100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
教皇の凶行に付き合う事数日。
俺は無事にドラクルへと辿り着いた。
この道中、エクラタント教皇に同室での宿泊を誘われたり、馬車内で舌を這わせかけられたりと色々あったが、無事だったのだ。
あの猛烈に迫ってくる教皇と一緒に居ての無事は、ちょっとした奇跡なのではないかと疑ってしまう。
とにかく、ドラクルの城門を潜ったところでエクラタントとは別れ、一旦王宮の自室へと向かった。
バーニン王から何か話があれば、そこへすぐに使いを寄越すだろうと考えたからだ。
「テノール様、国王陛下が執務室にてお待ちです」
読み通り、自室に着いた瞬間、使いが寄越されて呼び出された。
ドラクルに帰ってきたばかりだが、国王に逆らえる訳もない俺は、素直に国王の執務室に足を運ぶのだった。
「勇者テノールよ。依頼からの帰還後、即座に馳せ参じてくれた事を感謝する。そして、エクラタント教皇の対応に努めてくれた事は、感謝が尽きない」
エクラタントに俺が拉致された事、バーニン王は既に知り得ていたようだ。
近衛兵であるウィンとベアウがその現場を目撃しているのだから、報告が上がっていても不思議ではないか。
「勿体ないお言葉です。俺はただ、エクラタント教皇猊下と楽しくお喋りしていただけでしたから。何も努めてはおりません」
俺は本心から謙遜した。
だって、本当に世間話を軽くしただけだ。
俺は何も頑張っていないし、苦労していないのである。
(そりゃ苦労もねぇわな。美人に抱きしめられて役得だったもんな)
役得だった事は肯定したいが、エクスカリバーの言葉に肯定するのは癪だ。
なので無視しておく。
「貴公の広い心には、頭が下がる思いだ。貴公はこの事を功績とせぬだろうが、余は貴公の成した事を覚えておこう。其方のおかげで、教皇は随分と機嫌が良い」
謙遜してなお、バーニン王は俺の功績であると押し切った。
それ程、エクラタントを警戒していたのだろうか。
理解できなくはない。
あの教皇が不機嫌だった時、何を仕出かすか予想もできないのだから。
「お褒めに
功績は功績でも、小さな成果で得られる褒賞など高が知れる。
なので、俺は今回の褒賞が次の分に上乗せされるよう、受け取らない方針に決めた。
故に、丁重にお断りさせていただいている。
「そう急くな。この場は貴公に賜す土地の候補が纏まった事と、建国記念祭での行事が決まった事を報告する場だ」
バーニン王は土地の一覧表を記した紙と、行事の予定表を記した紙をこちらに差し出した。
土地の方は後で吟味するとして、重要なのは予定表の方。
俺が主役を任される行事がなんなのか、その予定表を読み進めていく。
「……武闘会、ですか?」
「そうだ」
例年にない行事があったため、それかと口に出してみれば、見事当たりを引いたらしい。
バーニン王は頷き、その詳細を説明する。
「参加資格はなく、腕に覚えがある者を広く募るつもりだ。その参加者たちで勝ち抜き戦をしてもらい、優勝者は賞金及び勇者と戦える権利が得られる」
なるほど。選定の義に取って代われるかは怪しいが、面白い試みではある。
何しろ、この武闘会は強者を見出せるのだ。
「将来性のある者、元々の実力者。その者たちを近衛兵、ないし何らかの予備戦力として確保できますね」
「強者を国家戦力に組み込むかは、まだ検討中だ」
やはり、バーニン王はそこまで思慮が至っていたらしい。
『検討中』というのは、確保した強者の所属する部署が準備できていないからだろう。
魔術師なら2番隊に所属させられるが、剣士などの近接戦闘を主とする者では、貴族でないと1番隊に所属させられない。
所属させても、セイザーが難癖付けて追い出すのだ。
国王の権力でセイザーの難癖をはね退けてしまえるのに、バーニン王はそうしない。
「とりあえず、俺は優勝賞品として戦えば良いのですね」
「貴公の役目を明確にすべく、王命を降そう。勇者テノールよ、この武闘会の優勝者と勝負せよ」
国王の考えを分析するのもそこそこに、俺は俺の役割をしっかり言及すれば、バーニン王は分かりやすく明言してくれた。
王命という事は、これも褒賞が出る。
しかし、俺には多少懸念があるのだ。
「拝命いたします。ですが、大丈夫なのでしょうか。俺、おそらく負けますよ?」
そう。俺は魔物や悪人以外に本気を出せない。もとい、エクスカリバーが力を貸してくれない。
そういう弱点があるために、俺は負ける。確実に負ける。
ただでさえ勝ち抜き戦で勝ち上がってきた相手だ。俺が適うはずはない。
(後ろ向きな自信だな)
何か言いたい事があるなら力を貸せ。
(絶対に嫌だね)
だろうな。期待してない。
「その点は大丈夫だ。貴公がこの手の戦いで本気を出せないのは周知の事実。国の威信を考慮してくれたのだろうが、貴公の心優しい姿こそ、我が国の威信となる」
相変わらず、俺が躊躇してるために本気を出せないって話になってるが、都合が良いので訂正しない。
「了解しました。では、憂いなく務めを果たさせていただきます」
「そうせよ。……用件は以上だ。退出を許可する」
バーニン王から聞くべき事は聞き終えた。
俺はバーニン王の許可に促されるまま、執務室から退出するのだった。