100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
俺の体に入って毒に対抗するエクスカリバー。
俺の体から抜け出し、思念体のようになっている俺。
調査役は当然俺になるのだが、問題があった。
(どうやって思念体で犯人を指名すれば……)
意思疎通を図れるエクスカリバーは、毒への対抗に専念してしまっている。
思念体となった俺は、誰とも意思疎通を図れない状態にあるのだ。
(情報収集は、どうにでもなる。誰にも感知されないのを良い事に、容疑者に付きまとえば良い)
真相を暴くには、思念体は適している。
だが、暴いても真相を他人に伝えられない。
犯人が分かっても、俺は傍観しかできないのだ。
(考えろ。何かあるはずだ、思念体でも他人に意思を伝える方法が……!)
意思を伝える方法を見つけるべく、俺は思考する。
(思念体が意思疎通を図れるのは、思念体が宿る物体の所有者……)
エクスカリバーと会話できていたのは、俺が聖剣エクスカリバーの所有者だったからだ。
エクスカリバーの声は俺にしか聞こえず、思念体は俺しか見えない。
……本当にそうか?
何故だか、俺にはそれ以外の例があったような気がする。
俺以外の誰かと、エクスカリバーが会話をしていたような記憶。
それがおぼろげに存在する。
では、誰だったか。
(誰だ……、誰だ!俺もその現場を目撃してたはずだ!だが、聖剣エクスカリバーを誰かに渡した事なんてない。そも、俺が所有してなかったら、エクスカリバーを知覚できない!)
エクスカリバーともう1人、その両者を俺が知覚していたのは確かだ。
そうなると、俺が聖剣エクスカリバーを所有し、かつその相手も聖剣エクスカリバーを所有していた事になる。
(ムラマサ、じゃない……。俺へエクスカリバーの状態を確認してきた。だから、あいつはエクスカリバーが見えない。……ムラマサ?)
『ムラマサ』という言葉に、俺は引っ掛かりを覚えた。
ムラマサ関連の相手だったような、そんな感覚がある。
(レオナルド……、違う。ユウダチ……、違う。リカルド……、違う)
ムラマサの友人ではない。聖剣デュランダルをムラマサに直してもらった者でもない。
(待て……。『所有』?『ムラマサ関連』?……そうか!)
俺の思考が、少し外れていた事に気付く。
俺と共に聖剣エクスカリバーを所有した相手ではない。
俺が、聖剣エクスカリバーとその相手を所有しているのだ。
そして、俺がムラマサ関連で所有しているのは1つ。
(首飾りヌエトラ!)
ムラマサに返しそこねていたあの魂宿る首飾りが、奇しくもこの窮状を脱する1手となる。
俺はすぐに首飾りを探す。
病室は個室。荷物は部屋の隅にまとめられていた。
首飾りヌエトラもそこにあり、表に出ている。
(ヌエトラ、ちょっと悪いが緊急事態だ。引っ張り出させてもらう!)
物体を擦り抜けるはずだが、首飾りには触れた感触があった。
そのまま、以前エクスカリバーがやったように、俺は引っ張ってみる。
(わ、わ!ひ、引っ張らないでください!自分から出ますから!)
エクスカリバーが引っ張り出した時とは違い、ヌエトラは抵抗なく姿を現した。
所有者の危機を伝達する役目を担っているだけあって、ヌエトラも緊急事態であると理解しているようだ。
(ヌエトラ。突然だが、他の首飾りと会話はできるか)
(は、はい。思念体で他の首飾りに近付けば、できるはずです。所有者とも話せるよう、思念を繋げられるはず、です。初の試みなので、確証はありませんが)
意思疎通の方法を見つけた。
少なくとも、これでムラマサとは会話できる。
後は、ヌエトラの協力を得れば良い。
(手伝ってくれ。君だけが頼りだ)
俺はヌエトラの手を包み込み、真摯に目を見つめた。
誠実な勇者の雰囲気を、俺ができる最大限でまとう。
(きょ、協力させていただけるなら是非!所有者が危機に瀕しているのに、何もできないのは嫌です!)
なるほど。善性と正義感がこの子にはあるようだ。
これは、今後利用できるかもしれない。
……何故だが、エクスカリバーに『下衆い』と言われたような錯覚に陥る。
ともかく、協力は得られた。
(ありがとう。まずはムラマサと話がしたい。場所は分かるか)
(アチ、じゃなくて。ムラマサ様も首飾りヌエを持っていますので、場所は分かります!こっちです!)
こちらの意図を読み取り、ヌエトラは案内してくれる。
壁を擦り抜け、物を擦り抜け、あらゆる邪魔を無視して真っすぐに進む。
道中でミナ・ミヌエーラ国民の不安がたくさん聞こえてきた。
双王陛下もやはり気絶中であると、国民が口々に呟いている。
おまけに、活火山であるキラーウェアーが活性化しているようだ。
噴火間近であるのに、沈静化できる双王が動けない。
そういう機を敵は狙ったのだろう。実に狡猾だ。
双王が回復しなければ、キラーウェアーは噴火し、シムルアムビスは溶岩に飲まれるだろう。
そんな不安に駆られ、落ち着けない国民たち。
普段だったら名声稼ぎに言葉をかけるが、今は思念体なので素通りさせてもらう。
そうしてヌエトラに付いて行き、辿り着いたのは、意外な場所だった。
(は?どうしてフローレンスがもう捕まってるんだ?)
その場所は、フローレンスが捕らえられている刑務所だったのだ。