100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

170 / 221
第二十二節 犬の躾

 明確な強者が居る武闘会。

 その強者の試合はあっさり終わるが、さすがに数が多いため、次の日まで(もつ)れ込んだ。

 元より武闘会の進行は2日間の予定だったので問題ない。

 当然と言えば当然だが、むしろ予定より早いくらいであり、予想より試合数が少なくなっていた。

 そうして今日も順調に武闘会が進む中、ついにその試合が訪れる。

 

「かっかっかっ。当たるのは準決勝か決勝だと思ってたんだが、こんなところで当たるかぁ。運がないねぇ、お前さん」

 

 強者の1人であるサコン。

 彼は今回の対戦相手と戦える事に喜びを感じながら、相手の意思を逆撫でするように嘲笑した。

 本心から相手の不運を嘲笑している訳ではない。

 あくまでそれは煽り。相手と本気で戦いたいが故に、相手の戦意を煽っているのだ。

 そして、そんな煽りを受けているのが――

 

「随分と低俗な輩だ。笑い方、話し方、全てが低俗。『お里が知れる』とは、こういう事を言うのだろう」

 

――鎧の女性にして強者のもう1人、エリザという偽名で武闘会に参加しているエリーである。

 彼女はサコンの煽りに怒りを抱くも、即座に殺しにかかるように怒り狂いはしなかった。

 不運への嘲笑より、失礼な態度に怒りを抱き、失礼に対する罰を降すべきと判断していたのだ。

 それならば試合中にできると、冷静に矛を収めている。

 それでも、任務がなければすぐに罰しにかかっていたかもしれないが。

 

「双方、構え」

 

 選手両方に戦意が満ちている様子を見て、ランテは試合開始への準備をサコンとエリーに促した。

 そのサコンとエリーはお互い距離を空けてから、武器を構える。

 両者ともに、その間合いが必要だと読んでいた。

 サコンはエリーの初撃を、エリーはサコンがいつも決着を付けていた一撃を、それぞれ警戒しての間合いだ。

 その距離が空いた状態でも、火花でも散りそうなくらいに熱い視線がぶつかっている。

 

「それでは両者……、始め」

 

 ランテによる気合の入らない平坦な開始合図とは裏腹に、金属同士がぶつかり合う激しい音が響く。

 開始合図後の一瞬、両者が激突したのだ。

 エリーの変わらぬ石突の初撃に、サコンがいつの間にかに抜いた刀で弾いていた。

 居合と言われる、刹那の一撃。『武神エフエフ』が伝えた抜刀術であり、サコンが毎度決め手としていた攻撃だ。

 

 こうして今大会で初めて初撃が防がれたエリーだが、その顔に動揺がなければ心に意外感もない。

 この展開は読めていた。

 故に一切の油断もなく、エリーは後退を選択し、後ろに跳ぶ。

 

「堅実だなぁ、お前さん。だが、残念!」

 

 初撃が防がれてからの選択肢は、連撃か後退か。その2択しかない。

 その2択へそれぞれに次の手をあらかじめ用意していたサコン。

 エリーが後退を選んだという事で、それに合わせて次の手を打つ。

 それが、後退に合わせての追撃。

 居合の踏み込みからさらに踏み出し、抜いた刀を諸手に構えての袈裟切り。

 跳んでしまったがために、エリーの足は地に付いていない。避ける事はできない。

 

「残念なのは貴様の頭だ」

 

 避けられないエリーは、避けるのでもなく、受けるのでもなく、攻撃を逸らしにかかった。

 持ち手を軸にして槍を回転させ、サコンの刀、その腹に刃を添わせる。

 そうやって、わずかに横から力を加える事で、刀の軌跡を逸らしたのだ。

 

「っ!」

 

 刀は空を切った事によりエリーは無傷。対し、槍の回転半径内に手が入っていたサコンは、その手を浅く切られていた。

 攻撃すら織り込まれていたエリーの防御。ここまで無傷で勝ち上がってきたサコンは、この初めての傷を負った事に驚愕する。

 

「……こいつぁ、楽しめそうだ」

 

 これまで戦ってきた者たちより数段上の強者。

 そんな者との対決に、サコンは不敵な笑みを浮かべた。

 戦いを好むサコンの性分が、非常に刺激されている。

 

「戦いを楽しむか。貴様は血に飢えた獣と変わらん。獣には、躾が必要だろう」

 

 着地が済めば、次はエリーが攻める番だ。

 しっかりと地を踏みしめた石突の刺突が、彼女の両手で以って放たれた。

 その刺突は恐ろしく早く、回避は困難。さりとて、弾くのも困難だと、サコンは悟る。

 体全体を使ったエリーのその刺突は、生半可に打っても弾けるようなモノではないと、サコンは直感していた。

 だから、刀の腹で受け止めようとする。

 

(ぬる)い」

「なんとぉ!!」

 

 そんな防御では受け止めきれず、サコンは吹き飛ばされた。

 勢いも殺しきれず、その背中を壁へと打ち付ける。

 

「ぐっ……。だが、まだ終わっちゃいねぇ!寄らば切る!」

 

 舞台端まで追い詰められても、痛みが体に響いていても、サコンは倒れない。

 刀を収め、渾身の居合に全てを賭けた。

 そこへ、エリーは何も脅えず、サコンの間合いに踏み込む。

 

「馬鹿者め。戦士ならば、得物の状態くらい把握していろ」

「……気付いとったんかい」

 

 エリーの踏み込んでくるところに、サコンは居合で刀を抜く。

 しかし、虚しくもその刀は折れており、その射程は悲しい程激減していた。

 よって、サコンの刀はエリーの槍に射程で負け、一方的にエリーの攻撃が通される。

 鳩尾に向かっての刺突。

 防ぐ手立ても避ける手立てもなく、サコンはその一撃を受ける。

 そうしてサコンは倒れ伏し、舞台に立つのはエリーのみ。

 

「勝者、エリザ」

 

 勝敗は決し、ランテが平坦に事実を宣言するのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告