100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
明確な強者が居る武闘会。
その強者の試合はあっさり終わるが、さすがに数が多いため、次の日まで
元より武闘会の進行は2日間の予定だったので問題ない。
当然と言えば当然だが、むしろ予定より早いくらいであり、予想より試合数が少なくなっていた。
そうして今日も順調に武闘会が進む中、ついにその試合が訪れる。
「かっかっかっ。当たるのは準決勝か決勝だと思ってたんだが、こんなところで当たるかぁ。運がないねぇ、お前さん」
強者の1人であるサコン。
彼は今回の対戦相手と戦える事に喜びを感じながら、相手の意思を逆撫でするように嘲笑した。
本心から相手の不運を嘲笑している訳ではない。
あくまでそれは煽り。相手と本気で戦いたいが故に、相手の戦意を煽っているのだ。
そして、そんな煽りを受けているのが――
「随分と低俗な輩だ。笑い方、話し方、全てが低俗。『お里が知れる』とは、こういう事を言うのだろう」
――鎧の女性にして強者のもう1人、エリザという偽名で武闘会に参加しているエリーである。
彼女はサコンの煽りに怒りを抱くも、即座に殺しにかかるように怒り狂いはしなかった。
不運への嘲笑より、失礼な態度に怒りを抱き、失礼に対する罰を降すべきと判断していたのだ。
それならば試合中にできると、冷静に矛を収めている。
それでも、任務がなければすぐに罰しにかかっていたかもしれないが。
「双方、構え」
選手両方に戦意が満ちている様子を見て、ランテは試合開始への準備をサコンとエリーに促した。
そのサコンとエリーはお互い距離を空けてから、武器を構える。
両者ともに、その間合いが必要だと読んでいた。
サコンはエリーの初撃を、エリーはサコンがいつも決着を付けていた一撃を、それぞれ警戒しての間合いだ。
その距離が空いた状態でも、火花でも散りそうなくらいに熱い視線がぶつかっている。
「それでは両者……、始め」
ランテによる気合の入らない平坦な開始合図とは裏腹に、金属同士がぶつかり合う激しい音が響く。
開始合図後の一瞬、両者が激突したのだ。
エリーの変わらぬ石突の初撃に、サコンがいつの間にかに抜いた刀で弾いていた。
居合と言われる、刹那の一撃。『武神エフエフ』が伝えた抜刀術であり、サコンが毎度決め手としていた攻撃だ。
こうして今大会で初めて初撃が防がれたエリーだが、その顔に動揺がなければ心に意外感もない。
この展開は読めていた。
故に一切の油断もなく、エリーは後退を選択し、後ろに跳ぶ。
「堅実だなぁ、お前さん。だが、残念!」
初撃が防がれてからの選択肢は、連撃か後退か。その2択しかない。
その2択へそれぞれに次の手をあらかじめ用意していたサコン。
エリーが後退を選んだという事で、それに合わせて次の手を打つ。
それが、後退に合わせての追撃。
居合の踏み込みからさらに踏み出し、抜いた刀を諸手に構えての袈裟切り。
跳んでしまったがために、エリーの足は地に付いていない。避ける事はできない。
「残念なのは貴様の頭だ」
避けられないエリーは、避けるのでもなく、受けるのでもなく、攻撃を逸らしにかかった。
持ち手を軸にして槍を回転させ、サコンの刀、その腹に刃を添わせる。
そうやって、わずかに横から力を加える事で、刀の軌跡を逸らしたのだ。
「っ!」
刀は空を切った事によりエリーは無傷。対し、槍の回転半径内に手が入っていたサコンは、その手を浅く切られていた。
攻撃すら織り込まれていたエリーの防御。ここまで無傷で勝ち上がってきたサコンは、この初めての傷を負った事に驚愕する。
「……こいつぁ、楽しめそうだ」
これまで戦ってきた者たちより数段上の強者。
そんな者との対決に、サコンは不敵な笑みを浮かべた。
戦いを好むサコンの性分が、非常に刺激されている。
「戦いを楽しむか。貴様は血に飢えた獣と変わらん。獣には、躾が必要だろう」
着地が済めば、次はエリーが攻める番だ。
しっかりと地を踏みしめた石突の刺突が、彼女の両手で以って放たれた。
その刺突は恐ろしく早く、回避は困難。さりとて、弾くのも困難だと、サコンは悟る。
体全体を使ったエリーのその刺突は、生半可に打っても弾けるようなモノではないと、サコンは直感していた。
だから、刀の腹で受け止めようとする。
「
「なんとぉ!!」
そんな防御では受け止めきれず、サコンは吹き飛ばされた。
勢いも殺しきれず、その背中を壁へと打ち付ける。
「ぐっ……。だが、まだ終わっちゃいねぇ!寄らば切る!」
舞台端まで追い詰められても、痛みが体に響いていても、サコンは倒れない。
刀を収め、渾身の居合に全てを賭けた。
そこへ、エリーは何も脅えず、サコンの間合いに踏み込む。
「馬鹿者め。戦士ならば、得物の状態くらい把握していろ」
「……気付いとったんかい」
エリーの踏み込んでくるところに、サコンは居合で刀を抜く。
しかし、虚しくもその刀は折れており、その射程は悲しい程激減していた。
よって、サコンの刀はエリーの槍に射程で負け、一方的にエリーの攻撃が通される。
鳩尾に向かっての刺突。
防ぐ手立ても避ける手立てもなく、サコンはその一撃を受ける。
そうしてサコンは倒れ伏し、舞台に立つのはエリーのみ。
「勝者、エリザ」
勝敗は決し、ランテが平坦に事実を宣言するのだった。