100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「『ナイチンゲール』」
フローレンスの魔術が、浄化の息吹が、皆を癒していった。
毒に
車椅子に腰かける程衰弱していたパースが、驚きの表情で軽快に立ち上がる。
うめいていたリカルドも、俺の体も、穏やかな寝顔になる。
フローレンスの魔術によって解毒、さらには回復されたのだ。
(どうやら、やったみてぇだな)
エクスカリバーの声が、俺の耳に届いた。
元気そうなその声に、俺は安心する。
俺の体はどうにか保ったようだ。
(ああ、犯人を特定した。自決されて、何も聞き出せなかったが。毒生成魔道具を停止させて、フローレンスに治療してもらったんだ)
(へぇ……。一瞬で解毒も回復もされたみてぇだが。中々の回復魔術じゃねぇか)
エクスカリバーすら称賛するくらい、確かにあの回復魔術は凄かった。
1回の回復魔術で数人を一瞬で回復させるとは。
それを成せるフローレンスの魔力保有量も恐ろしい。
(んじゃ、体返すぜ)
(お疲れ。今回ばかりは、労ってやるよ)
(疲れたところに酒は厳しいなぁ……。あの天然水で良いかぁ)
俺の体を乗っ取って飲食物を味わう算段を、エクスカリバーはもうしていた。
俺は特に異論を唱えない。
エクスカリバーが居なかったら、本当に危険だった。
恩知らずではない俺は、きっちりこの恩に報いるつもりだ。
エクスカリバーには好きなだけ食べさせてやろう。
という事で、一旦体の主導権は俺に返却される。
体に吸い込まれるような錯覚に陥りつつ、俺の視界は真っ暗になった。
次に目を開けた時に収めたのが、先程も見ていた広場の光景であり、視点は俺の体が寝かされていたベッドの上だ。
「目が覚めましたか、テノール」
自身の体で覚醒した俺へ最初に声をかけたのは、ムラマサだった。
少し不愛想な面持ちではあるが、最初に声をかけてくれた当たり、心配はしてくれたのかもしれない。
「いったい、何が……。俺は、感謝祭で……」
「何を寝ぼけてるんですか。さっきまで一緒に―――むぐ」
せっかく状況を理解できない振りをしていたのに、ムラマサは全く察してくれなかった。
だから、俺はムラマサの口を手で塞ぐ。
「……その事は内緒で頼む、ムラマサ。じゃないと色々詮索されて、エクスカリバーの事を話さないといけなくなる」
俺は小声でムラマサの説得にかかった。
ムラマサだって魂を扱う技術は広めたくないから、俺が魂で同行していた事を伏せていたのだ。
ここで口を滑らせるのは、それらの努力が無駄になる。
「……それもそうですね。危なかった。助かりましたよ、テノール」
「……お互いのためだ。気にしなくて良いさ」
説得は成功し、ムラマサは理解を示して聞き入れてくれた。
これで問題はない。
「おやおや、テノールさん。そっちも完治されたようで」
ムラマサとの話が付いたところで、パースがこちらに寄ってきた。
小声の会話は、おそらく聞かれていないだろう。
「パースさん。良ければ状況の説明をお願いできますか?」
「なんの事はありません。感謝祭の日、私たちは毒を盛られ、仲良く昏睡あるいは無力化されていた訳ですねぇ」
「なんの事はあるでしょう、それ……」
毒を盛られるのが日常みたいな表現は、縁起でもないので止めてほしい。
こんな経験は1回で充分だ。
「無事、ランテ総長とムラマサさんが解決してくれたのです」
「そう、ですか……。しかし、敵はいったい何が狙いで」
「もしかしたら、私たちはついでだったのかもしれませんね」
パースは俺の問いに答えつつ、視線を双王へと向けた。
双王が敵の本命だったと、暗に教えてくれている。
まぁ、元から分かっているのだが。
双王を封じ、噴火でシムルアムビス諸共滅ぼそうとした敵の策略。
その策略は、ムラマサへ同行していた時に読めている。
そして、双王が復活した今。敵の策略は破綻した。
双王が居れば、噴火は止められるのだ。
後は、双王が火山抑制に行く様を、拝んでいれば良いだけだ。
「感謝する、フローレンス」
「ありがとう、フローレンスちゃん」
双王がフローレンスへと謝意を述べていた。
その態度は王と言うよりも、友のそれだったのだ。
双王はフローレンスに対し、王ではなく友として接している。
「医者として、当然の事をしたまでです」
「ふ、ふはははは!そうであろうな。汝は我らの感謝など欲せず、己のすべき事を果たすであろうな」
「うふふ。でも、やっぱりありがとうね。貴女のおかげで、私たちもミナ・ミヌエーラ国王の務めを果たせる。王として、すべき事を果たせるわ」
1人と2体は笑い合い、己の果たすべき事を見据えていた。
故に、2体は飛び立つ。ミナ・ミヌエーラを守護する王として。
「行くぞ、グウィバー!」
「ええ、ゴッホ」
キラーウェアーへと、2体のドラゴンが羽ばたく。
王でありドラゴンである彼らを見送った俺たちは、遠くの山で神秘的な光景をその目にした。
キラーウェアー全体が凍てつき、山から赤い波動、可視化する程高濃度の魔力が山頂で収束した後、上空へと拡散されたのだ。
真っ白に染まる山、赤く輝く空。
対照的な紅白模様に、俺たちも、国民も、目が奪われるのだった。