100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十五節 身中の虫

 毒薬を盛った犯人を特定。双王の復活によりキラーウェアーの噴火も抑制。

 犯人に自害され、犯行に至った動機を聞き出せなかったり、抑制が間に合わず、火山灰だけは噴出されてしまったりと、平穏無事とはいかなかった。

 だが、ミナ・ミヌエーラの首都シムルアムビスに大きな被害はない。

 国王も、解毒も回復もされて健在である。

 万事解決と言って差し支えない状態だろう。

 とある1つの問題を除いては。

 

 その問題とは、フィグについてだった。

 双王に毒を盛った犯人ウレ・ドールと、フィグは兄妹関係にあったのだ。

 しかし、それはおかしい。

 ウレは、リビングドールという魔物だった。

 ドワーフと兄妹であるはずがない。

 

「弁明を訊こう、フィグ・ドールよ」

 

 だからこそ、フィグは双王を目前にして、(こうべ)を垂れざるを得ない状況になっている。

 

「申し訳ありません、双王陛下……。私は、ウレと名乗ったあのリビングドールに、脅されていたのです……」

 

 もはや逃れられぬと、フィグは素直に自供した。

 その自供は、悔しさに押しつぶされるように、捻り出しているかのようである。

 

「あのリビングドールは、両親と私の下に、突然現れました。そして、こう言ったのです。『命が惜しくば、私と家族のように振る舞え』と……」

 

 ウレはミナ・ミヌエーラに紛れ込むべく、家族を偽装したそうだ。

 しかも、現地人の家族に成りすますという、狡猾な手に出ていたらしい。

 その話が本当なら、数年単位の時間を費やす、大掛かりな計画だ。

 まぁ、そんな大掛かりかつ慎重な計画だったからこそ、今まで気付かれなかったのだろうが。

 

「私の両親は、ずっと双王陛下に密告すべきか、悩んでおりました……。その意思を察知したあのリビングドールは、病死に見せかけて、両親を殺したのです」

 

 今回と同じ毒か、はたまた別の方法か、両親の死を偽装した。

 それで、秘密が漏れる可能性を潰したのだ。

 

「密告すれば私も両親と同じ死を迎えると、私は我が身可愛さに、今日まで黙っておりました……。その愚行が、国民や双王陛下を危険に晒したのです……!どうかこの哀れなドワーフに、慈悲なき裁きをお与えください!」

 

 罪の意識に囚われたかの如く、フィグは己から求刑した。

 まさしく、哀れなドワーフの姿がそこにある。

 

「……よくぞ、話してくれた。そして、裁かれるべきは我の方だ。王でありながら、国民にそのような危機が降りかかっていた事も気付かなかった。愚かなのは、我だった」

 

 ゴッホは目を伏せ、己の不甲斐なさを噛みしめていた。

 ウレの親として振る舞うしかなかったドワーフ。

 そんなか弱い国民を2人も、尊い犠牲としてしまったのだ。

 だからこそ、ゴッホはその犠牲を悼み、怒る。

 

「本当に、我は愚かだった。むざむざ工作員を、2体も潜入させてしまった。あまつされ、国民の拉致を許してしまうとは……」

「……え?」

 

 怒り溢れるゴッホの形相に、フィグは違和感を覚えた。

 工作員がウレだけなら、『2体』とは称さないはずだ。

 だけど、ゴッホは間違いなく、工作員が2体居たと述べ、フィグを鋭い視線で射抜いている。

 そんな急に敵意を向けられたから、フィグは気付けなかったのだろう。

 怒りを露にしているのは、ゴッホだけではないと。

 故に、フィグはその体を凍結される。

 

「ぐっ、がっ……!は、白竜王陛下!い、いったい何を!?」

「フィグ、もう良いのよ?そんな白々しい演技をしなくても」

 

 フィグはそれでようやく気付いた。

 グウィバーも怒りを露にしていたのだ。

 グウィバーは凍えるような冷たい怒りを以て、フィグの首から下を凍結させている。

 

「え、演技?何を仰っているのか、全然……」

「往生際が悪い。なら、汝の仮面を剥がしてやろう」

 

 まだ演技が通じると思っているフィグの左腕を、ゴッホは人型のまま千切った。

 そうすれば、フィグがドワーフでないという、これ以上ないという証拠が得られる。

 だってその腕には、肉もなければ血もない、絡繰(からく)り人形の腕なのだから。

 

「もう言い逃れはできまい、リビングドール」

 

 そう。フィグもリビングドールだったのだ。

 おそらく、ドワーフの夫婦を脅したのはウレだけでなく、フィグもだったのだろう。

 先程の報告は大部分、嘘だった訳だ。

 

「クソが!どうして俺の正体を!」

 

 もはや哀れなドワーフであったフィグの姿はなく、敵対意識を剥き出した魔物がそこに居た。

 さすがのフィグも騙せないと、演技を諦めたようだ。

 

「信頼できる筋から、汝が人でないと教えられたのだ。そして、道理も通っていた。他国への経路が限定されている我が国土。それでもなお国民を他国へ拉致するなら、自然、検問免除の証書を発行できる汝の力がいるだろう」

 

 山脈と海に囲まれたミナ・ミヌエーラから、人間を密かに拉致するのは困難を極める。

 特に、人間を扱うとなれば、そう危険な道は選べない。

 安全な道を選ぼうとすれば、検問所を避けて通れない。

 それで必要になってくるのが、検問免除の証書なのだ。

 その証書はフィグと双王にしか発行権限がなく、双王が国民拉致に加担する訳がない。

 という訳で、消去法的にフィグが拉致に加担した事が疑われ、フィグが魔物の潜入工作員である可能性に繋がってくるのである。

 

「かの者の観察眼と推理力は我をして恐れ入る。汝の偽装など、容易く見破っていくのだからな」

 

 さりげなく俺の方を見て、楽し気に口角を吊り上げるゴッホ。

 確かに、フィグが人間ではない事とその推理を教えたのは俺だが、情報源を仄めかしてほしくはなかった。

 おかげで、フィグには悟られたらしく、フィグの敵意がこちらにも向けられてしまう。

 

「貴様の正体は察しが付く」

「そんなに人間らしい人形を作れるのは、ロスしか居ないわよね」

 

 魔王軍幹部のロス。

 その種族はリビングドールであり、人間に酷似した人形を作っては、その人形を分身にすると言う。

 つまり、ウレもフィグも、ロスの分身だったのだ。

 そして、ロスは分身がある限り、仮に本体がやられたとしても分身に魂が移動する。

 それが魔王軍幹部ロスの不死性である。

 

「く、くはは、あははははははは!今まで見抜けなかった奴が、毒を飲まされておいて何を得意げになってるんだ!可笑しすぎて腹が痛くなるな!?」

 

 フィグは、自身がロスの分身である事も自身が犯した罪も否定しなかった。

 それどころか、双王を嘲笑している。

 

「ふむ。聞き出す事もないであろう。汝は大人しく、死を迎えると良い」

「安心しなさい。木片の一片まで凍らせてから、丹念に砕いてあげるわ」

 

 恐るべきドラゴン2体から死刑宣告。

 体もほとんど凍っているこの時点で、フィグに逃げ道などない。

 

「この俺が倒されようとも、分身も本体もまだ残っている!お前たちの中に、俺はまだ紛れているぞ!誰が俺であるか分からない恐怖に震え、疑心で互いに刃を突き立てるが良い!くはは、あーーーはっはっはっはっはっはっ!!!」

 

 顔まで徐々に凍結していく状態で、フィグは、いや、ロスは嘲笑を響かせた。

 そうして、気味の悪い笑顔を浮かべた男の氷像が出来上がり、ゴッホはその氷像を殴り砕くのだった。

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