100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十二節 勝利まであと少し

「説明願いたい、ウレ大臣。この隠し部屋は、なんだ」

 

 平静なまま、ランテは剣をウレに突き付けた。

 急な魔術、急な攻撃であったため、ウレは呆然としている。

 

「……い、いったいなんのつもりですか、ランテ殿!事は外交問題に―――」

「再度問う。この隠し部屋は、なんだ」

 

 呆然状態から数秒で立ち直ったウレは、攻撃に対して抗議した。

 だが、ランテは聞き入れない。

 ただ頑なに、隠し部屋について問い詰めた。

 語気や気迫はいつものままだが、その平静さが反って冷たい殺気のように感じられる。

 

「か、隠し部屋がなんだと言うのです!確かに、私は隠し部屋を作りました。しかし、この非常時に追求する事ではないでしょう!」

「隠し部屋に、一般的でない魔道具の反応を検知した。その魔道具が双王陛下らを苦しめる毒の発生装置だと、私は睨んでいる」

「っ……!」

 

 どうにか反論しようとしていたウレが、ランテのその発言で、言葉を窮した。

 ほぼ、これで確定だ。

 

「説明願いたい。何故貴女が、そんな魔道具を隠し持っているのか」

「……。『ヴェイパ―――」

 

 ウレが何かの魔術を行使しようとした瞬間、ランテはウレの下顎から喉にかけて、剣の腹で叩き砕いた。

 魔術の詠唱を妨害するため、発声器官を軒並み一瞬で壊したのだ。

 そんな一撃をくらえば、当然無事では済まない。

 くらった当のウレは、首があらぬ方向に曲がっていた。

 だが、その目にはまだ生気が宿り、折れた首からは金属の棒が皮膚を突き破っている。

 おまけに、それ程の重症でありながら、血が流れていないのだ。

 

「リビングドールか」

 

 それらの状況から、ランテはウレの正体を見破った。

 そう。ウレは人間ではなく、リビングドールという魔物だったのだ。

 しかも、ドワーフに酷似した、あまりにも精巧な生ける人形なのである。

 見破られたウレは鋭くランテを睨むが、発声器官は壊れているため、声は出せない。

 しかし、それで観念するウレではなかった。

 ウレは衣嚢(いのう)に手を差し込み、その中で何かを握り込むような動作をする。

 そうすると、ウレの体は燃え上がったのだ。

 

「……自決か」

 

 ウレの体を焼く炎に、燃え広がる様子はない。

 丹念にウレの体を焼却しようとしている。

 ウレは、ランテの言葉通り自決を選び、自決用の魔道具を起動したのだ。

 一切敵に利益を与えぬよう、己の命すら投げ打つ。

 敵ながら、見事な散り際だ。

 

 そうして、ウレはこちらをほくそ笑みながら、炎の中に消えていった。

 残るのは、ウレの物だろう、金属質の骨格標本である。

 

 ランテとウレの争いは盛り上がりもなく、説明もなく、終わった。

 理解が追い付かない者たちは、呆然として固まったままである。

 

「隠し部屋の調査をする」

「分かってますよ」

 

 そんな者たちを置いて、ランテとムラマサは先に進んだ。

 目指す先は、魔道具のある隠し部屋。

 地下に続く梯子を下りればお目当ての部屋であり、お目当ての魔道具は目の前だ。

 

「ありましたね。これで物的証拠と、ついでに状況証拠も手に入りました」

 

 ムラマサは勝ち誇った。

 毒生成魔道具と、ウレの正体。

 その2つで、晴れてフローレンスの無実は証明できる。

 

「衛兵を呼ぼう」

「その前に、この魔道具を壊してしまった方が良いのでは?」

「稼働している所を、衛兵の目で確認してもらった方が良い」

 

 ムラマサはさっさと解決に乗り出したいようだが、ランテは実に冷静だった。

 ここで壊してしまえば、毒生成魔道具の稼働を確認したのがランテとムラマサの2人だけになる。

 その内1名はフローレンスの友人であり、フローレンスの罪を揉み消そうとしていたのではないかと、疑われかねない。

 それに、ランテもあくまで一時的な捜査権であり、他国の人間。

 彼の証言に法的な効力があるのか、若干の懸念がある。

 だからこそ、ランテは正式な捜査権を持つ衛兵にしっかり確認してもらいたいのだ。

 

 そういう考えの下で破壊を後にしている時、誰かがウレの執務室から降りてくる。

 

「ランテ殿ですね?事情をお聴きしても構いませんか?」

 

 その誰かは、都合の良い事に衛兵だった。

 ウレの自決を目にしていた者が、通報してくれたのかもしれない。

 

「構わない」

「ご協力、感謝します」

 

 衛兵の態度に敵意はなく、状況はおおよそ察しているのだろう。

 こうして、一連の事件は解決に向かっていくはずだ。

 そのはず、だったのだ。

 

 皆の耳に、大きな爆発音が響くまでは。

 

「い、今のは!?」

「ど、どこで爆発した!」

 

 ムラマサも衛兵も、急な爆発音に動揺を隠せなかった。

 地下にまで響く爆発音だ。

 爆薬の炸裂だとしたら、尋常な爆発ではない。

 

「た、隊長!上からの報告、失礼します!こちら、キラーウェアーより火山灰が立ち上っているのを目視しました!」

「ば、馬鹿な!専門家の調査では、噴火にまだ3日の猶予があっただろう!」

 

 隠し部屋の入り口から伝えられる衛兵の報告に、ランテへ聴き取りしようとしていた衛兵は衝撃を受けていた。

 無理もないだろう。

 衛兵たちの話が正しければ、キラーウェアーは予想より早く噴火したという事なのだから。

 それらの話から俺は推測する。

 

(ウレ・ドール……っ!火山にも何か仕掛けていたな!)

 

 予想より早い噴火がウレの策略だったと、俺は導き出した。

 同時に、自決しながらほくそ笑んでいた意味を、俺は理解するのだった。

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