100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「武闘会ですかい。そりゃあ面白そうですなぁ、旦那ぁ」
高級な食事処。
場の高級さに似つかわしくない、どこか粗暴で無精髭を生やした男が、同じ卓を囲む2人へと歓談に興じていた。
話題はラビリンシア建国記念祭の行事、武闘会について。
この男、腕に覚えがある部類であり、興味があるのだ。
「『旦那』やなくて、奥様と呼びぃや。それかせめて頭にしよな、サコン」
「つってもなぁ、旦那ぁ。アンタはなんか、女として扱っちゃいけねぇと、俺の勘が囁くんでさぁ。なんでかねぇ」
『旦那』と呼ばれていた人物、クミホはその呼称に苦言を呈した。
しかし、粗暴さのある男、サコンは、その苦言を受け入れなかったのだ。
サコンは本心から、自身の直感に小首を傾げていた。
対するクミホは苦笑を浮かべてしまう。こいつは無駄なところで勘が鋭いと。
ただ、それをクミホが明言する事はない。
明かしたとしても、何か変わる真実ではないのだ。
「ま、ええわ。今に始まった事やないし」
という訳で、クミホはその事について早急に切り上げた。
「武闘会な。参加してもええよ、サコン」
「お、旦那ぁ。話が分かってますなぁ。許しがいただけたって事で、俺は遠慮なく参加させてもらいやすよぉ」
願い出る事もなく武闘会参加の許可が得られ、サコンは不敵な笑みを浮かべた。
強者たちと腕を競える事に、サコンは喜んでいるのだ。
クミホはサコンの好戦的なきらいを少し憂いつつ、どこまで勝ち上がれるものか、観客気分で楽しもうとしていた。
そんな、他国の行事を堪能しようという2人とは違い、ミギチカは真面目な顔で抗議の視線を指していた。
対象はサコンにだけだが。
と言っても、護衛として不真面目な事を抗議されるのはサコンにとって毎度の事だ。
応じてもお小言を貰うだけ。故にサコンは全く取り合わない。
独特ではあるが、クミホらとして日常の雰囲気を醸し出していた。
そんな雰囲気に、非日常が紛れ込む。
「失礼します。相席の方、よろしいですか?」
クミホらの卓に、女性が声をかけたのだ。
「ん?席はぎょうさん空いてはるやろ。なんでウチらに混ざろうて……―――って、なんや。あんさんか」
客を待たさぬよう、多くの席を用意している店の心構えを無視した女性。
そんな女性に不審さを感じて目をやれば、そこにはクミホの知る女性が立っていた。
「エクラタントはん。こないな所で会うなんて、奇遇やなぁ」
「ええ。奇遇ですね、クミホ」
クミホの知る女性とは、パローナ教皇、エクラタントだったのである。
お互い古い知人との再会に笑みを漏らし、その瞳の奥に警戒心を秘めた。
古い知人と言えど、相手は1つの国を治める者。両者ともに油断できない。
「同席してかまへんよ。そっちの護衛さんも、座ぃや」
クミホの促しに従い、ミギチカとサコンが自然と詰めて空いた空間に、エクラタントとひっそり控えていたコーメスタが椅子を滑り込ませる。
こうして、途端に
「クミホ。貴女が巣から出てきたという事は、そろそろ門を開くのですか?」
「そうや。皆の調整は済んでん。経過も良好。ならもう交流しよっちな」
ラビリンシアにジパング帝王が居る事から、エクラタントはクミホの意図を読んだ。
クミホは読まれた意図を隠さず、素直に肯定している。
「ファーリーの調整が済んだから、ですか……」
エクラタントは眉を顰めた。
クミホの行いを知っており、エクラタントはその行いに幾ばくかの反感を覚えている。
だが、今掘り下げるべきはそれではない。
「……本当にそれだけですか?」
1000年の鎖国、それ以前からの秘匿が、ついに解かれるのだ。
そこにもっと深い事情があるだろうと、エクラタントは見通した。
その深い事情を聞こうと、エクラタントはクミホを睨みつける。
「そない慌てんでも大丈夫や。変な企てはしとらんし、開国を周知させた後にその事情も発表するさかい」
「……ここでは話せないと」
「勿体ぶらせてぇな。面白い事情やから」
エクラタントの睨みを、クミホは涼しい顔で受け流していく。
これ以上は徒労になる事を察し、エクラタントは早々に探る意識を収めた。
でも、ここでただの徒労にさせないのが国を背負う者である。
「なら、開国を周知させるのに良い機会を設けてあげましょうか?」
「……あんや、あんさん。そっちの方が変に企ててるやないの」
エクラタントが悪い笑みになり、クミホは鏡のように悪い笑みを映し返した。
面白くなりそうな予感に、クミホは期待している。
「悪事ではありませんよ。ただ、私も含め、ミナ・ミヌエーラ双王やパンデモニウム天皇がこのラビリンシアで一堂に会するかもしれないのです」
「……そこに連れてってくれるっちゅう事?」
「そういう事です」
強国の
そこで開国を宣言できるのであれば、一気に周知されるだろう。
クミホにとって恐ろしい程都合が良く、エクラタントの提案に乗らない手はなかった。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」
だからこそ、クミホはエクラタントの手を迷わず取ったのだ。
「貸し1つですよ?」
「利息付けて返したるわ」
貸しとなるのは織り込み済み。
むしろ、この貸し借りでパローナとの交流する糸口が早くも手に入った。
クミホに全く損はない。エクラタントにも損はない。
共に得する有意義な話し合いが、ラビリンシアの高級な食事処でなされたのだった。