100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十六節 布石の成果

 エリザと俺の試合。

 距離は充分に取られ、俺も相手も武器を構えている。

 俺が構える武器は聖剣エクスカリバーだが――

 

(自分の力で頑張りな、元農民)

 

――この通り、エクスカリバーは戦う気が一切ない。

 俺がどのように叩きのめされるのか、楽しそうに見守るばかりだ。

 という事で、俺自身が戦わねばいけない事以外、問題はない。

 試合開始の合図を待つ。

 

「双方、構え……。始め」

 

 戦う両者の準備が整っていると見て、ランテは変わらぬ合図を出した。

 試合が始まる。

 俺は、エリザのあの初撃を警戒し、防御の姿勢を取った。

 

「……え?」

 

 だが、エリザは対戦相手を瞬殺してきた刺突をしてこない。

 彼女はじっと俺を睨んでいる。

 

「……来ないんですか?」

「阿呆が」

 

 俺が疑問を口にしてみれば、エリザは返事をすると同時に怒気を強めた。

 俺の行動が、彼女の怒りを煽ってしまったようだ。

 

「貴様は音に聞こえた勇者なのか?挑発や時間稼ぎならまだしも、戦いの場で歓談する奴がどこに居る。貴様は戦いの場に居る自覚があるのか?」

 

 エリザは、戦士としてご尤もな苦言を呈した。

 戦士らしからぬ行動を指摘されてしまった訳で、俺は反論ができず、苦笑を浮かべる事しかできない。

 どうにも彼女には酷く嫌われており、和解は無理そうだ。

 

「やはり、貴様とは戦いに成り得ん。ならばこそ、これは処罰だ。痛みを以て、貴様の罪を清算しよう」

 

 気が変わったのか、エリザは攻め気を出してきた。

 ただ、石突による刺突ではない。ゆっくりと近付いては、槍をおもむろに振り上げる。

 隙だらけだと思い、俺はそこへ切り込もうとした。

 

「がっ……」

 

 気付けば、俺の腹部を激痛が襲う。

 エリザに殴られたのだ。

 槍を振り上げたのは罠で、元より空いていた手が殴るつもりだったらしい。

 見事、俺は罠に嵌まってしまった訳だ。

 

「あまりにも稚拙。これに魔王軍幹部がやられたとは、信じ難いものだ!」

「ぐっ……」

 

 腹部の激痛で蹲っているところに、槍の柄が振り下ろされた。

 聖剣で受け止める事には成功したが、押し返す事はできない。

 今にも押しつぶされてしまいそうだ。

 

「どうした、その程度か。まさか、傷付けるのが怖いなどと、戦士にあるまじき台詞(せりふ)を吐きはしまいよな?」

「お、俺は……。俺の力は、悪を裁く力です……。ご期待に沿えず、申し訳ない……」

「ふざけるな!」

「あがっ」

 

 押しつぶされまいと耐えるのに精いっぱいで動けない俺に、エリザは蹴りを見舞った。

 真面にくらった俺は気絶しないまでも、無様に尻もちをつく。

 頭が揺さぶられたせいで平衡感覚が狂い、立つのが難しい。

 

「武闘会と言う名ではあるが、この場は戦いの場!その場で本気を出せぬと抜かすか!ここで戦った誇り高き戦士たちを愚弄するつもりか!」

 

 エリザは立てない俺の胸倉を掴み、引っ張り上げた。

 そうやって兜にぶつかるくらい顔を引き寄せて、怒声を叩きつけたのだ。

 

「愚弄、するつもりはない……。だけど、俺の戦いと、戦士の戦いは違う……。俺は、聖剣に選ばれた者として、正義ある戦いがしたいんだ……」

「つくづく愚かだな、貴様……!」

 

 掴み上げていた俺を、エリザは投げ捨てるように突き放した。

 支えもない俺は勢いそのまま、また尻もちをつく。

 情けないが、仕方がない。彼女の言い分は正しい。少し暴力的な訴えかけではあるが。

 弱い俺は、強い彼女の言葉を聞き届けるのみ。

 今は、それが俺の務めだ。今は。

 

「開会式で自信満々な宣言をしておいてそれか。何故聖剣は、お前を選んだ。このような軟弱者を選んでしまったのだ。勇気しかないような愚か者を選ぶようでは、その聖剣も高が知れる」

 

 エリザが吐き捨てた侮蔑に、俺は内心歓喜する。

 

(なんだぁ、テメェ……)

 

 その言葉がエクスカリバーの逆鱗に触れたからだ。

 わざわざその言葉を誘うために、開会式で虚栄ともされかねない宣言をし、エリザの攻撃に耐えたのだ。

 全ては、エクスカリバーの戦意を掻き立てる布石だったのである。

 

(お前の策に引っかかったみてぇで癪に障るが、そんな事よりこのアマだ。体貸せ、テノール。オレを馬鹿にした事、後悔させてやる……)

(……やりすぎるなよ)

(分ぁってるっつうの。ちょっと、泣くまで痛めつけてやるだけさ)

 

 けっこう煮えたぎってはいるが、殺意までは抱いていない。

 冷静さが残っているのか、見返してやりたいだけか。

 ともかく、戦う気があるならば、任せてしまおう。

 

「ぬ!?」

 

 気配が変わった事に気付いてか、エリザは即座に後ろへ跳んだ。

 そうしなければ、エクスカリバーの後方倒立回転跳びによる蹴りが当たっていた事だろう。

 そう。エクスカリバーは起立と牽制、さらには距離空けを同時に行ったのだ。

 

「貴様……」

「ありがとうございます、エリザさん。貴女の説教で、目が覚めました」

 

 エリザの突き刺すような視線など意に介さず、エクスカリバーは悠然と構える。

 

「この戦いに正義はないかもしれない。でも、誇りはある。集った者たちの、思いがある。俺の我がままでその誇りを汚すのは、罪深い事ですよね?」

 

 エクスカリバーはこれから本気を出す事への理由を取り繕った。

 俺のせいなのか、こういう口は良く回る。

 

「では、エリザ。勇者テノールの戦いを知ると良い」

 

 エクスカリバーは戦意で場の雰囲気を塗り替える。

 心なしか口角が上がっているために、これから痛めつける事への喜悦が隠しきれずにいるのだった。

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