100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「そっちの首尾はどうですか?」
「捜査権は得られた」
俺は思念体でムラマサに同行し、ムラマサがランテと合流する場に居合わせる。
ランテが何故動けているのかについては、不明のままだ。
ムラマサは、兵隊の長なら毒に耐性を付ける訓練をするはず、という考えで納得していた。
俺としては、未知の毒に耐性をつけるような訓練はできないはずだと、腑に落ちてはいない。
しかし、ランテの毒耐性について議論している余裕はないのだ。
とにかく。ランテは王不在の国から、俺やリカルド、パースの計3人ラビリンシア国民が被害を受けているというのを口実に、捜査権をもぎ取ったらしい。
国の有事に他国の人間へ捜査権を与える事は本来ないのだが、王不在という混乱に乗じ、強行突破したのかもしれない。
「では、フィグとか言う奴を調べましょう。フローレンスに罪を被せたそいつが、一番怪しいです」
「了解した」
ランテはムラマサに異論を唱える事なく、行動を開始した。
悩むより総当たりを選んだのか、ランテの行動は早い。
まず足を運んだのはミナ・ミヌエーラ官邸。
王不在の混乱状態であろうと、むしろそんな状態であるから、高官らは仕事をするためそこに居る。
もちろん、ミナ・ミヌエーラ高官であるフィグも同様だ。
「フィグ大臣は居られるか」
フィグの部下たちか、忙しなく人が出入りするフィグの執務室に、ランテは押しかけた。
やはりと言うべきか、フィグはその執務室に居り、部下らしき者たちに指示と出していたのだ。
「ランテ総長殿。ご足労いただきありがとうございます。ですが、すみません。今は緊急事態でして、お茶の一杯もお出しできません」
フィグが応答しながらも書く書類。
それには、避難勧告の緊急発令承認確認と、銘打たれていた。
キラーウェアーの噴火は間近であるため、シムルアムビス都民を避難させようとしているのだ。
しかし、避難勧告発令の権限がある双王が発令できる状態にない。
そのため、多くの高官たちによる承認を以て、緊急的に発令しようという事か。
当然、フィグは承認と明記している。
「構わない。片手間で良いので、聴き取りさせてほしい」
「聴き取り、ですか……?まさか、私が双王陛下に毒を盛ったとでも」
ランテからの容疑をかけられている事に、フィグは少し顔をしかめた。
犯人と疑われているのだから、誰だってこうなる。
証拠としては使えない。
「疑いは晴らしたいだろう」
「……そうですね。自国の勇者が倒れた貴方の心中はお察しします。ですから、ご協力はいたします。ですが、この通り多忙ですので、真剣に応対できない事はご容赦ください」
フィグは眉間の
これで犯人だったら、白々しい限りだ。
(今ですよ、テノール。適当に探ってください)
ランテの後ろに付いていたムラマサは、俺に好機である事を示した。
ランテが聴き取りをしてフィグの注意を引く事が、俺たちの段取りだったのだ。
ムラマサは魔道具探知魔道具を使うと、ランテに伝えてある。
本当は魔道具探知魔道具ではなく、思念体の俺なのだが。
探知する事は変わらないので、訂正はしなかった。
俺が幽体離脱している事を明かせば、聖剣エクスカリバーについても説明が必要になってくる。
ムラマサはその辺りを考慮して、本当の事を伏せたのだろう。
俺もそれに乗っかったのだ。
そも、ランテとは思念が繋がっていないため、訂正も何もできないのだが。
「感謝祭の日、何をしていた」
「その日も私は仕事をしておりました。感謝祭という事で、観光客の流入や食品の輸入がこのところ激しかったので、私の担っている分野は大変忙しかったのです」
ランテがそれらしい聴き取りをしている横で、俺は執務机や本棚の引き棚に顔を突っ込む。
思念体であるため、仕切りは擦り抜けられるのだ。
そうやって中身を覗き、魔道具を探す。
目ぼしい物は、どこにもなかった。
二重魔道具である可能性も考え、部屋に備え付けられた照明魔道具の中身も覗いてみる。
残念ながら、不審な仕組みは見つからない。
「飲食物に毒を盛るよう、あらかじめ指示をしていたか?」
「私がそれを否定しても、確証は得られないでしょう。その件については、あの日の給仕に確認を取る方がよろしいかと。一応ですが、私はそのような指示を出していません」
ランテは相手の怒りを買いかねない質問で、本性を暴こうとする真似をした。
元より効果は期待していなかったが、フィグは冷静に返答している。
そんなやり取りを小耳に挿みながら、壁や床、天井を俺は調べていた。
隠し部屋などがないものかと思ったのだが、空振りに終わる。
(駄目だ、ムラマサ。影も形もない)
(もっとくまなく探しなさい!あるんでしょ、証拠になる魔道具が!)
(ないんだよ、どこにも!)
あると確信した物が、なかった。
フィグの証言が正しければ、祭りの当日、双王が毒に
ならば、魔道具の起動はここでしかできず、魔道具はここにあるはずなのだ。
それでも、ない。見つからない。
「ご協力、感謝する」
「犯人が捕まる事、祈っております」
ランテとフィグの会話は終わった。
注意を引くのはここまでが限度である。
これ以上、ここの調査はできない。
ランテとムラマサが撤退する。
ランテは無表情だが、ムラマサは口を強く結んでいた。
証拠が得られなかった事に、ムラマサは悔しさを噛みしめている。
(フィグさんが、犯人じゃなかったのか……?)
(……)
今一度、思考する。
容疑者は、真犯人は誰なのか。
そうすれば、俺は残りの1人に容疑をかけてしまうのだ。
(……フローレンスさん、なのか)
俺の中でもう1人の容疑者、フローレンス。
他に薬物を投与できるとすれば、彼女しか居ない。
でも、せめて言葉に、思念にすべきではなかった。
何故ならその行為が――
(取り消しなさい)
――ムラマサの逆鱗に触れてしまうのだから。