100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十一節 真犯人は……

 フローレンスの私室。

 そこは、非常にこじんまりした部屋が1つあるだけだった。

 全く金をかけていない様相は、本当に医者の部屋なのかと心配になる。

 医者って、金持ちではなかったのだろうか。

 

「これは……」

 

 ただ、こじんまりしていたおかげか、目ぼしい物をムラマサが即座に見つけた。

 机の上に試験管数本と覚書があったのだ。

 

「ふむ、なるほど……。真犯人の手掛かりですね」

 

 覚書を手に取って読んでいたムラマサは、何か得心がいったようだった。

 ランテにその覚書を手渡して、読むように勧める。

 俺も、脇から覗き見る。

 

「……河川に混入物あり、か」

 

 そう。その覚書には、エヴァーイーストの滝から河川にかけて、通常の河川にはない混入物が検出されたと、書かれていたのだ。

 しかもその覚書は、混入物が魔術的な物である可能性も示唆している。

 

「これが、何故真犯人の手掛かりになる」

 

 ランテは素直に疑問を口にした。

 確かに、川に何か混じっているというだけの情報だ。

 もしその混入物が毒だとすれば、エヴァーイーストの天然水を飲んだ者が全員毒に悶えているはずである。

 

(……いや、違うのか。敵は、エヴァーイーストの天然水を飲んだ対象を細かく識別して、魔術的な混入物を毒に変えた。かなり魔術の技量が必要そうだが、不可能ではなさそうだ)

 

 俺の思考が思念として漏れれば、ムラマサは不敵な笑みを浮かべていた。

 ムラマサも同じ考えだったようだ。

 

「とある筋からの情報ですが、敵は魔術的な媒体を相手に飲ませ、魔術でその媒体を毒に変えた可能性があるそうです」

「……道理は通っている」

 

 ムラマサが俺からの情報をランテにも共有し、ランテはその可能性を否定しなかった。

 魔術にも精通しているランテが否定しなかったとなれば、やはり可能なのだろう。

 

「その情報から、犯人は継続的に毒に変える魔道具を使っていると、推測した訳だな」

 

 実に聡く、ランテはこちらの意を読み取った。

 ムラマサはその読み取った意が合っていると頷く。

 

「それで、最初はフローレンスに罪を被せた、あの大臣が犯人だと思っていました。ですが、執務室にそれらしい魔道具の反応がなかった事から、犯人は別に居ます」

「では、誰だ」

「……」

 

 ランテの問いに、ムラマサは答えられなかった。

 今はまだ、敵が河川に魔術的な物を混入させたという手掛かりを得ただけ。

 そこからの足掛かりはない。

 だが、推理材料はある。

 河川に混入させたとなれば、普通は警備している衛兵が怪しむ。

 だが、そんな話は聞かない以上、敵は怪しまずに混入できたのだ。

 それが可能な者は――

 

(ウレだ)

 

――生活環境の衛生管理を担う大臣であり、水質検査も管轄であるウレ・ドールしか居ない。

 

(……誰ですか?)

 

 残念な事に、ムラマサはウレを知らなかった。

 まぁ、旅の鍛冶師が世界各国の大臣を知っているなんて、そんな事は期待していない。

 

(ランテさんに伝えてくれ、ウレ・ドール大臣が怪しいと)

 

 説明するのも手間なので、俺はランテに任せた。

 ラビリンシア王立近衛兵総長として、ミナ・ミヌエーラの大臣を知っている事に、俺は賭ける。

 

「……ウレ・ドール大臣が、怪しいのではないかと」

「ウレ・ドール生活衛生大臣か」

 

 賭けに勝った。

 ランテはウレを知っていたのだ。

 ……なんでこんなところで賭けに出ねばならないのだ。

 

「そいつのところも、最初と同じ段取りで行きましょう」

「了解した」

 

 新たな容疑者が上がり、ムラマサとランテは迅速に動き出す。

 次の目的地はウレの執務室。

 二度手間になってしまうが、気にせずミナ・ミヌエーラ官邸へと移動する。

 

「ウレ大臣は居られるか」

 

 ウレの執務室へ、ランテはフィグの時とほぼ同じように押しかけた。

 ウレの方もフィグと似たような状態で、何人も忙しなく出入りしている。

 

「お初にお目にかかります、ランテ殿。それで、なんの御用件でしょうか。この通り業務が立て込んでおりまして、あまり長く時間を取れないのですが……」

 

 ウレは少し申し訳なさそうにしながら、書類の手を止めなかった。

 真犯人なのかもしれない相手だが、仕事中に押しかけた事は、多少ながら罪悪感を覚える。

 

「聴き取りさせてほしい。長く拘束はしない」

「聴き取り、と仰いますと、双王陛下の昏睡に関してでしょうか」

「そうだ」

 

 真犯人の疑いをかけられているとは露とも思っていないのか、ウレに動揺はなかった。

 なので、ウレの態度は柔らかいものであり、聴き取りを拒む様子はない。

 その様子に乗じ、聴き取りが開始される。

 

「感謝祭の日、何をしていた」

「執務室で仕事をしておりました。感謝祭で設けられた露店には食品を扱う店が多かったので、食品衛生に関する仕事も多く舞い込んだのです」

 

 ランテが己の役割を果たしているところで、俺も務めを果たすべく部屋中を調べる。

 執務机や本棚は、なし。

 二重魔道具も、なし。

 そして、壁や天井、床と調べ、当たりを引いた。

 床の下に、空間があったのだ。

 

(隠し部屋だ。魔道具は、これかな)

 

 その空間で、俺は稼働している魔道具を発見した。

 俺の身長くらいある大きな魔道具が、装填された魔術石と魔力石を淡く輝かせている。

 

(ムラマサ、それらしい魔道具があった。執務机の下、隠し部屋の入り口になってる)

(なるほど)

 

 俺からムラマサに伝え、ムラマサはランテへと耳打ちする。

 これでランテも隠し部屋の場所は分かったが、さて、どうしたものか。

 急に隠し部屋を見せろと言われ、素直に見せる奴は居ない。

 ランテはどうやって、その隠し部屋を暴くのか。

 俺は頭を捻ったが、ランテの解法は、実に単純なモノだった。

 

「『ステラグマイト』」

 

 ランテは天井から石柱を生やし、執務机ごと、入り口の蓋を貫いたのだ。

 それによって見せ付けられるのが、隠し部屋の入口である。

 

「説明願いたい、ウレ大臣。この隠し部屋は、なんだ」

 

 言い逃れできない状況を作り出したランテは、そうして言い逃れできぬよう、ウレに詰め寄ったのだった。

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