100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第五章~祭に集うは人と思惑~
プロローグ 狐の住処


「……」

 

 とある者が、執務室の役を担う一室で、執務を行っていた。

 その一室を執務室と称さないのは、世間一般の執務室とは装いが異なるからだ。

 その一室の床は、畳が敷かれている。

 間仕切りは襖であり、執務を行う者は座布団に座っているのだ。

 おまけに、この部屋のある位置は、執務室としては比較的高い場所にある。

 その場所の正式名称は、天守。

 そう。ここは城。それも織豊(しょくほう)系城郭なのである。

 ちなみに、『織豊系城郭』という言葉は『コジ記』に記されているが、何故そのような名称であるかは知られていない。

 

 そんな、この世界では珍しい部類に入る形式の城。

 その中で頂点にある部屋、天守で執務を行っている者が居る。

 そんな場所に居るのだから、その者がかなり地位の高い存在である事は明白だ。

 

「……うん、まぁこないなモンでええやろ。大まかな方針はウチが決めなあかんとは言え、細部は専門家に詰めさせるのが一番や」

 

 その者は艶やかな声質で、特徴的な訛りのある言葉を発話していた。

 その者が住む地域で用いられている、いわゆる方言である。

 

「あぁ、疲れた。いつんなっても、机仕事は慣れへんもんやわぁ。ん、んん……」

 

 その者は疲れを少しでも和らげ、体の凝りを解すために伸びをした。

 その時、その者の腰に巻き付いていた毛布のような物も、臀部(でんぶ)のやや上を始点にして、真っすぐ立ち上がったのだ。

 端的に言えば、毛布のような物は毛布ではなかった。

 それは、執務を行っていた者から生える、獣の尻尾だ。

 同時に、その者の頭部でも、垂れ下がって髪に紛れていた獣の耳が、天井に向かって立ち上がっている。

 その外見は、ヌエトラやヌエズミの耳と尻尾を、狐のそれに置き換えたようであった。

 ならば、その者の種族は合成魔物の総称たるキメラと呼べるのかもしれない。

 ただ、本人はその呼称をこう訂正するだろう。

 『ウチらの種族はファーリーや』と。

 

「さて、休んでばかりでも仕事は終わらへん。まず、この書類を届けさせよか」

 

 先程書き終えた書類、とある草案を届けさせようと、その者は手を叩いて誰かを呼び寄せようとした。

 なのだが、丁度襖を隔てて誰かが声をかけてくる。

 

「クミホ様、ご報告したい事があります」

「ああ、ミギチカ。丁度ええところに。こっちも用事あってん。入りぃや」

「失礼します」

 

 執務を行っていた者、クミホは天守に訪れた者、ミギチカを快く迎え入れた。

 そうすれば、ミギチカは片膝立ちの姿勢で襖を開け、その低い姿勢を維持したまま入室し、丁寧に襖を閉めてからクミホに向き直る。

 そんな礼節を弁えている彼女もまた、獣の耳と尻尾を携えていた。

 種別としては犬。彼女ら風に言えば、ミギチカは犬のファーリーなのだ。

 

「そっちの用件から済ませてかまへんよ。ウチも気になるし」

「では、報告させていただきます。領海内北西部にて、所属不明の船団を確認いたしました」

「なんや、また魔王軍かいな」

 

 ミギチカからの報告を最後まで聞かず、クミホは結論を導き出して呆れていた。

 最近、魔王軍の無許可上陸と領海侵犯が後を絶たないのだ。

 だから、クミホはすぐに魔王軍の船であると結論が出せた。

 ミギチカもその結論に対し頷いている。

 

「性懲りもないやっちゃなぁ。どうせ、(かしら)が復活したゆうて、気を大きくしとるんやろ」

 

 まだ国土の侵略はされていないが、クミホにとって魔王軍の行動は鬱陶しかった。

 毎度しっかり追い払っている。

 だが、度重なる上陸と侵犯によって、そろそろ侵入経路を確立し始めているかもしれない。

 あまり手はこまねいていられないと、クミホは推測する。

 

「相手さんが本腰入れな、まだウチの国は盗れんやろが。余裕を持っておきたいわぁ」

 

 もしかしたら植民地として狙われる可能性は充分にある。

 ならばこそ、防備は整えておきたい。

 

「頃合いやな。開国に乗りだそか」

 

 開国、という事は、今まで国が鎖国状態にあったという事。

 そんな国はこの世界でたった1つしかない。

 約1000年以上鎖国し、それ以前も極力他国との交流を控えていた国。

 その国は、ジパングと言う。

 そして、そんな国の開国に踏み切れる人物が、クミホ帝王。

 ジパングが国として成立した時から君臨する、狐のファーリーである。

 

「時期はどうなさいます」

「国々へ一気に伝えられる良い時期があるやん」

 

 ミギチカが開国の詳細を訊ねれば、クミホはにこやかに微笑んだ。

 クミホにはすでに妙案があったのだ。

 

「と、仰いますと?」

「ラビリンシア建国記念祭。全国家とはいかんまでも、色んな国の人間が揃うやん。そこに出向いて伝えに行くんや」

 

 そろそろ開催されるラビリンシア建国記念祭。

 その時期におけるラビリンシアの入国審査は、他国の者を大勢招きたいが故に、少し緩和される。

 よって、入国が比較的簡単である事からも、開国を発表する場として好都合だ。

 

「誰を遣わせましょうか」

「こう言うんはな、誠意が大事なんや。遣わす奴の位が高ければ高い程、相手は誠意を感じてくれるんよ」

「では、私が行きましょう」

 

 クミホの側近に当たるミギチカ。

 誠意を見せるには、充分に位が高い。

 

「いや……」

 

 だが、その程度でクミホは満足しなかった。

 

「ウチが行くわ」

 

 帝王自らが出向く。

 クミホはそれで最大限の誠意を見せ付けるつもりでいたのだった。

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