100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十四節 冷血なる偉人

 王都の至る所に装飾がされ、次第に祭の色へと彩られていく。

 そんな中、俺は王立図書館で本を読み漁っていた。

 以前から行っている勇者アルト伝説の調査をしていた訳だが、その意味合いは若干変わっている。

 当時を生きていた双王らとした会話の節々から、勇者アルト伝説がほぼ真実である事は分かったのだ。

 だから、調査すべきはもう伝説の真贋でない。

 聖剣カリバーン、勇者アルトが本来持っていた剣についてだ。

 結局聖剣カリバーンが実在して、その行方はどこなのか。それを俺は調査している。

 

(……どの文献にも、『カリバーン』の字が出てこないな)

 

 しかし、その調査は進捗が芳しくなかった。

 聖剣カリバーンと明記した書物が、一切ないのである。

 

(……丹念に聖剣カリバーンへの糸口を潰しているのか)

 

 あまりにも情報がないので、俺は情報隠蔽が計られている事を疑った。

 それもそうだろう。聖剣カリバーンは、ラビリンシア王族が隠したかった剣だ。

 王族主導で情報が消されていると考えるのが妥当である。

 

(駄目だな、これは。個人で調査できる領域じゃない)

 

 これ以上の調査は無駄だと判断し、書物の片づけに取り掛かった。

 

(……ん?)

 

 片付けの最中、俺はとある本が目に留める。

 その本は、『英雄名鑑』という題名だった。

 非常に俗と言うか、雑と言うか。とにかく、題名からして安っぽい本だ。

 

(……賢王ヘクトの文献から、聖剣カリバーンについて調査できるか?もしくは、勇者アルトと関わりのある偉人たちとかから)

 

 勇者アルトにまつわる書物でなければ、もしかしたら隠蔽に抜けがあるかもしれない。

 そういう期待を込め、まずは勇者アルトに関わりのある偉人から洗い出しにかかる。

 丁度良いだろうと、『英雄名鑑』を手に取って(めく)った。

 目次も引かずに(めく)ったものだから、俺が知らない偉人の(ページ)が当然開かれる。

 

(……ラビリンシア建国以前、ドラクルを中心にした国ポナー。そこを治めていた女王、エリー・ポナー・ドラクルか)

 

 俺の知らない偉人ではあるが、俺はなんとなく興味が惹かれた。

 

(……『ドラクル』と名にあるが、ラビリンシア王家と血縁関係はないみたいだな)

 

 頁に記された浅い情報で、勇者アルトの親戚ではない事を読み取った。

 個人名、治める国、治める地域という並びで名前を構成する、王族にありがちな名付け。

 エリー女王もその名付けなのだろう。

 つまりは、エリー・ポナー・ドラクルも、バーニン・ラビリンシア・ドラクルも、ドラクルと言う地域を直接治めていただけなのである。

 

(……勇者アルトに取って代わられる直前までポナー、後にラビリンシアの一部となる地域を治めていた、か。とすると、勇者アルトと一戦交えた可能性があるな)

 

 ラビリンシアの建国は、多くの者が賛同してなされた、実に民主的な建国だったとされている。

 だが、相手に多くの賛同者が居たからといって、その地域を元々治めていた王が素直に統治権を渡すだろうか。

 統治権を譲り受けるために、何らかの戦いがあったのではないか。

 そう推測した俺は、エリー・ポナー・ドラクルに関する書物をかき集めた。

 その書物を読み解く。

 

(……エリー女王配下の反逆。それによる暗殺か)

 

 残念ながら、推測は外れた。

 勇者アルトが直接手を下すまでもなく、エリー女王は崩御。ポナー王国は勝手に崩壊していたのだ。

 

(反逆の原因は、その厳しい統治体制のせいみたいだな)

 

 エリー女王は厳しい法律を施工し、違反者には厳罰を降していた事が、あらゆる関連書物に記されている。

 おまけに、怠惰な貴族に対する粛清も度々やっていたようだ。

 そんな冷徹な統治では、民衆も貴族も不満や恐怖をさぞ溜めただろう。

 そして、そこに現れたのが優しい王様、人類を守る者。勇者アルトである。

 誰もがそちらに乗り換えたくなる。俺だって乗り換える。

 故に、勇者アルトに乗り換えようと、エリー女王の統治に我慢できなくなった彼女の配下が、彼女を暗殺したのだ。

 少なくとも、俺はそのように解釈した。

 人間とは、得てしてそういう打算的な生き物だ。

 

(……どこで殺されたかは、記録が曖昧だな)

 

 寝室で寝首をかかれたとか、入浴中に刺されたとか、反逆からの逃走中に街道で射抜かれたとか。

 他にも様々な場所で殺された事が記録されており、正しい記録がどれだか判然としない。

 

(1000年以上前の記録だし、己の手柄にしようと嘘吐いた奴がたくさん居たんだろうな……)

 

 記録の曖昧さは、経過した年月での情報摩耗と、当時の多数虚偽報告に起因するモノか。

 そうなるのは仕方のない事だ。

 長い年月は当事者を老衰で死なせたり、記憶を脚色させたりする。

 昔の事を正確に覚えていられる者など、極少数だ。

 虚偽の報告も仕方がない。

 新たなる王へ取り入るなら、かつての王を打倒した事は恰好(かっこう)の材料となる。

 勇者アルトに取り入って成り上がるために、(こぞ)ってその材料を得ようとしたのだ。

 

(……仕方ないし、分かりもするが。……エリー女王、こんな美人だったのか)

 

 ある書物に乗せられていた、エリー女王の写実的な肖像画。

 とても固い雰囲気ではあるが、陶器のように白い肌を備えた美人の姿が描かれている。

 

(勿体ないな。血が継がれていれば、子孫も美人だったろうに……)

(お前は結局、女の顔しか見ねぇのか)

 

 厳しくはあるが、悪を許さぬ統治者の絶家に哀悼を捧げる俺。

 そんな俺に、エクスカリバーはやっかみを投げかけるのだった。

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