100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「クミホ様、どこですかぁ!!」
ミギチカの声が響く大通り。
クミホはその声がする方に、実にゆっくり近づきつつ、先程出会った勇者について考えていた。
(なんや、誘惑すれば容易く揺れると思っとったが、身持ちが固いやないの)
クミホは勇者を少し誘惑してみたのだが、全然なびかなかったのだ。
着飾った正義感なら剥げるだろうその誘惑に、テノールはなびかなかった。
頑丈な装丁であるか、それとも真の正義感か。
どちらにせよ、こちらの傘下に連れ込めそうにはない。
クミホは勇者テノールを、なかなか食えない人物と認識する。
(農民の出っちゅう話やったが、あの聡さはただの元農民ちゃうなぁ。国が教育したんやろか……。それともまさか、ウチのご同輩やったり……?)
クミホはテノールを分析し、想定し得る可能性を考える。
その中で、自身と同じ境遇である可能性も上げた。
クミホには、テノールが20にも満たない少年だなんて、信じ難かったのだ。
(なかなかおもろいなぁ、あの子。もっと長く話したかったわぁ)
クミホは振り返った。
残念ながら、もうテノールの姿はない。
話し合える絶好の機会は、かなり先送りにされてしまっている。
(しゃあないな。まぁ、焦らんでもええか。上手く事が運べば、ウチの国に呼び寄せられるやろし)
それでも、クミホはその別れを惜しまなかった。
次の機会は絶対にあると、信じているからだ。
その確信を以て、クミホは視線の先に居ないテノールへ、妖しい笑みを贈った。
次の機会が楽しみだと、クミホは笑っている。
「クミホ様、見つけました!」
「ミギチカ、そない慌ててどないしたん」
クミホは自身が慌てている原因と知りながらも、素知らぬ振りをしてミギチカと相対した。
怒って良いところだが、ミギチカはそうせず、クミホへ
「クミホ様!御身を見失った事、申し訳ありません!」
ミギチカは過失を自身のモノとしていたのだ。
そもそも、クミホはジパング帝国において絶対の存在たる帝王。
側近であるとは言え、ミギチカにも諫める事ができない人物なのだ。
「ミギチカは馬鹿真面目やなぁ。ほら、怒ってへんから頭上げぇ。耳目がある場所でそないな行動は悪目立ちしてまう」
「つくづく考えが至らず、申し訳ありません」
謝るのを止めさせようとしたのだが、ミギチカは頭を上げても謝り倒していた。
このような部下に育ってしまったのは環境のせいで、その環境を作ったのはクミホである。
その事を鑑み、この統治方法は失敗だったかと、クミホは現状を憂いた。
ここまで絶対的な地位を築き上げるつもりが、クミホにはなかったのだ。
「まぁ大丈夫や。大した問題やないし、ウチは機嫌がええ。今回はお咎めなしだ」
絶対的な地位に至ってしまった現状をすぐにどうにかする事もできないので、クミホは己の絶対性を一旦演じた。
帝王として『お咎めなし』と明言する事によって、この話題を終わりにする。
「寛大な処置、感謝いたします」
結局なんだか敬われるのだが、クミホはその点に目を瞑る。
「ところで、機嫌が良いという事でしたが。何かありましたか」
「さっきこの国の勇者に会ったんよ」
「もう勇者テノールと接触されたのですか?さすがはクミホ様です」
「偶然や、偶然。奇妙な気配がするさかい、そっちに行ったらばったり出くわしてん」
無駄に持ち上げてくる部下にクミホは謙遜するが、もちろんなんの効果もなかった。
向けられる羨望の眼差しに苦笑を映して、それ以上は抗わない。
「ゴッホはんとグウィバーはんが勇者の称号与えたち聞いとったけど、本当やったんやね」
「勇者から聞き出せましたか」
「せや。嘘を言ってる様子でもあらへんかった」
鎖国状態にあったが、情報収集はおろそかにしていなかったジパング。
その国の帝王も側近も、テノールがミナ・ミヌエーラでも勇者となった事を耳にしていた。
しかし、両者ともに耳を疑っていたのだ。
「他国の者を自国の勇者とするなんて、いったい如何なる思惑が……」
その意外感は当然のモノで、通常他国の人間に自国の勇者称号、独自の裁量権を与える訳はない。
そんな通常あり得ない判断に、ミギチカは頭を悩めていた。
ラビリンシアとミナ・ミヌエーラで何か取引があったのかと、そういう深読みをしてしまう。
「案外、テノールはんの事を気に入っただけやったりして」
対してクミホは勇者テノールと多少ながら話して、得心していた。
あの少年はあいつらに気に入られそうだと、得心していたのだ。
「それだけで勇者称号を与えるでしょうか」
「それだけではないかもしれへんな。ラビリンシアと決定的な友誼を結びたいっちゅう事もあるやろし、ラビリンシアに注目を集めたいっちゅうのもあるかもなぁ」
気に入っただけ、というのもクミホはあり得ると思ったが、悩める部下にそれらしい可能性を提示しておいた。
あまり悩み過ぎないよう、制したのである。
「なんにせよ、今後は結構慌ただしくなりそうや」
世界が動きつつある。
クミホはその兆候を注視するのだった。
「そう言えば、サコンはどこ行ったん?」
「……