100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十七節 企みの成就

「では、エリザ。勇者テノールの戦いを知ると良い」

 

 劣勢だった雰囲気が、その一言で切り替わる。

 さんざん攻撃をくらってきたのに悠然と立つ姿は、まるでそれらに痛みを感じていないような余裕を漂わせていた。

 これから見せる姿が、勇者の本当の姿であるかのように、観客を、そしてエリザを、錯覚させる。

 

「……他人の誇りを守るため、戦うと言うのか。己の中に、戦う理由はないのか」

「そうですね。強いて言うなら、みんなの勇者像を壊す男にはなりたくない。そんな理由でしょうか」

「どこまでも愚かだ!」

 

 エリザはエクスカリバーの返しに怒りを覚え、同時に切り込んできた。

 ほとんどの試合でやってきた、石突による刺突だ。

 威力と速さだけ今までの比ではなく、明らかに本気の攻撃。

 しかし、エクスカリバーは対処した。

 刺突を聖剣の腹で受けたのだが、その聖剣は刺突の威力を逸らすように、斜めで受け流していたのだ。

 受け流された石突は、エクスカリバーの鳩尾手前ではなく、体の左手側にある。

 受け流しが成功している。

 ただ、エリザに動揺はない。次の攻撃を仕掛けてくる。

 

「大衆の望む姿に沿う演者に成り下がるつもりか、貴様は!」

「いいえ。皆の希望でありたいというのが、オレの意思です。決して、他人に踊らされている訳ではありません」

 

 怒りを発露するように繰り出されるエリザの連撃。

 そんな連撃をエクスカリバーは全て対処する。

 逸らされた石突を利用した横薙ぎには、身を屈ませて。

 屈んだところへの振り下ろしには、後方へ跳んで。

 空中狙いの突き上げには、上体を()らせて。

 着地狙いの足払いには、足を抱える事で着地時間を遅らせて。

 着地で硬直しているだろうところへの体当たりには、両足を添える事で威力を殺して。

 全ての連撃に、そうやって対処してみせた。

 それだけでなく、体当たりの際に添えた両足で蹴り、己の体を舞台端まで弾く。

 距離をまた空けるためにそうした。誰もがそう思うだろう。

 残念ながら、エクスカリバーはその程度でこの行動を終わらせなかった。

 

 そこから、さらに舞台端の壁を蹴り、エリザへと急接近させたのだ。

 おまけに、聖剣の切っ先をエリザへと向けている。

 

「なっ!?ぐっ」

 

 矢の如きエクスカリバー、(やじり)の如き聖剣を、エリザは左の籠手で防御した。

 だが、防御しきれていない。

 聖剣は籠手を貫き、その刃を肉へ届かせていた。

 その証拠に、貫かれた所から血が垂れている。

 

「どうですか?俺の気持ちは、伝わりましたか?」

 

 エクスカリバーは聖剣を引き抜き、追撃もせずに問いかけた。

 この攻撃は相手を傷つけるためではなく、己の気持ちを伝えるためのモノだったと示すように。

 伝えようとしている気持ちは、全く以って嘘なのであるが。

 

「ふ、ふふふ……。認めん、認めんさ……。勇者テノール。お前は他人を救うだけで、誰も導こうとはしていない!お前はただ、そこにあるだけの日の光だ!!」

 

 嘘である事を見抜いたのか、強情にも認めたくないのか。エリザはエクスカリバーの言葉を否定し、血の滴る左腕を振りかざした。

 そうすると、その滴っていた血がエクスカリバーの顔へと飛来する。

 目潰しされないように腕で庇ったが、結局視界は一瞬塞がる事になる。

 そこを見逃さず、エリザは槍を持つ右腕で刺突を放った。

 エクスカリバーはその刺突が読めていたのだろう。

 あっさりと刺突を弾き、聖剣を逆手に持ち替えてエリザの右腕に突き立てた。

 それも、手甲を貫いている。

 

「くぅ……」

「これで、両腕は(ろく)に使えません。貴女の負けです。どうか降参を」

 

 深い傷ではないが、今まで通り槍を振るえる状態ではない。

 故に、勝負の行く先を見えた。

 エリザに、もう勝ち目はない。

 

「ふ、はは……。ふはははははははは!」

 

 突然、エリザは哄笑を響かせた。

 自棄や自嘲ではない。

 こちらを、嘲笑っていたのだ。

 

「勇者テノール!ヴァンパイアがどのようにして仲間を増やすか、知っているか!?」

「いきなり、何―――う、ぐ、あっ」

 

 エリザがヴァンパイアの生態を講義しようとしたところ、エクスカリバーが急に(うずくま)った。

 体の内側から痛みを感じているように、エクスカリバーは己の体を抱きしめている。

 

(ヴァンパイアが仲間を増やす方法は、他の魔物と同じく生殖と、血を分け与える事による眷属化!だが、エクスカリバーはエリザの血を飲んでいないはず。顔に飛ばされた血だって、腕で庇って……。あれ?)

 

 俺はエクスカリバーの腕を視認し、違和感に気付いた。

 

(腕に血痕がない……。腕どころか、滴っていたはずの血もないぞ!?)

 

 エクスカリバーの腕にも、舞台にも、エリザの腕にさえ、彼女の血がない。

 どこにも、血痕などなくなっていたのだ。

 

「口に含む事までは警戒していたようだが、無駄だ!私は己を霧に変化させられる魔術を持つ。私の血も霧に変え、お前に吸わせていたのだ!」

 

 エリザは策の成就に気を良くし、高らかに説明していた。

 つまり、エリザは初めから狙っていたのだ。

 勇者の眷属化。そして、それからの抹殺を。

 

「があああああああああああああああ!!!」

 

 エクスカリバーは顔を覆い、苦しみ始めた。

 エリザの血を摂取した事によって眷属、ヴァンパイアに変質させられたのだ。

 そうしてヴァンパイアに成ろうとするその身が、日光に晒されている。

 ヒューマンからヴァンパイアに変じたところへ降り注ぐ日光など、猛毒液を浴びさせられるようなものだ。

 

「そこまでだ、反逆者め!」

 

 有事の際に控えていたセイザーたち。

 この瞬間こそが、彼らの出番である。

 よって、務めを果たすべく、セイザーは警告を発してまで、ランテやパース、トリスは静かにエリザを取り囲む。

 

「それ以上近付けば、勇者の命はないものと思え」

 

 エリザはエクスカリバーに槍を向け、人質にした。

 その槍はしっかり右手に握られている。

 どうにも、エリザは再生能力まで持つ高位のヴァンパイアだったようだ。

 

「おのれ……。先程までの気高さはどこへ行った!」

「これは罰なのだ、傲慢にも勇者を騙った罪への。そして、私から国を奪って腐敗させた罪への!」

「『国を奪って腐敗させた』だと?世迷言を」

 

 セイザーの訴えかけにエリザは耳を貸さず、全く訳の分からない事に執心していた。

 エリザは、何がなんでも俺とラビリンシアを罰したいのだろう。

 

「罪には罰を。この日より、私はお前たちに裁きを降す!よく覚えておけ、私の名はエリー・ポナー・ドラクル!貴様たちラビリンシア人に、我が祖国ポナーを奪われた者だ!」

 

 高らかに己が名を叫び、裁きの御旗をエリザ、いや、エリーは掲げる。

 どこまでも独善的で、どこまでも慢心に満ちていた。

 だから、隙を突かれる。

 

「罪には罰を。なら、貴女にも罰が必要ですね」

「何?っ!」

 

 勝ちを確信したエリーの兜を、エクスカリバーが叩いて剥がす。

 真にヴァンパイアたるエリーの顔が、日光の下、露にされたのだった。

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