100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第八節 思わぬ出会い

 何もない日々が続く平穏な休日。

 そんな休みを思う存分満喫する選択肢もあったのだが、勇者である俺はその選択肢を選ばなかった。

 現在地は、大雑把に言うとホッタン領からチューオ領へと伸びる街道の途中。

 何故そんな場所に居るかと言うと――

 

「セイッ!」

 

――街道の安全性を高めるため、その付近で湧いている魔物を掃討しているからだ。

 ちゃんと冒険者依頼として受注しているので、無駄な奉仕活動ではない。

 ラビリンシア建国記念祭が近付くこの時期、この手の依頼は多いそうだ。

 

「カウ!そっちにバジリスクが1体向かった!」

 

 その情報源であるカウ・マインズに、俺の体を乗っ取っているエクスカリバーが注意を促した。

 言葉に偽りはなく、確かに大きな蛇のような魔物、バジリスクがカウの方へと向かっている。

 エクスカリバーは大きな鶏のような魔物、コカトリスとバジリスクに囲まれ、助けには行けない。

 

「大丈夫です、これくらいなら!」

 

 カウは現在相対しているバジリスクを踏み台にして跳び上がり、背後から迫っていたバジリスクを回避。

 そうしてから、降下と共に斧を振り下ろし、背後から迫っていたバジリスクの頭部を粉砕した。

 どうやら、助けに行く必要もなかったようだ。

 他の冒険者も、魔物掃討を共同で行っている近衛兵も、危なげなく魔物を狩っていく。

 

「面倒だ、まとめてやってやる!」

 

 己を囲い込む魔物の群れ、それを1体ずつ狩っていくのが、エクスカリバーは面倒になった。

 それで何をし出したかというと、右足を軸にして回転し、そのまま剣を振る。

 いわゆる回転切りなのだが、エクスカリバーのそれは一味違った。

 その回転切りに、『魔力斬撃』という魔力の斬撃を飛ばす技術が合わさる。

 360度に飛ぶ斬撃が生まれ、囲っていた魔物を軒並み真っ二つにしたのだ。

 

 これで、残りの魔物は少数。

 エクスカリバーは色んな所に加勢する。

 そうしていればしばらくの後、バジリスクとコカトリスの群れを無事狩り尽くしたのだ。

 

「掃討終了!掃討終了!」

 

 ウィンが残敵の居ない事を確認し、この場に居る近衛兵と冒険者に通達した。

 ウィンはこの近衛兵と冒険者の集団を纏める役、臨時指揮官を担っている。

 指揮官と言っても、冒険者にまでは指示を飛ばしていないが。

 そも、そんな事をすれば反感を抱く冒険者も居る。

 だから冒険者たちへは、先程のような号令だけに留められていた。

 それ故、近衛兵はウィンに前で整列を始めるが、冒険者は各々休んでいる。

 

「お疲れ様です、勇者様!」

 

 そんな中、エクスカリバーが聖剣を収めた事によって主導権が帰ってきていた俺の下に、カウが駆け寄ってきた。

 一応、サーヴァンがカウの後ろに控えている。

 

「そっちも。お疲れ様、カウ」

「見てください、勇者様!首飾り、ちゃんと壊さず持ち続けてます!」

 

 以前俺が上げた認識票の首飾りを、カウは誇らしげに掲げた。

 確かに、その首飾りは浅く汚れているが、目立った破損はない。

 

「俺との約束をちゃんと守ってくれてるんだな。ありがとう。君が無理しないでいてくれて、俺はとても嬉しいよ。今後も、無理はしないでくれ」

「はい!無理しません!」

 

 俺が微笑みかけながら約束を更新すれば、カウは素直に元気よく頷いた。

 実に微笑ましい姿だ。サーヴァンも暖かい眼差しを向けている。

 

 そんな穏やかな空間に、誰かが割り込んでくる。

 

「勇者様!」

 

 俺の呼び方のせいでかなり紛らわしいが、そう声をかけて割り込んできたのは、カウの姉にして近衛兵であるベアウだった。

 

(今地味に姉っつったが、男だからな)

 

 俺が女の子と信じればベアウは女の子だ。

 

(頭の病気は手遅れみてぇだな)

 

 悲しきかな、エクスカリバーとは理解し合えない。

 よって無視する。

 

「ベアウお兄様!」

 

 兄が近付いてくれば、自然、妹であるカウは兄の名を呼び、この空間に迎え入れる。

 

(今『兄』って、ベアウを男って認識したよな)

 

 しつこいぞ。その話は終わっている。

 

「カウも、勇者様も、本日の作戦は終了です。掃討の目標数は達成しました」

 

 ベアウはまず事務的な応対から入った。

 どうやら近衛兵たちは、冒険者にそれぞれ依頼終了の旨を連絡しているようだ。

 他の冒険者へと話しかけている近衛兵の姿がある。

 

「今日はここまでか。明日はあるのか?」

「依頼は出さないと思います。ここから先は、近衛兵の仕事なので」

 

 今回の掃討で冒険者の仕事は終わりだそうだ。

 もう充分魔物は狩られ、近衛兵だけで手が足りる数まで減らせた訳か。

 

「観光客の護衛依頼とかは出ないのか?」

「それは個人依頼になるでしょうから、私はなんとも……」

 

 公的に護衛は雇わない、という事だろう。

 改めて考えれば、当然の話だ。

 その護衛にもしも不備があれば、責任は公的に雇った近衛兵に背負わされる。

 そこまでの責任は、誰だって負いたくない。

 

「でも、そういう個人依頼はこの時期多くなるそうです」

 

 やはり、そういう傾向はあるようだ。

 近衛兵が街道を巡回するとは言え、もっと確実な安全を金で買いたい者は居るのである。

 

「と、噂をしたから影が差したな」

 

 チューオ領の方から、冒険者に囲まれた馬車が走ってくる。

 本当にドラクルまでの観光で護衛を雇う者が居る証拠が、目の前にやってきたのだ。

 観光に来たのはどこの金持ちかと、俺は馬車を注視した。

 金持ちは己の存在を誇示するべき、己の象徴を飾る。

 その象徴で判別してやろうとしたのだが、注視するまでもなかった。

 何故ならその馬車は、俺たちの傍で停車したからだ。

 おまけに、その象徴は恐ろしく知名度が高いものだったのである。

 

「パローナ教皇の紋章……?まさか、あの馬車に乗ってるのは……!」

 

 俺が馬車の主を察して瞠目する最中、その馬車の扉が、開こうとしていた。

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