらった者でもない。

 

(待て……。『所有』?『ムラマサ関連』?……そうか!)

 

 俺の思考が、少し外れていた事に気付く。

 俺と共に聖剣エクスカリバーを所有した相手ではない。

 俺が、聖剣エクスカリバーとその相手を所有しているのだ。

 そして、俺がムラマサ関連で所有しているのは1つ。

 

(首飾りヌエトラ!)

 

 ムラマサに返しそこねていたあの魂宿る首飾りが、奇しくもこの窮状を脱する1手となる。

 俺はすぐに首飾りを探す。

 病室は個室。荷物は部屋の隅にまとめられていた。

 首飾りヌエトラもそこにあり、表に出ている。

 

(ヌエトラ、ちょっと悪いが緊急事態だ。引っ張り出させてもらう!)

 

 物体を擦り抜けるはずだが、首飾りには触れた感触があった。

 そのまま、以前エクスカリバーがやったように、俺は引っ張ってみる。

 

(わ、わ!ひ、引っ張らないでください!自分から出ますから!)

 

 エクスカリバーが引っ張り出した時とは違い、ヌエトラは抵抗なく姿を現した。

 所有者の危機を伝達する役目を担っているだけあって、ヌエトラも緊急事態であると理解しているようだ。

 

(ヌエトラ。突然だが、他の首飾りと会話はできるか)

(は、はい。思念体で他の首飾りに近付けば、できるはずです。所有者とも話せるよう、思念を繋げられるはず、です。初の試みなので、確証はありませんが)

 

 意思疎通の方法を見つけた。

 少なくとも、これでムラマサとは会話できる。

 後は、ヌエトラの協力を得れば良い。

 

(手伝ってくれ。君だけが頼りだ)

 

 俺はヌエトラの手を包み込み、真摯に目を見つめた。

 誠実な勇者の雰囲気を、俺ができる最大限でまとう。

 

(きょ、協力させていただけるなら是非!所有者が危機に瀕しているのに、何もできないのは嫌です!)

 

 なるほど。善性と正義感がこの子にはあるようだ。

 これは、今後利用できるかもしれない。

 ……何故だが、エクスカリバーに『下衆い』と言われたような錯覚に陥る。

 ともかく、協力は得られた。

 

(ありがとう。まずはムラマサと話がしたい。場所は分かるか)

(アチ、じゃなくて。ムラマサ様も首飾りヌエを持っていますので、場所は分かります!こっちです!)

 

 こちらの意図を読み取り、ヌエトラは案内してくれる。

 壁を擦り抜け、物を擦り抜け、あらゆる邪魔を無視して真っすぐに進む。

 道中でミナ・ミヌエーラ国民の不安がたくさん聞こえてきた。

 双王陛下もやはり気絶中であると、国民が口々に呟いている。

 おまけに、活火山であるキラーウェアーが活性化しているようだ。

 噴火間近であるのに、沈静化できる双王が動けない。

 そういう機を敵は狙ったのだろう。実に狡猾だ。

 

 双王が回復しなければ、キラーウェアーは噴火し、シムルアムビスは溶岩に飲まれるだろう。

 そんな不安に駆られ、落ち着けない国民たち。

 普段だったら名声稼ぎに言葉をかけるが、今は思念体なので素通りさせてもらう。

 

 そうしてヌエトラに付いて行き、辿り着いたのは、意外な場所だった。

 

(は?どうしてフローレンスがもう捕まってるんだ?)

 

 その場所は、フローレンスが捕らえられている刑務所だったのだ。

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