100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十六節 祝勝会

「真の勝利に、乾杯!」

「「乾杯!」」

 

 毒殺未遂、火山本噴火未遂、潜入工作員排除。

 それらを祝う、いわゆる祝勝会が、王宮の食堂で催されていた。

 参加者は、ゴッホ、グウィバー、俺、ランテ、パース、リカルド、ムラマサ、フローレンス。

 今しがたワイングラスを掲げたゴッホに続き、皆各々のワイングラスを掲げた。

 注がれているのは、エヴァーイーストの天然水ではなく、高級な葡萄酒である。

 天然水の方はまだ魔術的混入物の除去が済んでいないため、万が一を考慮し、しばらく摂取禁止だそうだ。

 

「俺、昏睡してただけなんだけど……」

「私も似たようなものですねぇ。意識はありましたが、ほとんど動けませんでしたから」

 

 リカルドは己が場違いである事を懸念し、少し腰が引けていた。

 対し、パースは全然気にせず飲み食いしている。

 

「リカルドよ。此度の祝勝会は、汝らへの謝罪の意も込めている。工作員の潜入を許し、あまつさえ国賓に毒を飲ませた不備は、我々にあるのだからな。故に、遠慮せずこの場を楽しめ。正式な謝罪も後に行う」

「いやいやいや、紅竜王陛下には何も落ち度はありませんって。悪いのは魔王軍なんですから」

 

 ゴッホがわざわざ腰が引けている原因を取り除こうとしてくれたのに、リカルドは強情な程へりくだっていた。

 開き直れば楽だというのに。あえて面倒な方へ進んでしまうのは、リカルドの性分なのか。

 

「くはは。我が国の英雄は実に寛大だな。ならばこそ、友誼を図らねばならぬ。そのために、宴の1つも開かねばなぁ」

「……はは」

 

 あの手この手でリカルドが楽しむべき理由を作っていくゴッホ。

 そんな王の強硬にリカルドは反って腰が引けていくのだが、ゴッホはそれを楽しんでいる節がある。

 だってとても笑顔だし。

 

「テノールちゃん。楽しんでいるかしら?」

 

 リカルドとゴッホのやり取りを傍観していたところ、グウィバーが俺に絡んできた。

 リカルドの機嫌を窺う役がゴッホで、俺の方はグウィバーという訳か。

 美人が応対してくれると言うなら、俺としては有り難い。

 リカルドには少し悪い気がするが。

 

「ええ。僭越ながら、楽しませていただいております。謙遜するのも、場の雰囲気を悪くするでしょうから」

「あらあら。貴方も、活躍がなかった振りをしているのね」

 

 おそらくは本心から楽しんでもらうため、グウィバーは心の仕えを取り除こうとしてくれていた。

 ゴッホがリカルドにしているのと、ほぼ同様だ。

 

「俺も、ミナ・ミヌエーラが混乱に陥っていたと言うのに、眠りこけていましたから……」

「そうかもしれないわね。でも、貴方のおかげで、ロスの分身を見つけられたわ」

 

 フィグが人間ではないと伝えた事を、グウィバーは俺の功績であるとしてくれた。

 実際は、俺の功績になるかはかなり怪しい。

 身内から魔物が出たのであれば、本人も徹底的に調べ上げられたはずだ。

 その調べ上げる過程を、俺は大幅に省いただけに過ぎない。

 

 だが、あえて言えば、過程を大幅に省けたのだ。

 時間は有限。だから俺の行動は充分功績になり得る。

 ……いつもだったらここら辺で野次が飛んできそうだが、飛ばしてくるだろうエクスカリバーは睡眠中だ。

 あいつも今回は疲れたのだろう。

 

「ありがとうございます。そう言っていただけると、少しは気持ちが軽くなります」

 

 という事で、俺はなんの呵責(かしゃく)もなく、王からのご厚意に応える形で、思う存分己の功績に胸を張らせてもらった。

 そうしないと、厚意をくれたグウィバーに失礼なのだから仕方がない。

 一応勇者然とするため、態度は控えめだが。

 

「そんなに謙遜しなくても大丈夫よ?私たちですら、言われるまでフィグの魔力をドワーフのそれと誤認してたんだから。貴方の感覚はとても優れているわ」

「お褒めに与り、光栄です」

 

 俺が魔力で人間ではないと判断できた事を、グウィバーは褒め称えてくれた。

 そのお褒めも素直に受け取りたいが、こればかりは本当に謙遜しておく。

 フィグが人間ではないと判断できたのは、あくまでエクスカリバーの力なのだ。

 他人の力という時点で、俺は素直に喜べない。

 なら勇者として働きもエクスカリバーの力によるモノなのだから、そっちも喜べないのではないかという話。

 俺から言える事は、それはそれ、これはこれ、である。

 

「貴方の行動に、私は国を治める王として、感謝しているわ。だから、フィグの件や感謝祭の件、後日正式に埋め合わせさせてもらうわね。時期は、ラビリンシア建国記念祭の時が好都合かしら。もうそろそろですし」

 

 今年のラビリンシア建国記念祭に、グウィバーはどうやら出席するつもりのようだ。

 もしかしたら、ゴッホも出席するかもしれない。

 結構他国の王族も出席するラビリンシア建国記念祭だが、ミナ・ミヌエーラの双王陛下が出席するのは何年ぶりだろうか。

 少なくとも、俺が生まれて以来なかったはずだ。

 

 それにしても、少し思う事がある。

 

「そう、ですね。ラビリンシア建国記念祭、もうそろそろですね……」

 

 勇者となって約1年としてきたのが、今度は本当に1年経過してしまうのだ。

 ここ数カ月でも事件にたくさん巻き込まれ、濃密な時間を過ごした。

 それでようやく1年。そして、これからずっと続いていく。

 ……何故だろう、視界が霞んでくる。

 

「テノールちゃん……?」

「す、すみません。色々この約1年を振り返っていたら、涙が……」

 

 グウィバーに首を傾げられ、俺はすぐに涙を拭った。

 涙の意味を、悟らせてはいけない。

 

「うふふ……。貴方もやっぱり男の子なのね。それじゃあ、はい」

「な、何を……!」

 

 グウィバーは突然、俺に抱擁してきた。

 俺は動揺を隠せない。

 グウィバーの肢体は柔らかく、それが俺の体を包み込んでいるのだ。

 あまりにも精神的衝撃が大きすぎる。

 

「テノールちゃんって、随分前にお母さんを失くしたのでしょう?代わりにもならないでしょうけど、私がちゃんと慰めてあげようって」

「……っ!」

 

 なんという優しさ。それにこの柔らかさに包まれる幸福感。

 俺はさっきとは打って変わって、嬉し涙が込み上がってきてしまう。

 

「良いのよ、我慢しないで?泣きたい時は、泣かなくちゃ駄目よ?」

「う、うぅ……。ありがとう、ございます……」

 

 俺は色んな我慢ができなくなり、涙を流しながらグウィバーの胸に、そう、その双丘に顔を埋めた。

 嬉しさのあまり高笑いせぬよう、俺は歯を食いしばるのだった。

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