100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
(ムラマサ、力を貸してほしい)
ムラマサに思念体である俺を視認された開口一番。
俺はムラマサに、協力を願い出たのだ。
まず、状況説明ではなく、このように趣旨を伝える。
人に何かを伝える時、初めに結論を言って内容を理解しやすくする手法だ。
(……ちょっと待ちなさい。状況を整理させなさい)
ムラマサは神妙な顔つきで一旦流れを切り、立ち止まっても往来の邪魔にならない道端に移動した。
多少頭が追い付いていないようではあるが、声ではなく思念で応答した辺り、ムラマサは冷静だ。
ここで声による応答をしたら、誰もいないのに1人で喋る変人と、周りに映るからな。
(……テノール、ですよね)
(そうだ。毒薬を盛られて昏睡状態にあるはずのテノールだ)
ムラマサの問いに答えつつ、状況の認識を擦り合わせる。
俺が昏睡状態と知られていなければ、話が進まない。
(……どうして昏睡状態の貴方が、魂だけで徘徊してるんですか?)
状況の認識に差異はないようで、ムラマサは俺が昏睡状態にある事を不思議に思わなかった。
それだけでなく、ムラマサは俺の状態をしっかり認識できている。
(エクスカリバーが、俺の身代わりになってくれている。エクスカリバーは、俺の魂を俺の体から追い出した。そして、エクスカリバーが俺の体に入って、毒に対抗している)
(……予想以上の成果です。確かに聖剣エクスカリバーは宿した魂の経験と技量を最大限活かすため、所有者の体に憑依する性能に特化させました)
あの乗っ取りって製造者が意図して特化させたモノだったのかよ。
聖剣エクスカリバーを製造した当時のムラマサを殴りたくなってきた。
目の前に居るのはただの後継者という事で、俺は非難したりしない。
(あくまで憑依であり、完全に主導権を奪うようにはしてなかったと?)
(所有者との相性次第では、主導権を任意で渡せるようになります。けど、魂を入れ替えるような芸当は、余程相性が良くないとできないはずです)
ムラマサは神妙な顔つきのままであるため、内心驚愕しているのだろう。
俺も正直驚愕している。
だって、あの強制的乗っ取りが意図した性能でないと聞かされたのだから。
どれ程俺とエクスカリバーは相性が良いのだ。
触れただけで乗っ取られる俺としては勘弁してほしい。
(なるほど。貴方はなるべくして聖剣エクスカリバーの担い手になったんですね)
だから『勘弁してほしい』と言ってるだろう。
そんな畏敬の眼差しを向けられたって、俺は何にも嬉しくない。
(話を戻そう。毒薬を盛った犯人の捜索がしたい。協力してくれないか?)
(むしろ協力してください。こっちの友人は犯人に仕立て上げられています。犯人はほぼ特定できていますが、証拠がない。証拠探しを手伝ってください)
俺が改めて協力を願えば、あっちからも協力を願われた。
なら、協力にお互い異存はない。
(君とフローレンスさんの会話を聞かせてもらった。犯人はフィグさんと予想してるんだったか)
(……盗み聞きとは、趣味が悪いですよ)
(謝罪しよう。だが、俺はフローレンスさんも疑っていたんだ。双王陛下と俺たちに毒を投与できるのは、彼女しか居なかった)
俺がフローレンスを疑っていた事について明かせば、ムラマサの顔つきは不機嫌なそれに変わった。
友人を疑われた事に、気分を害したようだ。
(言っておきますが、フローレンスは絶対に人を殺しません。手術中も含めてです。あいつが誰かを殺すなんて、絶対にあり得ない)
(……君の親友を疑って、すまない)
ムラマサが怒りを滲ませているので、俺は一旦しっかり謝っておいた。
これは、フローレンスが犯人である可能性を追えそうにない。
もし真犯人がフローレンスだったら危険だ。
そうでない事を、俺は切に祈る。
(ま、良いです。疑ってしまう気持ちは分からなくもありません。あいつは結構自分勝手ですから、不興を買ってしまう事も多々ありますから)
……お前が言うなと、突っ込んだ方が良いのだろうか。
駄目そうだから止めておこう。
そんな事より情報共有だ。
(とりあえずだ。フィグさんが犯人である線を、エクスカリバーも推していた。フィグさんは、人間じゃないそうだ)
(有力情報ですね。聖剣エクスカリバーに宿っていた魂は、直感が恐ろしい程冴えていたそうですから)
ムラマサはエクスカリバーの意見を素直に聞き入れてくれた。
エクスカリバーの事を正確に把握しているおかげだろう。
話が早くて助かる。
(証拠についても、そう難しくない。エクスカリバーの直感だが、相手は双王陛下らの体内で毒を生成するため、そういう魔術を継続的に行使してる。本人に容疑をかける暇があったとするなら、継続行使しているのは魔道具だ)
(魔道具が証拠になるんですね)
毒生成魔道具を見つければ、それを証拠にしてフィグが犯人だと証明できる。
実に単純な勝利条件だ。
ただ、ちょっとした難題がある。
(どうやって大臣の家やら執務室を漁るか、だな)
仮にも相手は高官。捜査権などないムラマサには、正規の手段で証拠を漁るのは不可能だ。
(それなら問題ありません。心強い味方が居ます)
(……誰だ?)
(ラン、ラン……ルー?違う。ラン、なんとかだったはずです)
相変わらず人の名前を記憶していないムラマサ。
だが、彼女が差している相手は理解できた。
しかし、理解できない事が1つある。
(なんで、ランテさんが動けているんだ?)
俺と同じく毒を盛られたはずの人間が動いている事。
俺には、それが理解できないのだった。