100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十九節 証拠の在処

「そっちの首尾はどうですか?」

「捜査権は得られた」

 

 俺は思念体でムラマサに同行し、ムラマサがランテと合流する場に居合わせる。

 ランテが何故動けているのかについては、不明のままだ。

 ムラマサは、兵隊の長なら毒に耐性を付ける訓練をするはず、という考えで納得していた。

 俺としては、未知の毒に耐性をつけるような訓練はできないはずだと、腑に落ちてはいない。

 しかし、ランテの毒耐性について議論している余裕はないのだ。

 

 とにかく。ランテは王不在の国から、俺やリカルド、パースの計3人ラビリンシア国民が被害を受けているというのを口実に、捜査権をもぎ取ったらしい。

 国の有事に他国の人間へ捜査権を与える事は本来ないのだが、王不在という混乱に乗じ、強行突破したのかもしれない。

 

「では、フィグとか言う奴を調べましょう。フローレンスに罪を被せたそいつが、一番怪しいです」

「了解した」

 

 ランテはムラマサに異論を唱える事なく、行動を開始した。

 悩むより総当たりを選んだのか、ランテの行動は早い。

 

 まず足を運んだのはミナ・ミヌエーラ官邸。

 王不在の混乱状態であろうと、むしろそんな状態であるから、高官らは仕事をするためそこに居る。

 もちろん、ミナ・ミヌエーラ高官であるフィグも同様だ。

 

「フィグ大臣は居られるか」

 

 フィグの部下たちか、忙しなく人が出入りするフィグの執務室に、ランテは押しかけた。

 やはりと言うべきか、フィグはその執務室に居り、部下らしき者たちに指示と出していたのだ。

 

「ランテ総長殿。ご足労いただきありがとうございます。ですが、すみません。今は緊急事態でして、お茶の一杯もお出しできません」

 

 フィグが応答しながらも書く書類。

 それには、避難勧告の緊急発令承認確認と、銘打たれていた。

 キラーウェアーの噴火は間近であるため、シムルアムビス都民を避難させようとしているのだ。

 しかし、避難勧告発令の権限がある双王が発令できる状態にない。

 そのため、多くの高官たちによる承認を以て、緊急的に発令しようという事か。

 当然、フィグは承認と明記している。

 

「構わない。片手間で良いので、聴き取りさせてほしい」

「聴き取り、ですか……?まさか、私が双王陛下に毒を盛ったとでも」

 

 ランテからの容疑をかけられている事に、フィグは少し顔をしかめた。

 犯人と疑われているのだから、誰だってこうなる。

 証拠としては使えない。

 

「疑いは晴らしたいだろう」

「……そうですね。自国の勇者が倒れた貴方の心中はお察しします。ですから、ご協力はいたします。ですが、この通り多忙ですので、真剣に応対できない事はご容赦ください」

 

 フィグは眉間の(しわ)を解し、さも理解がある大人であるかのように、ランテの聴き取りに応じた。

 これで犯人だったら、白々しい限りだ。

 

(今ですよ、テノール。適当に探ってください)

 

 ランテの後ろに付いていたムラマサは、俺に好機である事を示した。

 ランテが聴き取りをしてフィグの注意を引く事が、俺たちの段取りだったのだ。

 ムラマサは魔道具探知魔道具を使うと、ランテに伝えてある。

 本当は魔道具探知魔道具ではなく、思念体の俺なのだが。

 探知する事は変わらないので、訂正はしなかった。

 俺が幽体離脱している事を明かせば、聖剣エクスカリバーについても説明が必要になってくる。

 ムラマサはその辺りを考慮して、本当の事を伏せたのだろう。

 俺もそれに乗っかったのだ。

 そも、ランテとは思念が繋がっていないため、訂正も何もできないのだが。

 

「感謝祭の日、何をしていた」

「その日も私は仕事をしておりました。感謝祭という事で、観光客の流入や食品の輸入がこのところ激しかったので、私の担っている分野は大変忙しかったのです」

 

 ランテがそれらしい聴き取りをしている横で、俺は執務机や本棚の引き棚に顔を突っ込む。

 思念体であるため、仕切りは擦り抜けられるのだ。

 そうやって中身を覗き、魔道具を探す。

 目ぼしい物は、どこにもなかった。

 二重魔道具である可能性も考え、部屋に備え付けられた照明魔道具の中身も覗いてみる。

 残念ながら、不審な仕組みは見つからない。

 

「飲食物に毒を盛るよう、あらかじめ指示をしていたか?」

「私がそれを否定しても、確証は得られないでしょう。その件については、あの日の給仕に確認を取る方がよろしいかと。一応ですが、私はそのような指示を出していません」

 

 ランテは相手の怒りを買いかねない質問で、本性を暴こうとする真似をした。

 元より効果は期待していなかったが、フィグは冷静に返答している。

 そんなやり取りを小耳に挿みながら、壁や床、天井を俺は調べていた。

 隠し部屋などがないものかと思ったのだが、空振りに終わる。

 

(駄目だ、ムラマサ。影も形もない)

(もっとくまなく探しなさい!あるんでしょ、証拠になる魔道具が!)

(ないんだよ、どこにも!)

 

 あると確信した物が、なかった。

 フィグの証言が正しければ、祭りの当日、双王が毒に(もだ)え苦しんだ瞬間、フィグはこの執務室に居たはずだ。

 ならば、魔道具の起動はここでしかできず、魔道具はここにあるはずなのだ。

 それでも、ない。見つからない。

 

「ご協力、感謝する」

「犯人が捕まる事、祈っております」

 

 ランテとフィグの会話は終わった。

 注意を引くのはここまでが限度である。

 これ以上、ここの調査はできない。

 

 ランテとムラマサが撤退する。

 ランテは無表情だが、ムラマサは口を強く結んでいた。

 証拠が得られなかった事に、ムラマサは悔しさを噛みしめている。

 

(フィグさんが、犯人じゃなかったのか……?)

(……)

 

 今一度、思考する。

 容疑者は、真犯人は誰なのか。

 そうすれば、俺は残りの1人に容疑をかけてしまうのだ。

 

(……フローレンスさん、なのか)

 

 俺の中でもう1人の容疑者、フローレンス。

 他に薬物を投与できるとすれば、彼女しか居ない。

 でも、せめて言葉に、思念にすべきではなかった。

 何故ならその行為が――

 

(取り消しなさい)

 

――ムラマサの逆鱗に触れてしまうのだから。

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