100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「正々堂々の勝負に挑み、己の全力を注ぎ、この武闘会に励んでくれた事。諸君らの紳士的な態度に、余は感謝する」
武闘会としての全試合は終了し、今は閉会式。
舞台の上で、バーニン王が武闘会参加者へと言葉を贈っていた。
バーニン王が言う通り、全試合において違反者は出ず、通謀の類は見つかっていない。
無法者の親戚である冒険者ばかりなのに反して、この催しは正常に進行できたのだ。
人が108名と少数だったため、奇跡的にそういう真の無法者が混ざらなかったのか。
もしくは、建国王アルトに敬意を抱き、彼の姿に倣ったのか。
真偽は定かではない。
「そして、その紳士的な戦いの中で、誇りある勝利を収めた者。優勝者エリザ。貴公の勇猛に、余自ら褒賞を賜す。エリザよ、前へ」
挨拶から流れで優勝者への表彰に移行する。
バーニン王はエリザに前へ歩み出る事を促した。
エリザは特に反発する事なく、促しに従う。
従順な様子ではあるが、護衛を務める近衛兵らは緊張を強めている。ランテは相変わらず涼しい顔だが。
「兜のまま、失礼する。種族柄、日光は苦手なのだ」
「構わぬ。楽にせよ」
顔を隠したままというのは、場合によって失礼である。
そんな顔を兜で隠すエリザは物言いも不遜であるがため、セイザーからはかなり睨まれていた。
王は、エリザからの謝罪もあったため、その失礼を受け入れている。
己の寛容さを観客へ見せ付けているのか。
国賓も居るから、そっちへの主張という線もある。
とにかく、表彰は滞りなく進む。
「エリザ。貴公の勇猛さを、ここに称えよう」
「有り難く」
バーニン王はエリザに紙を差し出した。
その紙は、第1回ラビリンシア建国記念祭武闘会の優勝を示す証書であり、優勝賞品の一覧表だ。
エリザは、綺麗な1歩で前により、紙を両手で受け取ってから、1歩下がって頭を下げる。
礼儀を節々から感じる所作だ。
彼女は案外、どこか貴族の出かもしれない。
「優勝者への褒賞として、我が国の勇者と試合できる権利が与えられる。これはあくまで権利だ。望まぬなら、辞退もできる」
ここで、俺が最も気になる事を、バーニン王はエリザに質問した。
俺はバーニン王の斜め後ろから、エリザの回答に耳を傾ける。
できれば、辞退してくれる事を、祈りながら。
「挑ませてもらおう。そのために来たと言っても過言ではない」
分かりきっていたが、エリザの回答は是。
俺への挑戦権を、恐ろしい程真剣に行使する。
どれ程俺と戦いたいんだ。
選定の儀式を結果的に失わせたのは間違いなく俺で、その相手に良くない感情を抱いてしまうのは分かる。
だとしても、ここまで敵視される
担い手を選ぶ権利は、聖剣自体にあったのだから。
「お相手仕ります」
などど内心抗議したい気持ちでいっぱいだが、そういう謂れなき悪意も甘んじて受け止めるのが勇者。
『有名税』などという言葉も『コジ記』にあるし、勇者として取り繕うべく、内心の不満を俺は呑み込んだ。
毅然と、戦意溢れるエリザに相対する。
「うむ。では、優勝者エリザの権利行使を認め、勇者との試合を執り行う。任せたぞ、ランテ」
「はっ。……エリザ以外の参加者は席へ戻るよう願おう」
バーニン王はランテへ指示を出してから舞台を後にし、指示を出されたランテは参加者を誘導する。
セイザー、トリス、パースは誘導されるまでもなく所定の位置、舞台袖まで下がった。
ランテは武闘会に引き続き審判を務めるため、舞台の真ん中からやや外れた場所に待機する。
試合をする場は、整えられた。
まず、俺とエリザは舞台の真ん中へ。
「よろしくお願いします、エリザさん」
「……」
俺は握手を求めてみるが、エリザは応対しない。
じっと、俺の顔を睨んでいる。
「……俺に対して、嫌悪感をお持ちですか?……気持ちは、理解できなくもありません。俺のような若輩が、聖剣エクスカリバーに選ばれてしまった。もしかしたら、もっと相応しい担い手が居たかもしれないのに」
エリザの敵意を少しでも和らげようと、俺は彼女の気持ちに共感を示した。
例えば俺以外の人物、無名の者が聖剣エクスカリバーに選ばれていれば、理不尽に恨んだかもしれない。
少なくとも、俺の計画を破綻させたとして、一生根に持つだろう。
(お前、敵視される事に文句言えなくねぇか?)
そういう可能性があったという話だ。絶対そうなるという事ではない。
そもそも、もうその可能性はないのだ。
なら、文句を言うのは被害者として正当なモノである。
(お前の中では、そうなんだろうな)
世間一般的にそうだろうが。
ええい、付き合ってられん。今は目の前の事だ。
「もし、もしもやり直せたらと、考えた事は何度もあります。俺じゃなくて、別の人が選ばれていれば、と……」
別の人が選ばれていれば、こんな勇者とは名ばかりの使い走りにはならなかっただろう。
王命で遠出させられる度に、そう思っている。
割と本気で、勇者役を誰かに投げられないかと、悩んだ時期もあった。
その事について、最近はちょっとした希望が湧いている。
聖剣デュランダルの担い手であり英雄であるリカルドだ。
彼も王の使い走りになってくれれば、俺の負担が減る。
そのため、俺は彼がミナ・ミヌエーラから帰ってくるのを、心待ちにしているのだ。
「俺には、荷が重かったかもしれな―――」
「くだらん」
「え?」
同乗を買うために弱音を打ち明けていれば、エリザは一言で一蹴してきた。
エリザは兜の下からでも肌で感じるくらい、侮蔑と呆れの視線を送っている。
「勇者ならば、迷いを捨てろ。その覚悟もなしに聖剣を握るな」
説教という軟な言葉ではない。
エリザは怒りを滲ませ、苦言をぶつけてきている。
「やはり、お前は裁かねばならない。喜べ、私自らその軟弱な精神を裁いてやる」
その言葉を最後に、エリザは距離を取った。
話は、終わりのようだ。
口を聞いてくれるような雰囲気ではない。
(俺、これから叩きのめされるのか……)
(頑張れよ、元農民)
これから起こる惨劇を予感しながら、俺も距離を取った。
そんな俺を、エクスカリバーは楽しげに傍観するのだった。