100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
時間は昼頃。腹が空いてきたという事で、俺は調査を切り上げ、食事にありつこうと都に繰り出していた。
記念祭がすぐそこまで迫ってきているのもあり、道は普段より人通りが多い。
今回の祭には武闘会があるためか、特に冒険者をよく見かける。
そこそこの人数が武闘会に参加しそうだ。
(武闘会の会場、どうするんだろうな……。観客も入れるとなると、かなりの大きさが必要そうだが、ドラクルでそんな会場はあったか……?)
近衛兵一番隊隊舎の訓練場なら、大会参加者が戦うには充分な広さがある。
しかし、観客が入る場所がない。そのため、武闘会の会場には相応しくない。
(会場を急遽作るって噂も聞くが、間に合うか?)
先程も言ったが、会場はかなりの大きさが必要になる。
都の建築家をかき集めたところで、会場を作る時間はないだろう。
(ま、そういうのをどうにかするのは、王や貴族の仕事だ。俺には関係ないな)
会場建築を間に合わせる方法が浮かばないし、俺の仕事でもないので、俺は考えるのを止めた。
こういう時くらい、政治や思考労働を務めとする貴族に働いてもらわねば、貴族は国民の税に
そうして俺は憂いなく、繁華街へと足を向けた。
そんな時だ。
「お、お前!なんのつもりだ!」
人混みの方より、騒ぎの声が聞こえてきた。
叫びあげたのは男だが、その周辺もざわついている。
冒険者が多いから、粗暴な奴らが一悶着起こしたのだろうか。
喧嘩でも起こっていたら、勇者として無視するのは
非常に面倒ではあるが、俺は勇者然とするべく、声の方に足を進める。
「い、いきなり槍を突き付けるってのは、どういう了見だ!」
「貴様の愚かを、私手ずから裁いてやろうと言うのだ」
騒ぎの現場に辿り着けば、喧嘩どころではなかった。
軽装の男性冒険者を、鎧で完全武装した者が構える槍の先で差している。
今にも槍で男性冒険者を貫きそうな、明確な敵意を露にしていたのだ。
「愚かだって?ただ仲間の失敗を叱っていただけだろうが!俺のどこが愚かだって言うんだよ!」
「阿呆が。貴様の叱責に正当性は皆無。ただ怒りを発散したいがために、女性へ手を上げていた。相手が仲間だから、などという言い訳は通り得ぬ。故に、愚かな貴様は裁かねばならぬ」
男性冒険者の反論を受け、鎧を纏った者の敵意はより濃くなり、昇華した。
敵意は、殺意へと昇華したのだ。
鎧を纏った者はおもむろに槍を引き、携える手に力を込めた。
明らかに、攻撃する準備である。
(エクスカリバー!)
(分かってる!)
俺はすぐに聖剣の柄を握り、エクスカリバーはその意図を読み取った。
体の主導権は一瞬で切り替わり、俺の体は駆ける。
「さらばだ、
人目の多い場所で攻撃してくるとは考えなかったのか、軽装の男性冒険者は臨戦態勢に入っておらず、防御は間に合いそうにない。
だから、エクスカリバーが割り込んだ。
槍は聖剣によって行き先を逸らされ、空を切る。
「ぬっ!?……貴様は、勇者か」
「ご存知いただけて嬉しいですが、それより。こんな場で喧嘩は控えてください。刃傷沙汰ならなおさらです。いえ、どんな場でも刃傷沙汰は控えてほしいですが」
急な割り込みに鎧を纏った者は、目を見開く程の驚愕をしていた。
生憎、兜まで被っているので表情は窺えないし、おそらく驚愕からもう立ち直っているだろう。
「その痴れ者を何故助ける。勇者とは、悪を裁く者ではないのか?」
「オレは巨悪を裁く者です。無闇に正義を振りかざし、人を傷つける者ではありません」
鎧を纏った者に存在意義を問われたが、エクスカリバーは上手く反論しつつ、さらには相手を皮肉っていた。
仲間である女性と揉めたなんて、余程の仕打ちでもない限り、その罪は軽い。
なのに、死刑を罰とした鎧を纏った者は、まさに無闇に正義を振りかざす者である。
「罪には厳罰を以て処さねばならない」
「罰を決めるのは法です。人ではない。独自の裁量権を持つオレでも、適切な処断でなければ勇者の箔を失い、ただの人殺しとなるでしょう」
あくまでも独善的に刃を振るおうとする鎧を纏った者。
そんな相手に、エクスリバーは法治の理を説こうとした。
こういう手合いには意味がなさそうだが。
「
やはり、意味がなかった。
鎧を纏った者は、どこまでも己の正義に酔い、他人の言葉に聞く耳を持たない。
(こいつ、切り伏せてぇな)
(お前は一言前に言った事も覚えられんのか)
『適切な処断』云々吐いていたエクスカリバーは、面倒臭くなったのか暴力で訴えかけようとしていた。
気持ちは分からなくないが止めて欲しい。
(じゃあどうすんだよ。こいつ、マジでちょっと痛い目に遭わせないとどうにもなんねぇぞ?)
(そう、だな……。どうしたもんか……)
エクスカリバーの意見に正しさを感じ、俺までその意見に同調しかけた。
あわや暴力による解決の方向で舵が切られそうになったところで、この状況を治めてくれそうな者たちが現れる。
「近衛兵です!両者ともに武器を収めてください!」
ドラクルを巡回警備していた近衛兵、ウィンと以下数名が駆け付けてくれたのだ。
これで問題は無事解決となるだろう。
「……ラビリンシアの犬か。くだらん」
近衛兵に囲まれた鎧を纏った者は、近衛兵に罵倒を吐き捨てた後、跳び上がった。
それも、周りの建物より高く、重そうな鎧を纏ったままでだ。
そうして建物の屋根に跳び移る。
「待て!」
「待つ奴がおるか、愚か者」
ウィンの制止にも耳を傾けず、鎧を纏った者は建物の影に消えていった。
ウィンも追うようにして屋根に跳び乗ったが、下手人を探す目はさまようばかり。
どうやら、見失ったようだ。
「……勇者テノール。顛末を聴き取りしても良いですか?」
捕り逃した事を悔やみ、苦い顔をするウィン。
彼はせめて最低限の務めを果たそうと、鎧を纏った者の素性を暴こうとしていた。
俺も鎧を纏った者の捕縛を望んだため、素直に聴き取りへ応じるのだった。