100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
王都の至る所に装飾がされ、次第に祭の色へと彩られていく。
そんな中、俺は王立図書館で本を読み漁っていた。
以前から行っている勇者アルト伝説の調査をしていた訳だが、その意味合いは若干変わっている。
当時を生きていた双王らとした会話の節々から、勇者アルト伝説がほぼ真実である事は分かったのだ。
だから、調査すべきはもう伝説の真贋でない。
聖剣カリバーン、勇者アルトが本来持っていた剣についてだ。
結局聖剣カリバーンが実在して、その行方はどこなのか。それを俺は調査している。
(……どの文献にも、『カリバーン』の字が出てこないな)
しかし、その調査は進捗が芳しくなかった。
聖剣カリバーンと明記した書物が、一切ないのである。
(……丹念に聖剣カリバーンへの糸口を潰しているのか)
あまりにも情報がないので、俺は情報隠蔽が計られている事を疑った。
それもそうだろう。聖剣カリバーンは、ラビリンシア王族が隠したかった剣だ。
王族主導で情報が消されていると考えるのが妥当である。
(駄目だな、これは。個人で調査できる領域じゃない)
これ以上の調査は無駄だと判断し、書物の片づけに取り掛かった。
(……ん?)
片付けの最中、俺はとある本が目に留める。
その本は、『英雄名鑑』という題名だった。
非常に俗と言うか、雑と言うか。とにかく、題名からして安っぽい本だ。
(……賢王ヘクトの文献から、聖剣カリバーンについて調査できるか?もしくは、勇者アルトと関わりのある偉人たちとかから)
勇者アルトにまつわる書物でなければ、もしかしたら隠蔽に抜けがあるかもしれない。
そういう期待を込め、まずは勇者アルトに関わりのある偉人から洗い出しにかかる。
丁度良いだろうと、『英雄名鑑』を手に取って
目次も引かずに
(……ラビリンシア建国以前、ドラクルを中心にした国ポナー。そこを治めていた女王、エリー・ポナー・ドラクルか)
俺の知らない偉人ではあるが、俺はなんとなく興味が惹かれた。
(……『ドラクル』と名にあるが、ラビリンシア王家と血縁関係はないみたいだな)
頁に記された浅い情報で、勇者アルトの親戚ではない事を読み取った。
個人名、治める国、治める地域という並びで名前を構成する、王族にありがちな名付け。
エリー女王もその名付けなのだろう。
つまりは、エリー・ポナー・ドラクルも、バーニン・ラビリンシア・ドラクルも、ドラクルと言う地域を直接治めていただけなのである。
(……勇者アルトに取って代わられる直前までポナー、後にラビリンシアの一部となる地域を治めていた、か。とすると、勇者アルトと一戦交えた可能性があるな)
ラビリンシアの建国は、多くの者が賛同してなされた、実に民主的な建国だったとされている。
だが、相手に多くの賛同者が居たからといって、その地域を元々治めていた王が素直に統治権を渡すだろうか。
統治権を譲り受けるために、何らかの戦いがあったのではないか。
そう推測した俺は、エリー・ポナー・ドラクルに関する書物をかき集めた。
その書物を読み解く。
(……エリー女王配下の反逆。それによる暗殺か)
残念ながら、推測は外れた。
勇者アルトが直接手を下すまでもなく、エリー女王は崩御。ポナー王国は勝手に崩壊していたのだ。
(反逆の原因は、その厳しい統治体制のせいみたいだな)
エリー女王は厳しい法律を施工し、違反者には厳罰を降していた事が、あらゆる関連書物に記されている。
おまけに、怠惰な貴族に対する粛清も度々やっていたようだ。
そんな冷徹な統治では、民衆も貴族も不満や恐怖をさぞ溜めただろう。
そして、そこに現れたのが優しい王様、人類を守る者。勇者アルトである。
誰もがそちらに乗り換えたくなる。俺だって乗り換える。
故に、勇者アルトに乗り換えようと、エリー女王の統治に我慢できなくなった彼女の配下が、彼女を暗殺したのだ。
少なくとも、俺はそのように解釈した。
人間とは、得てしてそういう打算的な生き物だ。
(……どこで殺されたかは、記録が曖昧だな)
寝室で寝首をかかれたとか、入浴中に刺されたとか、反逆からの逃走中に街道で射抜かれたとか。
他にも様々な場所で殺された事が記録されており、正しい記録がどれだか判然としない。
(1000年以上前の記録だし、己の手柄にしようと嘘吐いた奴がたくさん居たんだろうな……)
記録の曖昧さは、経過した年月での情報摩耗と、当時の多数虚偽報告に起因するモノか。
そうなるのは仕方のない事だ。
長い年月は当事者を老衰で死なせたり、記憶を脚色させたりする。
昔の事を正確に覚えていられる者など、極少数だ。
虚偽の報告も仕方がない。
新たなる王へ取り入るなら、かつての王を打倒した事は
勇者アルトに取り入って成り上がるために、
(……仕方ないし、分かりもするが。……エリー女王、こんな美人だったのか)
ある書物に乗せられていた、エリー女王の写実的な肖像画。
とても固い雰囲気ではあるが、陶器のように白い肌を備えた美人の姿が描かれている。
(勿体ないな。血が継がれていれば、子孫も美人だったろうに……)
(お前は結局、女の顔しか見ねぇのか)
厳しくはあるが、悪を許さぬ統治者の絶家に哀悼を捧げる俺。
そんな俺に、エクスカリバーはやっかみを投げかけるのだった。