100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十七節 パフォーマンスとデモンストレーション

「第1001回、ラビリンシア王国建国祭の開催を、ここに宣言する」

 

 王宮のバルコニーより、バーニン王のその宣言が響いた。

 王宮前の広場に集まった者たちへ、拡声魔道具によってその宣言は届けられている。

 耳にまで届いた者たちから歓声が上がり、大通りに詰めかける者たちにまで伝播する。

 この日この時ばかりは、階級や職業を問わず、平民も貴族も熱に浮かされた。

 

 今日は記念すべき建国の日。誰しもが熱に浮かされる事を、許された日である。

 

 まずは最初の行事として、王族と勇者がそれぞれ馬車に乗り、都を巡る。

 乗る馬車は祭専用の物。国民たちに直接手を振れるよう、屋根のない豪奢な馬車だ。

 運転手は、バーニン王とルーフェ様の乗る方がパース、俺の乗る方がケイヴェである。

 そして、その徐行する馬車の周りを、近衛兵が囲んで行進する。

 近衛兵たちは護衛であるため、王族に多く割かれていた。

 当然と言えば当然であり、俺の護衛は少ない。

 でも、ベアウがこちらに居るので、俺としては満足だ。

 ランテやセイザーの護衛は心強いが、あんな無表情と不愛想に囲まれても嬉しくない。

 

(侍らすなら可愛い子だよな)

(ベアウは男だがな)

(ちゃんと女の子も居るだろうが!)

 

 近衛兵の中でも精鋭は王族の護衛に割かれているために、こっちに割かれるのは少しばかり実力が見劣りする兵隊たちである。

 それ故か、女性の割合が比較的高いのだ。

 

(比較的高いっつっても、王族囲ってるのと比べただけじゃねぇか。結局全体的な割合は少ねぇだろ。あと、『ベアウは男』ってのに『ちゃんと女の子も居る』って返したって事は、お前しっかりベアウが男だって認識してるだろ)

(エクスカリバー。最近、俺の癒しが少ないと思わないか?こう、正攻法と言うか、正常な方法と言うか。そういう、普通に慕って接してくれる女の子が居ないと思わないか……?)

(こいつ……、以前まで癒しだった王女様が普通じゃなかったから、別のところに癒しを求めだしてやがる……)

 

 長く俺と共に居るだけあって、エクスカリバーは俺の状態を理解してくれた。

 哀れみとも侮蔑とも付かない目をすごく向けてくるけど。

 純粋に慕ってくれる子を女の子だと思い込んで何が悪いんだ。

 俺がなんの懸念もなく癒されるのはここのところベアウしか居ないんだぞ。

 

(それだったらせめてカウかブレンダに癒しを求めろよ。なんで性別を詐称するなんて異常行動に走りやがる)

(カウは会う頻度が少ないし、冒険者だからあまり1ヵ所に留まらないから、俺から会いに行けないんだよ。ブレンダは傍に居て落ち着くが、癒しではない)

(……オレはつくづくブレンダの嬢ちゃんがかわいそうに思えるぜ)

 

 何故だかエクスカリバーがブレンダに同情しているが、お前に同情される方がよりかわいそうではないか。

 戦闘と俺への嫌がらせしか考えていない者。そんな者から同情心を引き出した事になるのだ。

 これ程惨めな事も多くないだろう。

 

(お前はなんつうか……。女が好きなくせに女を知らないっつうか……)

(誰が童貞だ)

(誰もそんな事言ってねぇよ。ああもう面倒臭ぇ。勝手にどうにかなれ)

 

 俺の何かを察知したようだが、言葉での表現が上手くできず、諦めたらしい。

 エクスカリバーは己の意思で思念体を聖剣へと引っ込めた。

 あいつはいったい何がしたかったのか。

 とかく、構わなくて良くなったのは有り難い。

 俺は祭り上げられる者の仕事に集中する。

 

(国民や観光客に笑顔で手を振るだけの仕事だがな)

 

 簡単な仕事に内心ほくそ笑みつつ、道中の美人に手を振っていく。

 ついでに仕方なく美人以外にも手を振っていく。

 勇者とは本当に、世間体が大事な役職だ。

 

 そうして俺は勇者らしく振る舞いながら、王都ドラクルを馬車で巡る。

 後は例年変わらぬ順路を辿るのみ。今年は王族だけの都巡りに俺が加わったとはいえ、順路が変わるはずもないだろう。

 そう浅慮な思考に陥っていた俺を、違和感が襲った。

 

(……なんで馬車が王都の外に進んでるんだ?)

 

 順路が例年と違ったのだ。

 都巡りに外へ行く工程はない。俺が記念祭に参加したのは去年だけだが、入念な下調べをしていたので、間違いないはずだ。

 では、今年だけ特別な何かがあるのか。

 思い当たるのは武闘会だが、会場が王都の外に建設されたなんて話、俺は聞いていない。

 

 外に行く理由に見当が付かないが、護衛の近衛兵が焦っている様子はない。

 パースが道を誤るとも考えづらい。

 ならば予定通りなのだろうと、俺は一旦不安を抑え、成り行きを静観する。

 

 馬車はそのまま東門を抜け、外へ。

 そこには、近衛兵3番隊が控えていた。

 馬車が隊の前で停まると、バーニン王が号令をかける。

 その号令を受け、3番隊と、それから2番隊もなんらかの魔術を行使した。

 どちらの隊員のものか、辺りに霧が立ち込める。

 視界が効かなくなるような濃い霧だ。

 その霧によって1メートルくらいの近距離しか見えなくなったところで、ダンジョンが急に発生する時と似た、地鳴りの音が鳴り、小さく地面が震えていた。

 次の瞬間、2番隊隊長であるトリスが魔術で突風を吹かせ、霧を払う。

 

「あ、あれは……!」

 

 開けた視界に、驚愕を禁じ得ない光景が映し出された。

 

「闘技場が、いつの間に!」

 

 さっきまでなかったはずの闘技場、武闘会の会場足りえる建設物が、突如として現れたのだった。

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