100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
エリザと俺の試合。
距離は充分に取られ、俺も相手も武器を構えている。
俺が構える武器は聖剣エクスカリバーだが――
(自分の力で頑張りな、元農民)
――この通り、エクスカリバーは戦う気が一切ない。
俺がどのように叩きのめされるのか、楽しそうに見守るばかりだ。
という事で、俺自身が戦わねばいけない事以外、問題はない。
試合開始の合図を待つ。
「双方、構え……。始め」
戦う両者の準備が整っていると見て、ランテは変わらぬ合図を出した。
試合が始まる。
俺は、エリザのあの初撃を警戒し、防御の姿勢を取った。
「……え?」
だが、エリザは対戦相手を瞬殺してきた刺突をしてこない。
彼女はじっと俺を睨んでいる。
「……来ないんですか?」
「阿呆が」
俺が疑問を口にしてみれば、エリザは返事をすると同時に怒気を強めた。
俺の行動が、彼女の怒りを煽ってしまったようだ。
「貴様は音に聞こえた勇者なのか?挑発や時間稼ぎならまだしも、戦いの場で歓談する奴がどこに居る。貴様は戦いの場に居る自覚があるのか?」
エリザは、戦士としてご尤もな苦言を呈した。
戦士らしからぬ行動を指摘されてしまった訳で、俺は反論ができず、苦笑を浮かべる事しかできない。
どうにも彼女には酷く嫌われており、和解は無理そうだ。
「やはり、貴様とは戦いに成り得ん。ならばこそ、これは処罰だ。痛みを以て、貴様の罪を清算しよう」
気が変わったのか、エリザは攻め気を出してきた。
ただ、石突による刺突ではない。ゆっくりと近付いては、槍をおもむろに振り上げる。
隙だらけだと思い、俺はそこへ切り込もうとした。
「がっ……」
気付けば、俺の腹部を激痛が襲う。
エリザに殴られたのだ。
槍を振り上げたのは罠で、元より空いていた手が殴るつもりだったらしい。
見事、俺は罠に嵌まってしまった訳だ。
「あまりにも稚拙。これに魔王軍幹部がやられたとは、信じ難いものだ!」
「ぐっ……」
腹部の激痛で蹲っているところに、槍の柄が振り下ろされた。
聖剣で受け止める事には成功したが、押し返す事はできない。
今にも押しつぶされてしまいそうだ。
「どうした、その程度か。まさか、傷付けるのが怖いなどと、戦士にあるまじき
「お、俺は……。俺の力は、悪を裁く力です……。ご期待に沿えず、申し訳ない……」
「ふざけるな!」
「あがっ」
押しつぶされまいと耐えるのに精いっぱいで動けない俺に、エリザは蹴りを見舞った。
真面にくらった俺は気絶しないまでも、無様に尻もちをつく。
頭が揺さぶられたせいで平衡感覚が狂い、立つのが難しい。
「武闘会と言う名ではあるが、この場は戦いの場!その場で本気を出せぬと抜かすか!ここで戦った誇り高き戦士たちを愚弄するつもりか!」
エリザは立てない俺の胸倉を掴み、引っ張り上げた。
そうやって兜にぶつかるくらい顔を引き寄せて、怒声を叩きつけたのだ。
「愚弄、するつもりはない……。だけど、俺の戦いと、戦士の戦いは違う……。俺は、聖剣に選ばれた者として、正義ある戦いがしたいんだ……」
「つくづく愚かだな、貴様……!」
掴み上げていた俺を、エリザは投げ捨てるように突き放した。
支えもない俺は勢いそのまま、また尻もちをつく。
情けないが、仕方がない。彼女の言い分は正しい。少し暴力的な訴えかけではあるが。
弱い俺は、強い彼女の言葉を聞き届けるのみ。
今は、それが俺の務めだ。今は。
「開会式で自信満々な宣言をしておいてそれか。何故聖剣は、お前を選んだ。このような軟弱者を選んでしまったのだ。勇気しかないような愚か者を選ぶようでは、その聖剣も高が知れる」
エリザが吐き捨てた侮蔑に、俺は内心歓喜する。
(なんだぁ、テメェ……)
その言葉がエクスカリバーの逆鱗に触れたからだ。
わざわざその言葉を誘うために、開会式で虚栄ともされかねない宣言をし、エリザの攻撃に耐えたのだ。
全ては、エクスカリバーの戦意を掻き立てる布石だったのである。
(お前の策に引っかかったみてぇで癪に障るが、そんな事よりこのアマだ。体貸せ、テノール。オレを馬鹿にした事、後悔させてやる……)
(……やりすぎるなよ)
(分ぁってるっつうの。ちょっと、泣くまで痛めつけてやるだけさ)
けっこう煮えたぎってはいるが、殺意までは抱いていない。
冷静さが残っているのか、見返してやりたいだけか。
ともかく、戦う気があるならば、任せてしまおう。
「ぬ!?」
気配が変わった事に気付いてか、エリザは即座に後ろへ跳んだ。
そうしなければ、エクスカリバーの後方倒立回転跳びによる蹴りが当たっていた事だろう。
そう。エクスカリバーは起立と牽制、さらには距離空けを同時に行ったのだ。
「貴様……」
「ありがとうございます、エリザさん。貴女の説教で、目が覚めました」
エリザの突き刺すような視線など意に介さず、エクスカリバーは悠然と構える。
「この戦いに正義はないかもしれない。でも、誇りはある。集った者たちの、思いがある。俺の我がままでその誇りを汚すのは、罪深い事ですよね?」
エクスカリバーはこれから本気を出す事への理由を取り繕った。
俺のせいなのか、こういう口は良く回る。
「では、エリザ。勇者テノールの戦いを知ると良い」
エクスカリバーは戦意で場の雰囲気を塗り替える。
心なしか口角が上がっているために、これから痛めつける事への喜悦が隠しきれずにいるのだった。