100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十四節 染まる山と空

「『ナイチンゲール』」

 

 フローレンスの魔術が、浄化の息吹が、皆を癒していった。

 毒に(もだ)え苦しんでいた双王が、安らかな吐息と共に目を開ける。

 車椅子に腰かける程衰弱していたパースが、驚きの表情で軽快に立ち上がる。

 うめいていたリカルドも、俺の体も、穏やかな寝顔になる。

 フローレンスの魔術によって解毒、さらには回復されたのだ。

 

(どうやら、やったみてぇだな)

 

 エクスカリバーの声が、俺の耳に届いた。

 元気そうなその声に、俺は安心する。

 俺の体はどうにか保ったようだ。

 

(ああ、犯人を特定した。自決されて、何も聞き出せなかったが。毒生成魔道具を停止させて、フローレンスに治療してもらったんだ)

(へぇ……。一瞬で解毒も回復もされたみてぇだが。中々の回復魔術じゃねぇか)

 

 エクスカリバーすら称賛するくらい、確かにあの回復魔術は凄かった。

 1回の回復魔術で数人を一瞬で回復させるとは。

 それを成せるフローレンスの魔力保有量も恐ろしい。

 

(んじゃ、体返すぜ)

(お疲れ。今回ばかりは、労ってやるよ)

(疲れたところに酒は厳しいなぁ……。あの天然水で良いかぁ)

 

 俺の体を乗っ取って飲食物を味わう算段を、エクスカリバーはもうしていた。

 俺は特に異論を唱えない。

 エクスカリバーが居なかったら、本当に危険だった。

 恩知らずではない俺は、きっちりこの恩に報いるつもりだ。

 エクスカリバーには好きなだけ食べさせてやろう。

 

 という事で、一旦体の主導権は俺に返却される。

 体に吸い込まれるような錯覚に陥りつつ、俺の視界は真っ暗になった。

 次に目を開けた時に収めたのが、先程も見ていた広場の光景であり、視点は俺の体が寝かされていたベッドの上だ。

 

「目が覚めましたか、テノール」

 

 自身の体で覚醒した俺へ最初に声をかけたのは、ムラマサだった。

 少し不愛想な面持ちではあるが、最初に声をかけてくれた当たり、心配はしてくれたのかもしれない。

 

「いったい、何が……。俺は、感謝祭で……」

「何を寝ぼけてるんですか。さっきまで一緒に―――むぐ」

 

 せっかく状況を理解できない振りをしていたのに、ムラマサは全く察してくれなかった。

 だから、俺はムラマサの口を手で塞ぐ。

 

「……その事は内緒で頼む、ムラマサ。じゃないと色々詮索されて、エクスカリバーの事を話さないといけなくなる」

 

 俺は小声でムラマサの説得にかかった。

 ムラマサだって魂を扱う技術は広めたくないから、俺が魂で同行していた事を伏せていたのだ。

 ここで口を滑らせるのは、それらの努力が無駄になる。

 

「……それもそうですね。危なかった。助かりましたよ、テノール」

「……お互いのためだ。気にしなくて良いさ」

 

 説得は成功し、ムラマサは理解を示して聞き入れてくれた。

 これで問題はない。

 

「おやおや、テノールさん。そっちも完治されたようで」

 

 ムラマサとの話が付いたところで、パースがこちらに寄ってきた。

 小声の会話は、おそらく聞かれていないだろう。

 

「パースさん。良ければ状況の説明をお願いできますか?」

「なんの事はありません。感謝祭の日、私たちは毒を盛られ、仲良く昏睡あるいは無力化されていた訳ですねぇ」

「なんの事はあるでしょう、それ……」

 

 毒を盛られるのが日常みたいな表現は、縁起でもないので止めてほしい。

 こんな経験は1回で充分だ。

 

「無事、ランテ総長とムラマサさんが解決してくれたのです」

「そう、ですか……。しかし、敵はいったい何が狙いで」

「もしかしたら、私たちはついでだったのかもしれませんね」

 

 パースは俺の問いに答えつつ、視線を双王へと向けた。

 双王が敵の本命だったと、暗に教えてくれている。

 まぁ、元から分かっているのだが。

 双王を封じ、噴火でシムルアムビス諸共滅ぼそうとした敵の策略。

 その策略は、ムラマサへ同行していた時に読めている。

 そして、双王が復活した今。敵の策略は破綻した。

 双王が居れば、噴火は止められるのだ。

 後は、双王が火山抑制に行く様を、拝んでいれば良いだけだ。

 

「感謝する、フローレンス」

「ありがとう、フローレンスちゃん」

 

 双王がフローレンスへと謝意を述べていた。

 その態度は王と言うよりも、友のそれだったのだ。

 双王はフローレンスに対し、王ではなく友として接している。

 

「医者として、当然の事をしたまでです」

「ふ、ふはははは!そうであろうな。汝は我らの感謝など欲せず、己のすべき事を果たすであろうな」

「うふふ。でも、やっぱりありがとうね。貴女のおかげで、私たちもミナ・ミヌエーラ国王の務めを果たせる。王として、すべき事を果たせるわ」

 

 1人と2体は笑い合い、己の果たすべき事を見据えていた。

 故に、2体は飛び立つ。ミナ・ミヌエーラを守護する王として。

 

「行くぞ、グウィバー!」

「ええ、ゴッホ」

 

 キラーウェアーへと、2体のドラゴンが羽ばたく。

 王でありドラゴンである彼らを見送った俺たちは、遠くの山で神秘的な光景をその目にした。

 

 キラーウェアー全体が凍てつき、山から赤い波動、可視化する程高濃度の魔力が山頂で収束した後、上空へと拡散されたのだ。

 真っ白に染まる山、赤く輝く空。

 対照的な紅白模様に、俺たちも、国民も、目が奪われるのだった。

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