100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「勇者テノールよ。拉致被害者の護送及び他国での感謝祭、そして魔王軍幹部ロスの撃退。そられ貴公の働き、見事であった」
ミナ・ミヌエーラからラビリンシアに帰還してすぐ、俺は玉座の間でバーニン王と謁見。
いつもの如く、称賛を受け取っていた。
改めて俺の
我ながら恐ろしい働きぶりだ。
1回の旅で3つも仕事しているとか、自身でも仕事中毒なのではないかと疑ってしまう。
「後日、褒賞を賜す」
「国王陛下、その褒賞についてなのですが。指定してもよろしいでしょうか」
いつもはだいたい金銭なのだが、その金銭は現状かなり死蔵している。
貯蓄は必要不可欠ではあるが、だからって死蔵したくはない。
お金を1ヵ所に留めると、経済が回らないのだ。
しかし、趣味や道楽へ金をかける暇がないのだから、死蔵するのも仕方がない。
だから、今回の褒賞は別の物にしてほしかった。
ついでに、指定する褒賞で、お金を多少なりとも常に回すための仕組みを作っておきたい。
「うむ、良いだろう。して、何を求める」
「土地を、いただきたく思います」
「土地か。何に用いる算段だ」
「まずは、俺個人の住居を建てようかと」
そう。まずは住居である。
王宮のあの一室は盗聴された事もあり、あの部屋を使い続けたくはない。
危険性はないと予言者が言っていたが、盗み聞ぎされるだけで俺にとっては危険なのだ。
もし俺が本性を晒している時の言葉を聞かれれば、俺は名誉を失い得る。
その危険を排すための、俺の個人邸宅だ。
他言無用を添えた契約で侍従を雇えれば、もし俺の本性が暴かれても口封じは容易い。
おまけに、俺個人の裁量で人を雇えるため、美女たちで侍従を揃える事もできる。
さらには、雇用という事だから侍従たちの給料として、お金を経済に回せるのだ。
(さりげなく侍従を女で固めようとしている辺り、やっぱり下衆いな)
下衆くないわ。
(謂れありすぎんだよなぁ)
駄目だ、止める気配がない。
こういうやっかみは聞き流すに限る。
バーニン王への謁見に集中しよう。
「住居が欲しいと言うならば、住居も含めて褒賞とするが」
「ありがとうございます、国王陛下。ですが、それは遠慮させていただきます」
バーニン王から魅力的な提案が出されたが、その提案では俺の金が使えない。
この辺りで一気に使っておかないと、本当に死蔵しかねないのだ。
だから、心惹かれはするが、丁重にお断りさせてもらう。
「訳を訊いても構わないか」
「もちろんです。ですが、そんな大した訳ではありません。俺は、自分のお金で家を買うのが憧れだったのです」
厚意を蹴ったのだから、バーニン王も訳が気になったようだ。
そこに、俺は適当な訳を語って聞かせた。
実際、幼い頃にそういう憧れがあったのは事実だ。
母親に安全で快適な家を買ってやりたかったという、親孝行的な子供の夢である。
それに、元農民の憧れならば、こういうくだらないモノの方が真実味を帯びるだろう。
「なるほど、そうであったか。相分かった。貴公の希望通りとしよう」
狙い通り、バーニン王は信じてくれた。
何故だか、暖かく微笑みかけてくるが。
「褒賞とする土地の候補は目録にまとめさせる。その中から選ぶと良い」
「重ね重ね、ありがとうございます」
さすがに好き勝手選ばせてはくれないが、これ以上の要望は差し出がましい。
落としどころという事で、俺は素直に受け入れた。
まぁ、国王からの褒賞なのだから、間違っても荒地ではないだろう。
「此度はここまでとしよう。長旅の後だ、貴公も疲れが溜まっているだろう。しばし休息を得よ」
バーニン王は『此度はここまで』と発言し、俺の労を
もしや、疲れた状態では話し合えないような議題があるのではないか、と。
「ラビリンシア建国記念祭も近い。祭りを盛り立てるために、貴公にも一役買ってもらいたい」
そう言えば、そんなのがあった。
バーニン王の言葉で、俺はラビリンシア建国記念祭を思い出せたのだ。
多少現実逃避していたかもしれない。
だって、俺は聖剣エクスカリバー選定の儀式に代わる行事という、どう見積もっても大役である一役を売りつけられるのである。
「俺にできる事なら協力しますが……。勇者になってたかだか1年の俺に、その役が務まるでしょうか……」
俺の心配を伝えつつ、暗にその役から逃げようとした。
無理難題は御免なのだ。
「安心せよ。貴公にならできるはずだ」
バーニン王の耳に俺の心配など届かず、むしろ全幅の信頼を置いてくれた。
勘弁願いたいのだが、もう逃げられそうにない。
「……分かりました。微力を尽くします」
だから、俺には頷く事しかできない。
悲しい事だ。国王に逆らえないなど、これでは飼い犬も同然である。
「行事については追って連絡する。下がって良いぞ」
「ははっ」
結局俺は国王の飼い犬でしかなく、なんの文句も付けられずに玉座の間を後にするのだった。