100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
フローレンスの私室。
そこは、非常にこじんまりした部屋が1つあるだけだった。
全く金をかけていない様相は、本当に医者の部屋なのかと心配になる。
医者って、金持ちではなかったのだろうか。
「これは……」
ただ、こじんまりしていたおかげか、目ぼしい物をムラマサが即座に見つけた。
机の上に試験管数本と覚書があったのだ。
「ふむ、なるほど……。真犯人の手掛かりですね」
覚書を手に取って読んでいたムラマサは、何か得心がいったようだった。
ランテにその覚書を手渡して、読むように勧める。
俺も、脇から覗き見る。
「……河川に混入物あり、か」
そう。その覚書には、エヴァーイーストの滝から河川にかけて、通常の河川にはない混入物が検出されたと、書かれていたのだ。
しかもその覚書は、混入物が魔術的な物である可能性も示唆している。
「これが、何故真犯人の手掛かりになる」
ランテは素直に疑問を口にした。
確かに、川に何か混じっているというだけの情報だ。
もしその混入物が毒だとすれば、エヴァーイーストの天然水を飲んだ者が全員毒に悶えているはずである。
(……いや、違うのか。敵は、エヴァーイーストの天然水を飲んだ対象を細かく識別して、魔術的な混入物を毒に変えた。かなり魔術の技量が必要そうだが、不可能ではなさそうだ)
俺の思考が思念として漏れれば、ムラマサは不敵な笑みを浮かべていた。
ムラマサも同じ考えだったようだ。
「とある筋からの情報ですが、敵は魔術的な媒体を相手に飲ませ、魔術でその媒体を毒に変えた可能性があるそうです」
「……道理は通っている」
ムラマサが俺からの情報をランテにも共有し、ランテはその可能性を否定しなかった。
魔術にも精通しているランテが否定しなかったとなれば、やはり可能なのだろう。
「その情報から、犯人は継続的に毒に変える魔道具を使っていると、推測した訳だな」
実に聡く、ランテはこちらの意を読み取った。
ムラマサはその読み取った意が合っていると頷く。
「それで、最初はフローレンスに罪を被せた、あの大臣が犯人だと思っていました。ですが、執務室にそれらしい魔道具の反応がなかった事から、犯人は別に居ます」
「では、誰だ」
「……」
ランテの問いに、ムラマサは答えられなかった。
今はまだ、敵が河川に魔術的な物を混入させたという手掛かりを得ただけ。
そこからの足掛かりはない。
だが、推理材料はある。
河川に混入させたとなれば、普通は警備している衛兵が怪しむ。
だが、そんな話は聞かない以上、敵は怪しまずに混入できたのだ。
それが可能な者は――
(ウレだ)
――生活環境の衛生管理を担う大臣であり、水質検査も管轄であるウレ・ドールしか居ない。
(……誰ですか?)
残念な事に、ムラマサはウレを知らなかった。
まぁ、旅の鍛冶師が世界各国の大臣を知っているなんて、そんな事は期待していない。
(ランテさんに伝えてくれ、ウレ・ドール大臣が怪しいと)
説明するのも手間なので、俺はランテに任せた。
ラビリンシア王立近衛兵総長として、ミナ・ミヌエーラの大臣を知っている事に、俺は賭ける。
「……ウレ・ドール大臣が、怪しいのではないかと」
「ウレ・ドール生活衛生大臣か」
賭けに勝った。
ランテはウレを知っていたのだ。
……なんでこんなところで賭けに出ねばならないのだ。
「そいつのところも、最初と同じ段取りで行きましょう」
「了解した」
新たな容疑者が上がり、ムラマサとランテは迅速に動き出す。
次の目的地はウレの執務室。
二度手間になってしまうが、気にせずミナ・ミヌエーラ官邸へと移動する。
「ウレ大臣は居られるか」
ウレの執務室へ、ランテはフィグの時とほぼ同じように押しかけた。
ウレの方もフィグと似たような状態で、何人も忙しなく出入りしている。
「お初にお目にかかります、ランテ殿。それで、なんの御用件でしょうか。この通り業務が立て込んでおりまして、あまり長く時間を取れないのですが……」
ウレは少し申し訳なさそうにしながら、書類の手を止めなかった。
真犯人なのかもしれない相手だが、仕事中に押しかけた事は、多少ながら罪悪感を覚える。
「聴き取りさせてほしい。長く拘束はしない」
「聴き取り、と仰いますと、双王陛下の昏睡に関してでしょうか」
「そうだ」
真犯人の疑いをかけられているとは露とも思っていないのか、ウレに動揺はなかった。
なので、ウレの態度は柔らかいものであり、聴き取りを拒む様子はない。
その様子に乗じ、聴き取りが開始される。
「感謝祭の日、何をしていた」
「執務室で仕事をしておりました。感謝祭で設けられた露店には食品を扱う店が多かったので、食品衛生に関する仕事も多く舞い込んだのです」
ランテが己の役割を果たしているところで、俺も務めを果たすべく部屋中を調べる。
執務机や本棚は、なし。
二重魔道具も、なし。
そして、壁や天井、床と調べ、当たりを引いた。
床の下に、空間があったのだ。
(隠し部屋だ。魔道具は、これかな)
その空間で、俺は稼働している魔道具を発見した。
俺の身長くらいある大きな魔道具が、装填された魔術石と魔力石を淡く輝かせている。
(ムラマサ、それらしい魔道具があった。執務机の下、隠し部屋の入り口になってる)
(なるほど)
俺からムラマサに伝え、ムラマサはランテへと耳打ちする。
これでランテも隠し部屋の場所は分かったが、さて、どうしたものか。
急に隠し部屋を見せろと言われ、素直に見せる奴は居ない。
ランテはどうやって、その隠し部屋を暴くのか。
俺は頭を捻ったが、ランテの解法は、実に単純なモノだった。
「『ステラグマイト』」
ランテは天井から石柱を生やし、執務机ごと、入り口の蓋を貫いたのだ。
それによって見せ付けられるのが、隠し部屋の入口である。
「説明願いたい、ウレ大臣。この隠し部屋は、なんだ」
言い逃れできない状況を作り出したランテは、そうして言い逃れできぬよう、ウレに詰め寄ったのだった。