100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第六節 妖艶なお客人

「そ、それじゃあ!また今度!」

「ああ。またな、ブレンダ」

 

 ブレンダと俺はお別れの挨拶を告げ合い、ブレンダが走り去っていく。

 ブレンダとの再会は、それで終わってしまった。

 ブレンダが買い出しを行っているところに出くわし、その買い出しが終わったら今日は休みだと聞いて、昼食を一緒に取っていたのだが。

 昼食を取った後、ブレンダは急用を思い出したという事で、解散となったのである。

 

 俺としてはもうちょっと話したかったが、仕方ないだろう。

 なんて言ったって、ブレンダは号泣してしまったのだ。

 俺は必死に慰め、どうにかブレンダの涙を止めた訳だが、ブレンダとしては気まずいはずだ。

 友の前での号泣、しかも公共の場でのお披露目。

 泣き止んで冷静になった頭でその惨状を振り返れば、気まずくなるのも無理はない。

 しばらくは、そっとしておこう。

 

(……)

 

 物凄く物申したそうな目でこちらを睨んでくる亡霊が居るが、いったいなんだ。

 

(亡霊じゃねぇ。……いや、まぁ、オレは相変わらずあの嬢ちゃんが哀れに思えちまうよ)

 

 エクスカリバーの哀れみも、分からなくはない。

 ブレンダは身の丈に合わない功績を求め、切羽詰まっていたのだ。

 ブレンダのあの生真面目さは美徳だが、気真面目すぎて今後も難儀するだろう。

 その気真面目さはブレンダの勤勉さに繋がっているのもあり、魔術研究家としての大成を望むなら、切っては捨てられない。

 我が同郷の友ながら、哀れだ。

 

(……そうじゃねぇんだけどなぁ。……どうすりゃ良いんだ?これ)

 

 同意したはずなのに、何故だか否定された。

 俺にはエクスカリバーが分からない。

 ならもう放っておこう。

 

 とりあえず。俺も今日は貴重な休日だ。

 無駄にするべきではないために、王都を練り歩こう。

 湯屋での湯治なんか、良いかもしれない。

 

 そうして、歩き出そうとした時だ。

 

「そこのあんさん、ちょっとええか?」

 

 俺は、誰かに声をかけられた。

 しかも、王都では全く聞かない方言のそれ。

 パローナやパンデモニウムの一部地域で使われているような、特徴的な方言だ。

 その発生先に振り返れば、これまたその地域の特徴的な着衣、女袴(おんなばかま)を纏った、見目麗しい女性が居た。

 腰に毛布のような物を巻き付けているため、俺の知る女袴とは少し差異があるが。

 とにかく、視線は俺と合致しているし、声をかけたのは彼女で間違いない。

 

「俺に何か御用ですか?」

「当然。遠路はるばるラビリンシア王都まで来たさかい、噂の勇者に声かけんで何しに来たっちゅうねん」

 

 どうやら、俺を勇者テノールと察して、袴の女性は声をかけたらしい。

 『遠路はるばる』という事は、やはりパローナやパンデモニウムの出身か。

 

(気配的に人間じゃねぇな。まぁ、パンデモニウムは魔物の国だから、別に不思議でもねぇだろ)

 

 パローナにも魔物が少数暮らしているという話を聞く。

 ラビリンシア建国記念祭も近いから、それらの国からラビリンシア観光に来てもおかしくはない。

 

「他国からの客人でしたか。ようこそ、ラビリンシアにお越しくださいました。僭越ながら、俺がこの国を代表して、お礼申し上げます」

「なんや、嬉しい事してくれるやないの。かの勇者にお礼言われただけで、この国に来た甲斐があったわぁ」

 

 観光客という事で、俺はその女性を歓待した。

 そうすれば、その女性は微笑みを返してくれる。

 この程度で美人の微笑みを貰えるなら、安いものだ。

 

「改めまして、麗しい貴女。俺はテノール。ラビリンシア、そしてミナ・ミヌエーラより勇者の称号をいただいている者です」

「ご丁寧にどうも。ウチはクミホ。悪いんやけど、ウチの身分や出身は伏せさせてもらえんやろか。こう見えてお忍びできとんねん」

 

 袴の女性、クミホは申し訳なさそうに、自身の詳細を秘匿する事を願い出た。

 俺の自己紹介に対する返礼として、その秘匿が失礼になると思ったのだろう。

 だが、そういう思慮が巡る時点で、クミホは失礼な人ではない。

 失礼な奴っていうのは、まず申し訳なさそうにしたりはしないのだ。

 

(おい、一瞬こっち見なかったか?)

 

 全然?

 被害妄想など止めて欲しいものだが、そんな事より目の前の美人だ。

 

「構いません。休暇の日くらい、普段の重圧から解放されたい。そういう気持ちは理解できます」

 

 俺は礼儀を失さぬクミホの気持ちを汲み取り、クミホの願いを聞き届けた。

 多少の失礼には目を瞑る。それが紳士というモノだ。

 

「あんさんの心が広くて助かるわぁ。でも、『気持ちは理解できる』ちゅう事は、あんさんもそういう時があるん?」

「まぁ、勇者と褒め称えられてはいますが、所詮はただの人なので」

 

 勇者にも人間らしいところがある。

 そういうのを明かしていかないと、道具の如く使われてしまう事を俺は学んだ。

 主にバーニン王の俺に対する扱いから。

 

「勇者も人の子、ちゅう事やな」

「勇者像を壊してしまっていたら、すみません」

「そんな謝らんとってぇ。ウチはそんな事考えてへんよ。むしろ、人間らしくて親しみが湧くわ」

 

 クミホは俺に穏やかな対応をしてくれた。

 勇者に偏見など、クミホは抱いていなかったようだ。

 クミホは等身大の俺を受け入れてくれている。

 

(等身大?)

 

 煩い。

 

「でもそうやなぁ、そんなんやったら……。ウチんとこ、来ぉへん?」

 

 急に、クミホの雰囲気が変わった。

 穏やかに微笑んでいたその表情が、微笑みを崩さぬまま目を鋭くしたのだ。

 その鋭い目で、クミホは俺を狙っている。

 

「……どういう意味ですか?」

「ウチの傘下に入らんかっちゅう意味や。楽させたるし、欲しいもんはなんでもやるでぇ。金、名誉、女……。なんやったら、ウチの体とか、いらへん?」

 

 クミホの提案は、すごく魅力的だった。

 だが、クミホは俺を傘下に加え、俺に何をさせたいかは明言しなかったのだ。

 その点が全てを台無しにしている。

 

「お断りします」

 

 故に、俺は迷いなく断れた。

 何をさせるつもりか、そういう細部を秘密にする組織に、所属するつもりはない。

 そういう組織は得てして、非合法を生業としている組織だ。

 

「くふふ、怒らせてしもうたかなぁ。でも堪忍な?可愛い子は揶揄いたくなる性分なんや」

「大丈夫ですよ?冗談なのは明白でしたから、その程度で腹を立てたりしません」

「なんや、冗談なんは見抜かれとったんか」

「もちろん」

 

 冗談であった事を強調し、お互い先程のやり取りが冗談だった事にした。

 俺も相手も、その方が平和なのだ。

 

「クミホ様!!どこに居らっしゃいますか!!」

「あ、いけん。連れを置いてきてたんやった」

 

 クミホの名を呼ぶその大声に、クミホははっとしていた。

 その大声は連れのモノらしく、その声を聞いて連れの事を思い出したのか。

 

「すんまへん。連れと合流せんと雷を貰うさかい、この辺で」

「ええ。どうか王都ドラクルを堪能していってください」

「あんがと、テノールはん。そうさせてもらうわ」

 

 俺とクミホは和やかに手を振り合い、それからクミホは連れの下へと向かっていく。

 訳ありで妖艶な観光客と、俺はそうやって別れたのだった。

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