100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
ヌエトラの協力を得て、意思疎通が取れるムラマサの下へ向かった先。
そこで出くわしたのが、ムラマサが刑務所に入っているフローレンスと面会室で会っている現場だったのである。
(あ、あの。ア……、ムラマサ様は首飾りヌエズミを持ち歩いているようなので、思念を繋げられますけど……)
(待ってくれ。ちょっと様子を見たい)
ヌエトラが俺の要求をいち早く叶えてくれようとしたが、俺は一旦制止した。
この場の会話は傍聴しておきたいのだ。
そもそも、刑務官が見張っている所で思念体との会話は怪しまれるだろう。
(え、あ、でも……)
(すまない。もしかしたら、事件解決に関わる事かもしれないんだ)
友人であるムラマサ相手なら、フローレンスは会話中に真相を漏らすかもしれない。
俺はその瞬間を期待し、耳を傾ける。
「随分と面倒な事に巻き込まれましたね、フローレンス」
「ええ。全く以ってその通りです」
ムラマサとフローレンスはそろって呆れを吐露していた。
どうにも今回の事を茶番だと、2人は考えているようだ
「『健康診断と偽って、双王陛下及び国賓に毒を盛った』、でしたか?面白い吹っ掛けです」
ムラマサが言うには、それがフローレンスの罪状らしい。
誰かが俺と同じような推理に至っていたようだ。
しかし、この2人の雰囲気から察するに、冤罪なのだろうか。
「心外です。毒はおろか、薬物を過剰に投与した事すら、今世において1度もありません」
「それが貴女の力ですからね。ボクは疑ってませんよ?」
「それについては、私も疑っておりません」
フローレンスとムラマサはお互いを信じていた。
正確に言えば、ムラマサはフローレンスの能力を、フローレンスはムラマサとの絆を信じているようだが。
俺も、フローレンスの医師として高い実力は信じられる。
だからこそ、相手に知覚させないまま薬物が投与できたのではないかと、俺は疑っているのだが。
「吹っ掛けたのは誰ですか?おおかた、そいつが犯人でしょう」
「容疑をかけたのは、フィグ・ドール大臣です」
ここで、エクスカリバーの助言と繋がる。
人ではないらしいフィグが、フローレンスに罪を被せた。
これで、フィグが魔王軍もしくは魔物の国の潜入工作員、という線が浮かび上がってきたのだ。
(自供ではないが、良い情報を得られたな)
犯人は洗い出せた。これ以上ムラマサたちの会話を傍聴する必要はない。
もしフィグではなかったとすれば、今度こそフローレンスが真犯人である。
「面会終了時間だ」
都合の良い事に、刑務官は面会を終わらせにかかっていた。
おそらくは、話がおかしな方向に進み出したので、刑務官は面会を中断しようとしている。
それの証明として、刑務官は語気を強めていた。
何にせよ、これでムラマサが1人になったところを狙って会話できる。
「はぁ……。また会いましょう、フローレンス。次は、きっと刑務所の外ですね。さっさと出所してもらって、テノールたちの解毒剤を作ってもらわないといけませんから」
「テノールさんにお熱ですね」
「なるほど。外は外でも処刑台の上が良いと。刑務官、こいつが死刑になったら死刑執行人はボクに務めさせてもらえませんか?」
名残惜しそうにムラマサが立ち上がったところ、フローレンスは言葉の1か所を拾い上げて揶揄いにかかった。
その揶揄いを受けたムラマサは、友達に殺意を向けだす。
さっきまで良好な仲だった2人の急に険悪になるものだから、刑務官も困惑気味だ。
「は、早く解散しろ。面会時間を無理に引き延ばすようなら、お前も逮捕するぞ」
困惑しながらも、刑務官はとりあえず職務を全うした。
自分勝手な奴らに呑まれない、見事な仕事っぷりである。
「はいはい。出てけば良いんでしょ、出てけば。それでは今度こそ。また会いましょう」
「次は
「もちろんですよ」
ムラマサとフローレンスは楽しそうに笑い合っていた。
そうして、2人は軽い雰囲気でこの場を後にする。
その雰囲気はまるで、絶対に助け出せるというムラマサの自信と、絶対に助け出してくれるというフローレンスの信頼を表しているようだった。
どれ程の仲かは計り知れないが、強固な絆があるのは明白だったのだ。
ならばこそ、その仲を利用もとい手助けしようと、俺は刑務所から出たムラマサに近寄る。
(待たせたな、ヌエトラ。繋げてくれ)
(は、はい!)
ヌエトラは俺の合図で、ムラマサの首飾りを触れに行く。
(ヌエズミ、緊急の用事です!応答してください!)
触れた上で、しっかり呼び掛けた。
突然引っ張っちゃ駄目だよな。
(な、なんですか!ヌエトラ!私たちの仕事を放り出してきて!)
ムラマサの首飾りから出現したのは、ヌエトラと顔立ちが似た少女。
ただし、ヌエトラと違い、耳や尻尾が
「ん?どうしたんですか、ヌエズミ。……ん?」
ヌエズミの出現に反応したムラマサの視線が、俺の視線と合致する。
思念が繋がったのだ。
これで、ようやく次の手順に取り掛かれる。
(ムラマサ、力を貸してほしい)
こうして、俺はムラマサに協力を願い出るのだった。