100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
毒薬を盛った犯人を特定。双王の復活によりキラーウェアーの噴火も抑制。
犯人に自害され、犯行に至った動機を聞き出せなかったり、抑制が間に合わず、火山灰だけは噴出されてしまったりと、平穏無事とはいかなかった。
だが、ミナ・ミヌエーラの首都シムルアムビスに大きな被害はない。
国王も、解毒も回復もされて健在である。
万事解決と言って差し支えない状態だろう。
とある1つの問題を除いては。
その問題とは、フィグについてだった。
双王に毒を盛った犯人ウレ・ドールと、フィグは兄妹関係にあったのだ。
しかし、それはおかしい。
ウレは、リビングドールという魔物だった。
ドワーフと兄妹であるはずがない。
「弁明を訊こう、フィグ・ドールよ」
だからこそ、フィグは双王を目前にして、
「申し訳ありません、双王陛下……。私は、ウレと名乗ったあのリビングドールに、脅されていたのです……」
もはや逃れられぬと、フィグは素直に自供した。
その自供は、悔しさに押しつぶされるように、捻り出しているかのようである。
「あのリビングドールは、両親と私の下に、突然現れました。そして、こう言ったのです。『命が惜しくば、私と家族のように振る舞え』と……」
ウレはミナ・ミヌエーラに紛れ込むべく、家族を偽装したそうだ。
しかも、現地人の家族に成りすますという、狡猾な手に出ていたらしい。
その話が本当なら、数年単位の時間を費やす、大掛かりな計画だ。
まぁ、そんな大掛かりかつ慎重な計画だったからこそ、今まで気付かれなかったのだろうが。
「私の両親は、ずっと双王陛下に密告すべきか、悩んでおりました……。その意思を察知したあのリビングドールは、病死に見せかけて、両親を殺したのです」
今回と同じ毒か、はたまた別の方法か、両親の死を偽装した。
それで、秘密が漏れる可能性を潰したのだ。
「密告すれば私も両親と同じ死を迎えると、私は我が身可愛さに、今日まで黙っておりました……。その愚行が、国民や双王陛下を危険に晒したのです……!どうかこの哀れなドワーフに、慈悲なき裁きをお与えください!」
罪の意識に囚われたかの如く、フィグは己から求刑した。
まさしく、哀れなドワーフの姿がそこにある。
「……よくぞ、話してくれた。そして、裁かれるべきは我の方だ。王でありながら、国民にそのような危機が降りかかっていた事も気付かなかった。愚かなのは、我だった」
ゴッホは目を伏せ、己の不甲斐なさを噛みしめていた。
ウレの親として振る舞うしかなかったドワーフ。
そんなか弱い国民を2人も、尊い犠牲としてしまったのだ。
だからこそ、ゴッホはその犠牲を悼み、怒る。
「本当に、我は愚かだった。むざむざ工作員を、2体も潜入させてしまった。あまつされ、国民の拉致を許してしまうとは……」
「……え?」
怒り溢れるゴッホの形相に、フィグは違和感を覚えた。
工作員がウレだけなら、『2体』とは称さないはずだ。
だけど、ゴッホは間違いなく、工作員が2体居たと述べ、フィグを鋭い視線で射抜いている。
そんな急に敵意を向けられたから、フィグは気付けなかったのだろう。
怒りを露にしているのは、ゴッホだけではないと。
故に、フィグはその体を凍結される。
「ぐっ、がっ……!は、白竜王陛下!い、いったい何を!?」
「フィグ、もう良いのよ?そんな白々しい演技をしなくても」
フィグはそれでようやく気付いた。
グウィバーも怒りを露にしていたのだ。
グウィバーは凍えるような冷たい怒りを以て、フィグの首から下を凍結させている。
「え、演技?何を仰っているのか、全然……」
「往生際が悪い。なら、汝の仮面を剥がしてやろう」
まだ演技が通じると思っているフィグの左腕を、ゴッホは人型のまま千切った。
そうすれば、フィグがドワーフでないという、これ以上ないという証拠が得られる。
だってその腕には、肉もなければ血もない、
「もう言い逃れはできまい、リビングドール」
そう。フィグもリビングドールだったのだ。
おそらく、ドワーフの夫婦を脅したのはウレだけでなく、フィグもだったのだろう。
先程の報告は大部分、嘘だった訳だ。
「クソが!どうして俺の正体を!」
もはや哀れなドワーフであったフィグの姿はなく、敵対意識を剥き出した魔物がそこに居た。
さすがのフィグも騙せないと、演技を諦めたようだ。
「信頼できる筋から、汝が人でないと教えられたのだ。そして、道理も通っていた。他国への経路が限定されている我が国土。それでもなお国民を他国へ拉致するなら、自然、検問免除の証書を発行できる汝の力がいるだろう」
山脈と海に囲まれたミナ・ミヌエーラから、人間を密かに拉致するのは困難を極める。
特に、人間を扱うとなれば、そう危険な道は選べない。
安全な道を選ぼうとすれば、検問所を避けて通れない。
それで必要になってくるのが、検問免除の証書なのだ。
その証書はフィグと双王にしか発行権限がなく、双王が国民拉致に加担する訳がない。
という訳で、消去法的にフィグが拉致に加担した事が疑われ、フィグが魔物の潜入工作員である可能性に繋がってくるのである。
「かの者の観察眼と推理力は我をして恐れ入る。汝の偽装など、容易く見破っていくのだからな」
さりげなく俺の方を見て、楽し気に口角を吊り上げるゴッホ。
確かに、フィグが人間ではない事とその推理を教えたのは俺だが、情報源を仄めかしてほしくはなかった。
おかげで、フィグには悟られたらしく、フィグの敵意がこちらにも向けられてしまう。
「貴様の正体は察しが付く」
「そんなに人間らしい人形を作れるのは、ロスしか居ないわよね」
魔王軍幹部のロス。
その種族はリビングドールであり、人間に酷似した人形を作っては、その人形を分身にすると言う。
つまり、ウレもフィグも、ロスの分身だったのだ。
そして、ロスは分身がある限り、仮に本体がやられたとしても分身に魂が移動する。
それが魔王軍幹部ロスの不死性である。
「く、くはは、あははははははは!今まで見抜けなかった奴が、毒を飲まされておいて何を得意げになってるんだ!可笑しすぎて腹が痛くなるな!?」
フィグは、自身がロスの分身である事も自身が犯した罪も否定しなかった。
それどころか、双王を嘲笑している。
「ふむ。聞き出す事もないであろう。汝は大人しく、死を迎えると良い」
「安心しなさい。木片の一片まで凍らせてから、丹念に砕いてあげるわ」
恐るべきドラゴン2体から死刑宣告。
体もほとんど凍っているこの時点で、フィグに逃げ道などない。
「この俺が倒されようとも、分身も本体もまだ残っている!お前たちの中に、俺はまだ紛れているぞ!誰が俺であるか分からない恐怖に震え、疑心で互いに刃を突き立てるが良い!くはは、あーーーはっはっはっはっはっはっ!!!」
顔まで徐々に凍結していく状態で、フィグは、いや、ロスは嘲笑を響かせた。
そうして、気味の悪い笑顔を浮かべた男の氷像が出来上がり、ゴッホはその氷像を殴り砕くのだった。