100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十五節 行き過ぎた正義

 時間は昼頃。腹が空いてきたという事で、俺は調査を切り上げ、食事にありつこうと都に繰り出していた。

 記念祭がすぐそこまで迫ってきているのもあり、道は普段より人通りが多い。

 今回の祭には武闘会があるためか、特に冒険者をよく見かける。

 そこそこの人数が武闘会に参加しそうだ。

 

(武闘会の会場、どうするんだろうな……。観客も入れるとなると、かなりの大きさが必要そうだが、ドラクルでそんな会場はあったか……?)

 

 近衛兵一番隊隊舎の訓練場なら、大会参加者が戦うには充分な広さがある。

 しかし、観客が入る場所がない。そのため、武闘会の会場には相応しくない。

 

(会場を急遽作るって噂も聞くが、間に合うか?)

 

 先程も言ったが、会場はかなりの大きさが必要になる。

 都の建築家をかき集めたところで、会場を作る時間はないだろう。

 

(ま、そういうのをどうにかするのは、王や貴族の仕事だ。俺には関係ないな)

 

 会場建築を間に合わせる方法が浮かばないし、俺の仕事でもないので、俺は考えるのを止めた。

 こういう時くらい、政治や思考労働を務めとする貴族に働いてもらわねば、貴族は国民の税に(たか)(はえ)になり下がる。

 

 そうして俺は憂いなく、繁華街へと足を向けた。

 そんな時だ。

 

「お、お前!なんのつもりだ!」

 

 人混みの方より、騒ぎの声が聞こえてきた。

 叫びあげたのは男だが、その周辺もざわついている。

 冒険者が多いから、粗暴な奴らが一悶着起こしたのだろうか。

 喧嘩でも起こっていたら、勇者として無視するのは(まず)い。

 非常に面倒ではあるが、俺は勇者然とするべく、声の方に足を進める。

 

「い、いきなり槍を突き付けるってのは、どういう了見だ!」

「貴様の愚かを、私手ずから裁いてやろうと言うのだ」

 

 騒ぎの現場に辿り着けば、喧嘩どころではなかった。

 軽装の男性冒険者を、鎧で完全武装した者が構える槍の先で差している。

 今にも槍で男性冒険者を貫きそうな、明確な敵意を露にしていたのだ。

 

「愚かだって?ただ仲間の失敗を叱っていただけだろうが!俺のどこが愚かだって言うんだよ!」

「阿呆が。貴様の叱責に正当性は皆無。ただ怒りを発散したいがために、女性へ手を上げていた。相手が仲間だから、などという言い訳は通り得ぬ。故に、愚かな貴様は裁かねばならぬ」

 

 男性冒険者の反論を受け、鎧を纏った者の敵意はより濃くなり、昇華した。

 敵意は、殺意へと昇華したのだ。

 鎧を纏った者はおもむろに槍を引き、携える手に力を込めた。

 明らかに、攻撃する準備である。

 

(エクスカリバー!)

(分かってる!)

 

 俺はすぐに聖剣の柄を握り、エクスカリバーはその意図を読み取った。

 体の主導権は一瞬で切り替わり、俺の体は駆ける。

 

「さらばだ、()れ者」

 

 人目の多い場所で攻撃してくるとは考えなかったのか、軽装の男性冒険者は臨戦態勢に入っておらず、防御は間に合いそうにない。

 だから、エクスカリバーが割り込んだ。

 槍は聖剣によって行き先を逸らされ、空を切る。

 

「ぬっ!?……貴様は、勇者か」

「ご存知いただけて嬉しいですが、それより。こんな場で喧嘩は控えてください。刃傷沙汰ならなおさらです。いえ、どんな場でも刃傷沙汰は控えてほしいですが」

 

 急な割り込みに鎧を纏った者は、目を見開く程の驚愕をしていた。

 生憎、兜まで被っているので表情は窺えないし、おそらく驚愕からもう立ち直っているだろう。

 

「その痴れ者を何故助ける。勇者とは、悪を裁く者ではないのか?」

「オレは巨悪を裁く者です。無闇に正義を振りかざし、人を傷つける者ではありません」

 

 鎧を纏った者に存在意義を問われたが、エクスカリバーは上手く反論しつつ、さらには相手を皮肉っていた。

 仲間である女性と揉めたなんて、余程の仕打ちでもない限り、その罪は軽い。

 なのに、死刑を罰とした鎧を纏った者は、まさに無闇に正義を振りかざす者である。

 

「罪には厳罰を以て処さねばならない」

「罰を決めるのは法です。人ではない。独自の裁量権を持つオレでも、適切な処断でなければ勇者の箔を失い、ただの人殺しとなるでしょう」

 

 あくまでも独善的に刃を振るおうとする鎧を纏った者。

 そんな相手に、エクスリバーは法治の理を説こうとした。

 こういう手合いには意味がなさそうだが。

 

(ぬる)い。愚者には二度と罪を犯さぬよう、厳罰を与えるのだ」

 

 やはり、意味がなかった。

 鎧を纏った者は、どこまでも己の正義に酔い、他人の言葉に聞く耳を持たない。

 

(こいつ、切り伏せてぇな)

(お前は一言前に言った事も覚えられんのか)

 

 『適切な処断』云々吐いていたエクスカリバーは、面倒臭くなったのか暴力で訴えかけようとしていた。

 気持ちは分からなくないが止めて欲しい。

 

(じゃあどうすんだよ。こいつ、マジでちょっと痛い目に遭わせないとどうにもなんねぇぞ?)

(そう、だな……。どうしたもんか……)

 

 エクスカリバーの意見に正しさを感じ、俺までその意見に同調しかけた。

 あわや暴力による解決の方向で舵が切られそうになったところで、この状況を治めてくれそうな者たちが現れる。

 

「近衛兵です!両者ともに武器を収めてください!」

 

 ドラクルを巡回警備していた近衛兵、ウィンと以下数名が駆け付けてくれたのだ。

 これで問題は無事解決となるだろう。

 

「……ラビリンシアの犬か。くだらん」

 

 近衛兵に囲まれた鎧を纏った者は、近衛兵に罵倒を吐き捨てた後、跳び上がった。

 それも、周りの建物より高く、重そうな鎧を纏ったままでだ。

 そうして建物の屋根に跳び移る。

 

「待て!」

「待つ奴がおるか、愚か者」

 

 ウィンの制止にも耳を傾けず、鎧を纏った者は建物の影に消えていった。

 ウィンも追うようにして屋根に跳び乗ったが、下手人を探す目はさまようばかり。

 どうやら、見失ったようだ。

 

「……勇者テノール。顛末を聴き取りしても良いですか?」

 

 捕り逃した事を悔やみ、苦い顔をするウィン。

 彼はせめて最低限の務めを果たそうと、鎧を纏った者の素性を暴こうとしていた。

 俺も鎧を纏った者の捕縛を望んだため、素直に聴き取りへ応じるのだった。

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