100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「……月が綺麗ね」
「ああ。特段、何かを成し遂げた後は、綺麗に見えるものだ。同時に、欠けた月が我らを嘲笑う笑みのようにも見えるがな」
「……そうね」
竜心王宮の中にある、双王が降り立つための広場。
位置的に中庭と称するのが正しいのだろうが、飾り気のなさから中庭と評し難い。
そんな場所で、グウィバーとゴッホはドラゴンの姿で夜空を眺めていた。
双王は落ち着いた場所で、今回の事件について思考していたのだ。
敵を退ける事はできた。この事は、『成し遂げた』と言える。
しかし、そもそも拉致を許した事、毒を飲まされた事。付け加えるなら、魔王軍の潜入に気付かなかった事。
王としては、これ以上ない程の失態だ。
だから、双王は月の嘲笑を戒めとして目に焼き付けていた。
この事件、喜んでばかりはいられないと、しっかり戒めている。
「魔王軍の活動は活発化している。とするなら、魔王は復活を果たしているであろう」
「ええ。あちらはもう纏まっていると、考えるべきでしょう」
以前の撃退から約1000年も経っている。
双王の持つ、魔王に関する情報を加味すれば、魔王が復活していると推測できた。
あの魔王も不死性を持ち、何度でも復活するのだから。
「漫然と構えている場合ではないな。あちらが纏まっている以上、こちらも纏まらねば」
「私も同感よ。ラビリンシアと手を組み、打倒魔王の旗を掲げないと。でも……」
ゴッホとグウィバーの意見は、ラビリンシア中心として打倒魔王の意識を纏める事で一致していた。
だが、グウィバーは不安を顔に出す。
「……国々が纏まれるか不安、と言ったところか?」
「……さすがは、私の親友ね」
ゴッホがグウィバーの内心を当てれば、グウィバーは苦笑を漏らした。
親友に隠し事はできないと、観念したのである。
「我も不安なのだ。何度となく纏まれなかったこの世界が、次こそは纏まれるのかと……」
何度となく襲来する魔王。
前回が第1次魔人戦争と呼ばれてはいるが、それが初めてではない。
あくまで、前回は被害が世界中に広がっただけ。
魔王の侵攻は、非常に長い間を経るが、度々行われているのだ。
双王は、1万年以上というその歳月で、何度もその侵攻を経験している。
そして、ただの1度も纏まれない人類側も、その目にしてきていた。
前回だって、全面戦争だったのにも拘らず、国々は纏まらなかった。
魔王攻略に乗り出したのは、それこそ勇者アルトとその一行に限定される。
「もし纏まれなかったら、次はあの子が行くの……?」
「……勇者テノールか」
もし纏まれなかった場合、前回と同じように、勇者御一行が魔王討伐の人柱となり得る。
今回の勇者御一行は、テノールのそれになる可能性が高いのだ。
その事について、グウィバーもゴッホも憂慮していた。
グウィバーの方は悲壮感すら漂っている。
「あんな子を、私たちは人柱にするの……?」
「……」
グウィバーの問いかけに、ゴッホは首を縦にも横にも触れなかった。
双王は、テノールの涙を、目の当たりにしている。
昨日の祝勝会で、グウィバーがラビリンシア建国記念祭を言及した時だ。
テノールは、勇者として活動していた1年を振り返り、涙していた。
活動の多忙故か、己の無力故か。
かの勇者の内心を推し量る事は難しい。
でも、テノールはあの祝勝会の場で、人目のある場で、涙を流したのだ。
それは、心が悲鳴を上げている事に他ならない。
少なくとも、ゴッホとグウィバーはそう解釈している。
非常に残念ながら、恐ろしいまでに的が外れた解釈なのだが。
「あの者は、『無力なままでありたくない』と、確かな意志を持っていた……。とても固い意志だ……。その固さが、あの者の
固いからこそ、柔軟性がない。
己の弱さを、己の怠けを許せない。
ゴッホはその意志が、テノールの強迫観念になっていると察した。
悲しきかな、ただの勘違いである。
「私は、あの子を
グウィバーは少数で魔王を攻略するなどという無理難題を、テノールに押し付けたくはなかった。
心の強いテノールなら、やり遂げてくれるだろうという確信はできる。
同時に、それは命懸けによる成果になるだろう事も、グウィバーには確信できてしまうのだ。
テノールの本性的に、絶対そんな事はしないが。
「汝の気持ちは分かる。だからこそ、我々がまず同盟の先陣を切り、世界に呼び掛けるのだ」
「……他所の国を、説得できるかしら」
「可不可の問題ではない。やらねば、何も始まらぬ。問題すら起きぬ」
ドラゴンである自身らに、人類を説得できるのか。
そういう心配は、グウィバーだけにではなく、ゴッホにもあった。
それでも、まずはやってみねば何も変わらないと、ゴッホは心配をはね退けようとしている。
「前回勇者アルトに加勢できず終わった分、今回は最大限助力しようではないか。勇者テノールは汝が抱擁してしまうくらい、お気に入りのようであるしな」
「お気に入りって、もう……。ちょっと母性が溢れちゃっただけよ」
「くくく。そうかそうか」
ゴッホは祝勝会での抱擁を揶揄い、場の雰囲気を和ませにかかった。
狙い通り、鬱屈していた先程と打って変わって、グウィバーは口を
こうして、この月夜の晩は、空気の思い会議ではなく、楽しい談笑となるのだった。
「それにしても。あの泣きながら私の胸に顔を埋めるテノールちゃん、可愛かったわぁ。思わず食べたくなっちゃった」
「……どっちの意味でだ?」
「ただの冗談よ。どっちの意味でもないわ」