100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「第1回目となる武闘会に参加してくれた貴公らの気概に、余自ら感謝しよう」
突如現れた武闘会の会場。その舞台にて、バーニン王が武闘会の参加者へと言葉を贈っていた。
参加者は第1回であるのと、開催告知から間がなかったのとで、100人程度しか居ない。
逆に、そんな状態でよくも約100人集まったものだ。
種族も実に多種多様。ヒューマンは当然居るとして、ドワーフも居れば、なんとエルフも居る。
その他にも、魔物の参加者すら居るのだ。と言っても、人型に限定されるが。
魔物の国たるパンデモニウムでも、人型の魔物、少なくとも人型になれる魔物しか国民と認められていないらしい。
それで差別問題などがあるという話だが、それはここでする話ではないだろう。
王の後ろに控えていた俺が、気になったのは1つ。
(あの鎧、騒ぎを起こした奴と同じだよな)
鎧で完全武装した者が参加している事だ。
鎧の形が一致している事から、騒ぎを起こした者と同一人物なのは疑いようがない。
でも、結局あの者は罪に問われていないのである。
殺人未遂ではあるのだが、それで罪に問うとすると、冒険者、特に治安が悪い地域の冒険者を軒並み捕まえねばない。
冒険者とは、そういう良くも悪くも自由な者たちなのだ。
(と言っても、鎧のあの者は要注意人物として警戒されているが)
聴取により過激な思考を持つ人物と判明しており、治安の良い王都で、それも人目の多いところで殺人未遂を犯したのだ。
だいたいが無法者の冒険者、そんな中でも特に無法者であるとして、近衛兵は警戒している。
実際、バーニン王の護衛を務めるランテはさり気なく目をやり、セイザーなんかは睨んですらいる。
一応、同じく護衛を務めるトリスとパースは満遍なく警戒しているから、この警備態勢で大丈夫だろう。
そう信じたい。
「では、武闘会における規定を開示する。ランテ」
「はっ」
バーニン王が一頻り挨拶を終え、武闘会規定を開示する役であるランテと入れ替わる。
「規定を開示する。まず1つ、重傷を負わせる攻撃を禁ずる。2つ、劇毒の使用を禁ずる」
以上2つは安全面に関する規定。
あくまでこの場は武闘会。殺し合いの場ではなく、武を競う場なのだ。
念のため4番隊の医療班がすぐに動けるよう準備しているし、最高位回復薬も出し惜しまない事が事前に公表されている。
即死したり、猛毒に侵されないたりしない限りは、どうにかなるだろう。
「3つ、回復薬の使用を禁ずる。4つ、多人数戦闘を禁ずる。5つ、脅迫や利益供与などによる勝敗の通謀を禁ずる」
続く3つは紳士的な戦いを求める規定。
武闘会という見世物なのだから、あまり汚い手は観客の失望を買う。
ついでに、監修の目の前で非人道的な行為に走れば、その者自体の品位が疑われる。
ある意味で、この規定は個人の名誉を守るためのモノでもある訳だ。
「明確に定められているのはこの5つ。他に、問題があると判断された行為が見咎められれば、その行為をした者は失格となる。己の戦法に懸念がある場合、事前に相談願いたい。参加者控えとなる席の近くに、少なくとも3人は近衛兵を配置する。その者たちに相談すると良い」
第1回であるために、規定を詰められていないのだろう。
そんな臨機応変の対応を、審判役の近衛兵と選手である参加者に強いていた。
戦い方など人それぞれなのだか、問題となりそうな行為は数知れず。
無限の問題全てにあらかじめ対処できるはずもないので、仕方ないと言えば仕方がない。
「最後に。優勝者が戦う事となる勇者に、言葉をいただこう」
規定開示の次は勇者の挨拶。
段取りの通り、俺はランテと交代で前に進み出る。
「皆さん、ご存知の事と思いますが改めて。俺がこのラビリンシア、そしてミナ・ミヌエーラに勇者と認められた者、テノールです」
俺は自己紹介から言葉を始めつつ、参加者を見回した。
投げかけられる視線は、どれも鋭いように感じられる。
武闘会なんかに参加するだけあって、腕比べが好きな連中なのかもしれない。
もしくは、選定の儀式を失わせた俺への恨みか。
(あの鎧はそんな感じじゃねぇかな。すげぇ敵意を込めてやがる)
鎧のあの者は、エクスリバー曰く後者らしい。
逆恨みが過ぎる。去年のこの日、魔王軍から急襲される最中聖剣を握っていれば良かったと言うのに。
むしろ、あの窮状で握りに行ける勇気があったからこそ、俺が聖剣エクスカリバーの担い手に選定されたのではないだろうか。
(選んだのは100万人目っつってんだろ)
運命的な話だ。茶々を入れないでほしい。
とりあえず、俺に敵対的な奴は
「……。この催しは、新たなる希望となるでしょう」
一拍置いてから、俺は意味深長な言葉を吐いた。
そうやって、参加者と観客から注目を一気に集める。
「何故なら、ここに揃った者は皆、勇気ある者だからです。衆人環視で負ける事を恐れず立ち上がった勇気が、貴方方には必ずある」
負けて笑い者にされるかもしれない恐怖。
それを打ち払える勇気があると、俺は参加者を称えた。
本当、こんな見世物によくも自信満々で参加できるものだ。
心の底から称賛する。
「そして、誰にも負けないとする、強き心がある。きっと、貴方方は強大な敵に脅える事はないでしょう。強大な敵に勝てずとも、貴方方なら希望を繋げられるでしょう」
そんな勇気があるのなら、危機な戦場の矢面に立てるだろう。
せいぜい民衆が逃げる時間稼ぎになってほしい。
そんな思いを、聞こえの良いように翻訳した。
(お前、本当に下衆だな)
演説に集中してるんだから黙ってろ。
「だからこそ、俺も立ち向かいましょう。貴方方の先頭に立つ勇者として、証を示します。この時ばかりは、俺が誰よりも勇気ある者であり、強き心を持つ者である事を証明してみせます。俺に、貴方方の勇気と力を見せてください。俺は、頂点の先で待っています」
優勝賞品に俺と戦う権利があるため、俺は参加者を煽った。
見世物を盛り上げてくれるよう、勇者としての計らいだ。
後、とある布石も込めておいてある。
「それでは、健闘を祈っています」
そうして俺は挨拶を締めた。
会場には、無駄に歓声が響くのだった。