100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「では、エリザ。勇者テノールの戦いを知ると良い」
劣勢だった雰囲気が、その一言で切り替わる。
さんざん攻撃をくらってきたのに悠然と立つ姿は、まるでそれらに痛みを感じていないような余裕を漂わせていた。
これから見せる姿が、勇者の本当の姿であるかのように、観客を、そしてエリザを、錯覚させる。
「……他人の誇りを守るため、戦うと言うのか。己の中に、戦う理由はないのか」
「そうですね。強いて言うなら、みんなの勇者像を壊す男にはなりたくない。そんな理由でしょうか」
「どこまでも愚かだ!」
エリザはエクスカリバーの返しに怒りを覚え、同時に切り込んできた。
ほとんどの試合でやってきた、石突による刺突だ。
威力と速さだけ今までの比ではなく、明らかに本気の攻撃。
しかし、エクスカリバーは対処した。
刺突を聖剣の腹で受けたのだが、その聖剣は刺突の威力を逸らすように、斜めで受け流していたのだ。
受け流された石突は、エクスカリバーの鳩尾手前ではなく、体の左手側にある。
受け流しが成功している。
ただ、エリザに動揺はない。次の攻撃を仕掛けてくる。
「大衆の望む姿に沿う演者に成り下がるつもりか、貴様は!」
「いいえ。皆の希望でありたいというのが、オレの意思です。決して、他人に踊らされている訳ではありません」
怒りを発露するように繰り出されるエリザの連撃。
そんな連撃をエクスカリバーは全て対処する。
逸らされた石突を利用した横薙ぎには、身を屈ませて。
屈んだところへの振り下ろしには、後方へ跳んで。
空中狙いの突き上げには、上体を
着地狙いの足払いには、足を抱える事で着地時間を遅らせて。
着地で硬直しているだろうところへの体当たりには、両足を添える事で威力を殺して。
全ての連撃に、そうやって対処してみせた。
それだけでなく、体当たりの際に添えた両足で蹴り、己の体を舞台端まで弾く。
距離をまた空けるためにそうした。誰もがそう思うだろう。
残念ながら、エクスカリバーはその程度でこの行動を終わらせなかった。
そこから、さらに舞台端の壁を蹴り、エリザへと急接近させたのだ。
おまけに、聖剣の切っ先をエリザへと向けている。
「なっ!?ぐっ」
矢の如きエクスカリバー、
だが、防御しきれていない。
聖剣は籠手を貫き、その刃を肉へ届かせていた。
その証拠に、貫かれた所から血が垂れている。
「どうですか?俺の気持ちは、伝わりましたか?」
エクスカリバーは聖剣を引き抜き、追撃もせずに問いかけた。
この攻撃は相手を傷つけるためではなく、己の気持ちを伝えるためのモノだったと示すように。
伝えようとしている気持ちは、全く以って嘘なのであるが。
「ふ、ふふふ……。認めん、認めんさ……。勇者テノール。お前は他人を救うだけで、誰も導こうとはしていない!お前はただ、そこにあるだけの日の光だ!!」
嘘である事を見抜いたのか、強情にも認めたくないのか。エリザはエクスカリバーの言葉を否定し、血の滴る左腕を振りかざした。
そうすると、その滴っていた血がエクスカリバーの顔へと飛来する。
目潰しされないように腕で庇ったが、結局視界は一瞬塞がる事になる。
そこを見逃さず、エリザは槍を持つ右腕で刺突を放った。
エクスカリバーはその刺突が読めていたのだろう。
あっさりと刺突を弾き、聖剣を逆手に持ち替えてエリザの右腕に突き立てた。
それも、手甲を貫いている。
「くぅ……」
「これで、両腕は
深い傷ではないが、今まで通り槍を振るえる状態ではない。
故に、勝負の行く先を見えた。
エリザに、もう勝ち目はない。
「ふ、はは……。ふはははははははは!」
突然、エリザは哄笑を響かせた。
自棄や自嘲ではない。
こちらを、嘲笑っていたのだ。
「勇者テノール!ヴァンパイアがどのようにして仲間を増やすか、知っているか!?」
「いきなり、何―――う、ぐ、あっ」
エリザがヴァンパイアの生態を講義しようとしたところ、エクスカリバーが急に
体の内側から痛みを感じているように、エクスカリバーは己の体を抱きしめている。
(ヴァンパイアが仲間を増やす方法は、他の魔物と同じく生殖と、血を分け与える事による眷属化!だが、エクスカリバーはエリザの血を飲んでいないはず。顔に飛ばされた血だって、腕で庇って……。あれ?)
俺はエクスカリバーの腕を視認し、違和感に気付いた。
(腕に血痕がない……。腕どころか、滴っていたはずの血もないぞ!?)
エクスカリバーの腕にも、舞台にも、エリザの腕にさえ、彼女の血がない。
どこにも、血痕などなくなっていたのだ。
「口に含む事までは警戒していたようだが、無駄だ!私は己を霧に変化させられる魔術を持つ。私の血も霧に変え、お前に吸わせていたのだ!」
エリザは策の成就に気を良くし、高らかに説明していた。
つまり、エリザは初めから狙っていたのだ。
勇者の眷属化。そして、それからの抹殺を。
「があああああああああああああああ!!!」
エクスカリバーは顔を覆い、苦しみ始めた。
エリザの血を摂取した事によって眷属、ヴァンパイアに変質させられたのだ。
そうしてヴァンパイアに成ろうとするその身が、日光に晒されている。
ヒューマンからヴァンパイアに変じたところへ降り注ぐ日光など、猛毒液を浴びさせられるようなものだ。
「そこまでだ、反逆者め!」
有事の際に控えていたセイザーたち。
この瞬間こそが、彼らの出番である。
よって、務めを果たすべく、セイザーは警告を発してまで、ランテやパース、トリスは静かにエリザを取り囲む。
「それ以上近付けば、勇者の命はないものと思え」
エリザはエクスカリバーに槍を向け、人質にした。
その槍はしっかり右手に握られている。
どうにも、エリザは再生能力まで持つ高位のヴァンパイアだったようだ。
「おのれ……。先程までの気高さはどこへ行った!」
「これは罰なのだ、傲慢にも勇者を騙った罪への。そして、私から国を奪って腐敗させた罪への!」
「『国を奪って腐敗させた』だと?世迷言を」
セイザーの訴えかけにエリザは耳を貸さず、全く訳の分からない事に執心していた。
エリザは、何がなんでも俺とラビリンシアを罰したいのだろう。
「罪には罰を。この日より、私はお前たちに裁きを降す!よく覚えておけ、私の名はエリー・ポナー・ドラクル!貴様たちラビリンシア人に、我が祖国ポナーを奪われた者だ!」
高らかに己が名を叫び、裁きの御旗をエリザ、いや、エリーは掲げる。
どこまでも独善的で、どこまでも慢心に満ちていた。
だから、隙を突かれる。
「罪には罰を。なら、貴女にも罰が必要ですね」
「何?っ!」
勝ちを確信したエリーの兜を、エクスカリバーが叩いて剥がす。
真にヴァンパイアたるエリーの顔が、日光の下、露にされたのだった。