100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十八節 心強い味方

(ムラマサ、力を貸してほしい)

 

 ムラマサに思念体である俺を視認された開口一番。

 俺はムラマサに、協力を願い出たのだ。

 まず、状況説明ではなく、このように趣旨を伝える。

 人に何かを伝える時、初めに結論を言って内容を理解しやすくする手法だ。

 

(……ちょっと待ちなさい。状況を整理させなさい)

 

 ムラマサは神妙な顔つきで一旦流れを切り、立ち止まっても往来の邪魔にならない道端に移動した。

 多少頭が追い付いていないようではあるが、声ではなく思念で応答した辺り、ムラマサは冷静だ。

 ここで声による応答をしたら、誰もいないのに1人で喋る変人と、周りに映るからな。

 

(……テノール、ですよね)

(そうだ。毒薬を盛られて昏睡状態にあるはずのテノールだ)

 

 ムラマサの問いに答えつつ、状況の認識を擦り合わせる。

 俺が昏睡状態と知られていなければ、話が進まない。

 

(……どうして昏睡状態の貴方が、魂だけで徘徊してるんですか?)

 

 状況の認識に差異はないようで、ムラマサは俺が昏睡状態にある事を不思議に思わなかった。

 それだけでなく、ムラマサは俺の状態をしっかり認識できている。

 

(エクスカリバーが、俺の身代わりになってくれている。エクスカリバーは、俺の魂を俺の体から追い出した。そして、エクスカリバーが俺の体に入って、毒に対抗している)

(……予想以上の成果です。確かに聖剣エクスカリバーは宿した魂の経験と技量を最大限活かすため、所有者の体に憑依する性能に特化させました)

 

 あの乗っ取りって製造者が意図して特化させたモノだったのかよ。

 聖剣エクスカリバーを製造した当時のムラマサを殴りたくなってきた。

 目の前に居るのはただの後継者という事で、俺は非難したりしない。

 

(あくまで憑依であり、完全に主導権を奪うようにはしてなかったと?)

(所有者との相性次第では、主導権を任意で渡せるようになります。けど、魂を入れ替えるような芸当は、余程相性が良くないとできないはずです)

 

 ムラマサは神妙な顔つきのままであるため、内心驚愕しているのだろう。

 俺も正直驚愕している。

 だって、あの強制的乗っ取りが意図した性能でないと聞かされたのだから。

 どれ程俺とエクスカリバーは相性が良いのだ。

 触れただけで乗っ取られる俺としては勘弁してほしい。

 

(なるほど。貴方はなるべくして聖剣エクスカリバーの担い手になったんですね)

 

 だから『勘弁してほしい』と言ってるだろう。

 そんな畏敬の眼差しを向けられたって、俺は何にも嬉しくない。

 

(話を戻そう。毒薬を盛った犯人の捜索がしたい。協力してくれないか?)

(むしろ協力してください。こっちの友人は犯人に仕立て上げられています。犯人はほぼ特定できていますが、証拠がない。証拠探しを手伝ってください)

 

 俺が改めて協力を願えば、あっちからも協力を願われた。

 なら、協力にお互い異存はない。

 

(君とフローレンスさんの会話を聞かせてもらった。犯人はフィグさんと予想してるんだったか)

(……盗み聞きとは、趣味が悪いですよ)

(謝罪しよう。だが、俺はフローレンスさんも疑っていたんだ。双王陛下と俺たちに毒を投与できるのは、彼女しか居なかった)

 

 俺がフローレンスを疑っていた事について明かせば、ムラマサの顔つきは不機嫌なそれに変わった。

 友人を疑われた事に、気分を害したようだ。

 

(言っておきますが、フローレンスは絶対に人を殺しません。手術中も含めてです。あいつが誰かを殺すなんて、絶対にあり得ない)

(……君の親友を疑って、すまない)

 

 ムラマサが怒りを滲ませているので、俺は一旦しっかり謝っておいた。

 これは、フローレンスが犯人である可能性を追えそうにない。

 もし真犯人がフローレンスだったら危険だ。

 そうでない事を、俺は切に祈る。

 

(ま、良いです。疑ってしまう気持ちは分からなくもありません。あいつは結構自分勝手ですから、不興を買ってしまう事も多々ありますから)

 

 ……お前が言うなと、突っ込んだ方が良いのだろうか。

 駄目そうだから止めておこう。

 そんな事より情報共有だ。

 

(とりあえずだ。フィグさんが犯人である線を、エクスカリバーも推していた。フィグさんは、人間じゃないそうだ)

(有力情報ですね。聖剣エクスカリバーに宿っていた魂は、直感が恐ろしい程冴えていたそうですから)

 

 ムラマサはエクスカリバーの意見を素直に聞き入れてくれた。

 エクスカリバーの事を正確に把握しているおかげだろう。

 話が早くて助かる。

 

(証拠についても、そう難しくない。エクスカリバーの直感だが、相手は双王陛下らの体内で毒を生成するため、そういう魔術を継続的に行使してる。本人に容疑をかける暇があったとするなら、継続行使しているのは魔道具だ)

(魔道具が証拠になるんですね)

 

 毒生成魔道具を見つければ、それを証拠にしてフィグが犯人だと証明できる。

 実に単純な勝利条件だ。

 ただ、ちょっとした難題がある。

 

(どうやって大臣の家やら執務室を漁るか、だな)

 

 仮にも相手は高官。捜査権などないムラマサには、正規の手段で証拠を漁るのは不可能だ。

 

(それなら問題ありません。心強い味方が居ます)

(……誰だ?)

(ラン、ラン……ルー?違う。ラン、なんとかだったはずです)

 

 相変わらず人の名前を記憶していないムラマサ。

 だが、彼女が差している相手は理解できた。

 しかし、理解できない事が1つある。

 

(なんで、ランテさんが動けているんだ?)

 

 俺と同じく毒を盛られたはずの人間が動いている事。

 俺には、それが理解できないのだった。

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