100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十三節 正義は胸にある

 ムラマサは駆けだしていた。

 キラーウェアーの噴火で我先にと避難する市民が溢れかえる都を、ムラマサは駆けていたのだ。

 

(ムラマサ、何か手はあるのか!)

(手も何も、フローレンスを解放すれば良いだけの話です!)

 

 どうやら、ムラマサが向かっているのは刑務所。目的はフローレンスの解放だった。

 無策ではなかったようだが、ムラマサが良いとする根拠が不明である。

 

(フローレンスさんを解放すればどうなる!)

(知らないんですか!シムルアムビスが救われます!)

(その過程を訊いているんだ!)

 

 ムラマサはかなり焦っているのか、結論しか教えてくれなかった。

 俺の質問に答える気はあるのだろうか。

 

(あいつなら、とっととゴッホとグウィバーを回復してくれます!)

(そんな事が、本当にできるのか!?)

 

 双王は未知の毒に侵されたままである。

 毒生成魔道具を止めれば、その毒が増える事はなくなるだろう。

 しかし、すでに生成された分は体内に残っているのだ。

 その毒を解毒しない限り、双王は毒に苦しむ。

 また、解毒できたとしても、回復が間に合うかは怪しい。

 パースが最高位回復薬を持っていれば良いが、そのパースの姿を見ていない。

 最高位回復薬の使用は望めない。

 

(あいつにならできます!信じてください!)

(……分かった、信じよう)

 

 ムラマサに懇願され、俺は一旦常識を頭の隅に追いやった。

 何にせよ、現状はフローレンスを頼るしかない。

 それ以外の選択肢が、俺にはないのだ。

 迷わずに真っすぐ刑務所へと向かう。

 

 向かった先で見たのは、犯罪者を護送用の馬車に乗せる光景。

 犯罪者も避難させようと、刑務官や衛兵が動いているようだ。

 そこに、フローレンスの姿もあった。

 今まさに馬車に乗せられようとしているところだ。

 

「そこの人たち、フローレンスを解放してください!」

「な、なんだお前は!護送準備の邪魔をするな!彼らの命がかかっているんだぞ!」

 

 ムラマサがフローレンスを解放するように訴えるが、国民でもない人間の訴えを、刑務官らが聞き入れるはずもない。

 ここで足止めをくらいたくはなかったが、刑務官らを説得する術は持ち合わせていない。

 だが、案外救いの手は差し伸べられるものだ。

 

「彼女を、解放すれば良いんだな」

「……!」

 

 救いの手は、ムラマサを追いかけてきた、あの隊長と呼ばれていた衛兵のモノだった。

 ランテも居り、この衛兵隊長と思しき人物はおおよその事情を把握しているのだろう。

 

「解放すれば、どうにかなるんだな!」

「……はい!フローレンスがゴッホとグウィバーを治療してくれるはずです!」

「言質は取ったぞ……。衛兵隊長の権限により、フローレンスの身柄はこちらで預かる!」

 

 やはり衛兵隊長だったその男は、自らの独断でフローレンスを解放しようとした。

 余所者の言葉を信じた、大博打である。

 

「で、ですが、隊長……」

「責任は私が取る」

「りょ、了解しました……」

 

 衛兵と刑務官は躊躇いながらも、衛兵隊長の指示に従った。

 フローレンスが、こちらに寄越される。

 

「ありがとう、ムラマサ」

「お礼は後です。さっさとこの面倒事を片付けましょう」

「そうですね」

 

 喜びを分かち合うのは後回しで、ムラマサとフローレンスはまず目の前の問題を直視した。

 火山灰が立ち上るキラーウェアーは、本命の噴火を残している。

 それまでに、双王を治療せねばならない。

 

「毒に侵された者を1か所に集めてください。まとめて治療します」

 

 フローレンスは耳を疑うような発言をした。

 1人でも治療が難しいだろう未知の毒に対し、まとめての治療を宣言したのだ。

 しかし、そんな信じ難い発言に反して、フローレンスの態度は本気だった。

 本気で、まとめて治療するつもりなのだ。

 

「分かった……。衛兵たちはすぐにラビリンシアの国賓が入院している病院へ!国賓らを竜心王宮前の広場まで運び出せ!」

「は!」

 

 衛兵隊長はムラマサたちを信じ抜くと、決心したようだ。

 フローレンスの発言を本気にし、その意に沿うべく部下たちを走らせる。

 奇妙なくらい、事は順調に運んでいた。

 結末は、フローレンスにかかっている。

 

 

 

 フローレンスが集った場は竜心王宮前の広場。

 双王の体は、毒に侵されたあの時からその場に留められている。

 ドラゴンの大きな図体、運ぶには重すぎるのだ。

 そんな2体のドラゴンが痛みを堪えて蹲っている場所に、昏睡状態である俺の体とリカルドが集められる。

 パースの方は、ベッドに横たえられる俺たちとは違い、車椅子を押されて姿を現した。

 意識はあるようだが、かなり衰弱しているようだ。

 

「パース、良く持たせた」

「体は、無駄に丈夫なものでしてねぇ……」

 

 ランテに軽口を返すパースだが、どう見ても調子が悪い。

 パースも毒への耐性はあるが、ランテ程ではなかったらしい。

 

「皆さま。患者を集めていただき、ありがとうございます。それでは、治療をさせていただきます」

 

 双王やリカルドの前に1歩進み出て、フローレンスは息を整える。

 それから、彼女は唱え始めた。

 

I(アイ) solemnly(セレモリー) pledge(プレッジ) myself(マイセルフ) before(ビフォー) God(ゴッド) and(アンド) in(イン) the() presence(プレゼンス) of(オブ) this(ディス) assembly(アセンブリー) to(トゥ) pass(パス) my(マイ) life(ライフ) in(イン) purity(プリティー) and(アンド) to(トゥ) practise(プラクティス) my(マイ) profession(プロフェッション) faithfully(フェイフリー).」

 

 その詠唱は通常の魔術詠唱と、どこか違う気がした。

 通常の詠唱が指示だとすれば、その詠唱はまるで、誓いのように聞こえるのだ。

 

I(アイ) shall(シャル) abstain(アブステイン) from(フロム) whatever(ワトエヴァー) is(イズ) deleterious(デリテリアス) and(アンド) mischievous(ミスチヴァス), and(アンド) shall(シャル) not(ノット) take(テイク) or(オア) knowingly(ノイグリー) administer(アドミニスター) any(アニー) harmful(ハームフル) drug(ドラッグ).」

 

 神と人に捧げるような、清く正しい誓い。

 それは、フローレンスの誓いなのだろうか。

 

I(アイ) shall(シャル) do(ドゥ) all(オール) in(イン) my(マイ) power(パワー) to(トゥ) maintain(メインテイン) and(アンド) elevate(エレヴェイト) the() standard(スタンダード) of(オブ) my(マイ) profession(プロフェッション) and(アンド) will(ウィル) hold(ホールド) in(イン) confidence(コンフィデンス) all(オール) personal(パーソナル) matters(メーターズ) committed(コミテッド) to(トゥ) my(マイ) keeping(キーピング) and(アンド) all(オール) family(ファミリー) affairs(アフェアーズ) coming(カミング) to(トゥ) my(マイ) knowledge(ノーレッジ) in(イン) the() practice(プラクティス) of(オブ) my(マイ) calling(コーリング).」

 

 フローレンスの誓いであるようで、全くの別物のように感じられる。

 ともすれば、誰かの誓いを暗唱しているような、誰かの真似のような。

 

I(アイ) shall(シャル) be(ビー) loyal(ロイヤル) to(トゥ) my(マイ) work(ワーク) and(アンド) devoted(デボーテッド) towards(トゥワーズ) the() welfare(ウェルファー) of(オブ) those(ゾーズ) committed(コミテッド) to(トゥ) my(マイ) care(ケア).」

 

 だが、ただの真似ではないのだろう。

 唱えるフローレンスからは、その誓いに対して尊敬の念があるように感じ取れる。

 きっとこの誓いは、フローレンスが尊敬する者の誓いなのだろう。

 その魔術は、尊敬する者に追い付こうとする足掻きなのかもしれない。

 その思いは、彼女自身から生み出された思いではないのかもしれない。

 だけど――

 

「『ナイチンゲール』」

 

――奇跡は起こるのだ。

 清廉にして荘厳な空気が、この広場を包む。

 その空気は、フローレンスの魔術によるモノ。

 フローレンスの魔術が、皆を癒しているのだった。

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