100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「行事については追って連絡する。下がって良いぞ」
「ははっ」
バーニン王との謁見は終了。
ラビリンシア建国記念祭に関する事でまた呼び出されるだろう。
その事については非常に荷が重い気分だが、しっかりと背筋を伸ばして退出する。
せめて王宮の自室までは我慢だ。
そうして、廊下に出てもなお気を張って、目的地に向かおうとした。
王宮の自室には盗聴される不安がまだ残っている。
だが、今日は疲れた。宿を探すのも手間だ。王宮の自室で妥協しよう。
そんな風に足を向けた時だ。
「テノール様!」
俺は久々に、その鈴が鳴るような美声を耳にした。
その声はもちろん、ルーフェ様の声だ。
俺は一瞬その美声に癒され、なんの警戒もなくルーフェ様を迎えようとしていた。
だが、忘れてはいけない。
ルーフェ様は俺の自室に盗聴器を仕掛け、あまつさえ俺の衣服を盗んだ容疑がある。
故に、俺は少しだけ身構えつつ、ルーフェ様の経過が良好である事を願って相対したのだ。
「ルーフェ王女殿下。何故だか、その声をお聞きするのが久しく感じられます」
「ええ、そうでしょうとも。テノール様は相変わらず王命でお忙しいのですから。わたくしが召し物を……、いえ。とにかく、わたくしがどれ程再会を望んでいた事か」
……治りきってないな。しかも『召し物』って言ったな。
これ、衣服窃盗は容疑ではなく事実か。
まぁ、1・2カ月で完治するなんて期待はしていなかったが。
「それより、こちらをご覧ください!」
「それは……俺を描いた絵画、ですか?」
話題逸らしも兼ねたモノかもしれないが、ルーフェ様は1枚の絵画を見せ付けた。
その絵画は俺を題材にした写実的な物で、現実の光景を切り取ったかのような、恐ろしく精巧な作品だったのだ。
衣服窃盗への言及を横に置いてしまう程、俺の意識はその絵画に持っていかれた。
そのくらい素晴らしい出来の作品というのもあるが、俺が意識を持っていかれた理由はもう1つある。
「どうして、腰布1枚なんです……?」
絵画に描かれている俺は、腰布しか纏っていなかったのだ。
しかも、かなりの
「そ、それは……。気の迷いと言いますか、筆の過ちと言いますか……」
「え?この絵画、ルーフェ様が描かれたのですか?」
「は、はい……」
ルーフェ様は躊躇いがちに、絵画が自身の作品である事を肯定した。
てっきり有名な画家に依頼した物か、偶然目にして購入した物かと、俺は思っていたのだ。
残念ながら、俺の思い違いだった。
なんと、ルーフェ様が己の手で描いた絵画だったのである。
「……」
「あの、そこまでじっくり見られると、わたくしも気恥ずかしくなってしまうのですが……」
普通に凄い作品だと注視していたら、ルーフェ様は困ったような顔で頬を赤く染めていた。
そんな風になるんだったら何故見せ付けたのか、という言葉を俺は飲み込む。
「失礼。ルーフェ様の画才に感動しておりました。まさか、想像だけでここまで描けるとは」
先程も言ったが、描かれているのは腰布一丁の俺である。
当たり前だが、俺はルーフェ様に裸体を晒した事などない。
していたら、おそらく俺の首は胴体と離れ離れになっている。
つまり、描かれた俺の体はほぼルーフェ様の想像。
なのに、実際の俺の体と酷似していた。
ちょっと寒気も覚えるほどの正確さだ。
「ありがとうございます。テノール様からお褒めいただけて、大変誇らしいです」
絵画の表裏を返しつつ、ルーフェ様は屈託のない笑みを浮かべた。
気の迷いでほぼ全裸を描いたのは恥ずかしいが、それはそれとして出来を褒められるのは嬉しいらしい。
「それで、折り入ってお願いがあるのですが……」
「なんでしょう。絵画の取材という事でしたら喜んで」
如何に画才があると言えど、想像での描画には限界があるだろう。
ならば、欲しくなるのは模型、描きたい現実の光景だ。
題材が現実の人物となれば、その人物に描きたい体勢を取ってもらった方が確実に描きやすい。
取材される側の俺としても、こんな綺麗に描いてくれるというなら、手伝うのもやぶさかではない。
「で、でしたら!是非裸体を!」
「……申し訳ありません。もう一度言っていただけますか?」
きっと聞き間違いだ。
そんな一縷の望みを託し、俺は再度ルーフェ様の言葉に耳を傾ける。
「テノール様の裸体を取材させてください!腰布を巻いて隠すなどという愚行を冒したままではおられません!伏しては是非テノール様の実物をこの目に焼き付けたくございます!」
「……」
画狂となったのか、悪癖が進化したのか。果たしてどちらだろうか。
どちらにせよ、一国の王女が勇者に局部を晒すよう
(どうしよう。いっその事、既成事実とするために、裸体の取材を受けてしまおうか)
(あはははははは!良くねぇよ、落ち着け!)
エクスカリバーが俺を笑いながら正当な指摘をするという、奇妙な事をやってのけた。
おかげで俺は正気に戻る事ができたのだ。
危なかった。正気を失ったままであったら、本当に一国の王女へ裸体を晒すところだった。
今回ばかりはエクスカリバーに感謝しよう。
(酒な)
とても現金なアマだ。
手元に酒はないから、今度買いに行こう。
まずは、目の前の王女について対処せねば。
「ルーフェ王女殿下。非常に心苦しくありますが、裸体の取材はお断りさせていただきます」
「な、何故ですか!?」
何故も何もあるかという話だが、とにかく俺は適当な理由をでっち上げる。
「俺は、操を立てているのです。添い遂げると誓った女性以外に、裸体は晒さぬと」
妻でもない女性の前では裸にならないと、ある種当然の事を俺は語った。
さもそれが大事な誓いのように、俺は言葉を飾ったのである。
(側室とか愛人が欲しいとか抜かした身で、よくもそんな嘘が付けんなぁ)
嘘じゃない。側室も愛人も妻のようなモノ。妻が多いというだけだ。
(いや、その理論は下衆すぎんだろ)
もう良い。お前とは分かり合えない。
「そ、添い遂げる……。そ、それは、婚姻を結ぶとい、いう事ですか」
ルーフェ様は『添い遂げる』という言葉、結婚を想起される言葉にまたもや頬を染めていた。
人の服を剥こうとした事には恥ずかしげもないのに、裸体を描いた事や結婚は恥ずかしくなるという。
ルーフェ様の感性はいったいどうなっているんだ。
「ま、まだ、その……。結婚は早いかと……」
何にせよ、その線で押せばルーフェ様は退いてくれそうだ。
「ええ。俺もまだ未熟の身。ルーフェ王女殿下に相応しい男となるまで、どうかお待ちください」
「は、はい……」
俺は結婚を仄めかせば思惑通り、ルーフェ様はいじらしく退いてくれた。
こうして見事、俺はルーフェ様を撃退したのだった。