100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
大歓声の響く武闘会会場。
その光景を高みより見下ろせる席、来賓の中でもとびっきりの来賓が座る国賓席。
その席には、まさにお歴々が揃っていた。
「うむ。さすが
「ええ。テノールちゃん、頑張ってるわね。頑張り過ぎて、無理してないと良いのだけど……」
テノールが仕事をしっかり
ミナ・ミヌエーラ双王、紅竜王ゴッホと白竜王グウィバーである。
ゴッホは満足げに頷いており、グウィバーは少し心配そうにしていた。
交流期間はそれ程長くなかったのに、もはや父性や母性を抱いているかのようだ。
「はぁ……はぁ……。マジで可愛い……。あの健気に勇者してる感じ、超最高……」
テノールの一生懸命な姿に、興奮を覚えているのが1体。
パローナ教皇、エクラタントである。
彼女は興奮が抑えきれず、涎が垂れていたり、エンジェルの羽が慌ただしく羽ばたいたりしていた。
今にもテノールを獲りに行き、色んな意味で捕食しそうな勢いだ。
「突っ込み待ちか?突っ込み待ちなのか?エクラタント、俺はお前のその醜態を指摘すべきなのか?」
そして、エクラタントの狂いように怪訝な視線を向けているのが1体。
パンデモニウム天皇、サタン・アルフィーネである。
彼はエクラタントの羽を鬱陶しそうに、6枚3対の羽であしらっていた。
その羽は蝙蝠のそれと特徴が近い事、捻じれた角が頭より生えている事。
その2つによって、サタンの種族がデビルであると明確に表されている。
「なんの事でしょうか、サタン。
「せめて涎を拭き取れ。身に覚えが身に刻まれてるぞ」
佇まいを正しはしたが、涎にまでは気付かなかったエクラタント。
そんな彼女にサタンは呆れた。
元よりそういう奴だと知っているため、失望や呆然はしなかったが。
「ここさぁ、漫画だったらお歴々がそれぞれのコマを飾って、それぞれが勇者に意味深長な
「貴方は相変わらず、見栄えばかり気にしているようですね」
「風体も気にしないお前には言われたかないんだよ、このショタコン」
『漫画』や『コマ』、『読者』や『初登場シーン』と、かなり異次元的な物言いをサタンは繰り広げていた。
エクラタントはその物言いを理解し、皮肉を返したが、サタンからはもっと的確な皮肉が返される。
喧嘩になりかねないやり取りではあるが、お互いご同輩として軽口が叩けると、案外楽しんでいた。
両方とも長く生きるが故、抱える事情がある故、こういうやり取りができる相手は貴重なのだ。
「んで、お前は何も言わんのか。全員揃った方が
そんな腐れ縁じみたやり取りを一旦中断してまで、サタンはエクラタントの背後に控える者へ声をかけた。
その者は便宜上エクラタントの護衛であるが、コーメスタではない。
女袴を纏い、腰に毛布のような物を巻いた女性だ。
頭巾で顔を隠しているが、サタンには、それからゴッホやグウィバーにも正体を悟られていた。
「人が身分隠して来とんのやから、暴くんは不躾ちゃいます?」
そう。その正体とは、このお歴々に並んでも恥ずかしくない人物、ジパングの帝王、クミホである。
エクラタントの一計で、護衛と身分を偽り、お歴々が集まるこの国賓席に忍び込んでいたのだ。
「どこを隠してんだ、どこを。狐の尻尾が丸見えなんだよ、ケモナー」
「ケモナーと獣娘好きはちゃうて、毎回言っとるやろ?」
「これだからオタクは。無駄なところに拘りやがる」
サタンはこっちに対しても軽口を叩き、クミホもそれに応じていた。
やはりこの組み合わせも腐れ縁。
この国賓席は同窓会の状態となっているのだ。
「お前が国から出てきたって事は、完成したって事だよな」
「そうや。ウチの理想郷は出来上がった。やから、周知しに来たんや」
「馬鹿と天才はなんとやらだな。新種族をこの世界に誕生させるとはよ」
腐れ縁であるからこそ、サタンはクミホの理想郷を知っていた。
獣の耳と尾を生やした人型種族の国。それがクミホの理想郷。
そんなモノを完成させた事に、サタンは心底感嘆している。
新種族を生み出すという前提にして難題を、クミホは成し遂げたのである。
そんな理想を掲げた時点で馬鹿だが、叶えてしまったのなら天才に他ならない。
「いやいや、大半はフィーネ様のおかげや。あの方が手ぇ貸してくれへんかったら、後何万年かかったか分からへん」
クミホは協力者の功績を称えた。
新種族ファーリーの誕生には、『邪神フィーネ』の助力が切って離せない。
気まぐれか、新たな刺激を求めてか、クミホのファーリー新生に、フィーネは手を貸していたのだ。
そんな魔物製造専門家の助力があったために、予想よりも早くファーリーは完成している。
「そうか、あの野郎のおかげでね……。で、あの野郎は元気か?」
「すんまへんが、数年前に資料だけ置いて消えはってん。今はとんと」
フィーネの名を出されて、サタン・アルフィーネは見るからに機嫌を悪くしていた。
クミホはその事を反省しながら、サタンの質問に首を振る。
「ま、それなら良い。どっかでくったばってりゃ、世界にとっても俺にとっても有り難い」
気になる相手は行方不明という事で、サタンはその話題を打ち切った。
そうして嫌な記憶を頭の隅に追いやり、楽しい行事の見物に意識を移すのだった。