100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「罪には罰を。なら、貴女にも罰が必要ですね」
「何?っ!」
エリザが勝ち誇って油断しているところで、エクスカリバーは彼女の兜を聖剣で叩き飛ばした。
そうすれば、エリザは弱点である日光を浴びる。
「ぐあああああああああああ!!!」
火で燃やされるように、エリザの顔から煙が立ちのぼっていた。
エクスカリバーが苦しみ始めた時とはまるで違う。
「き、貴様!!何故眷属に、ヴァンパイアになっていない!!?」
そう。エリザが気付いた通り、エクスカリバーはヴァンパイアになっていなかった。
あの苦しむ様子は、エリザを油断させるための演技だったのだ。
エリザの血を霧として吸っていたのに、何故ヴァンパイアにならなかったのか。
その訳を示すように、エクスカリバーは血を吐き出した。
その血が、全てエリザの血である。
「貴女の使った変化はヴァンパイア種族固有のモノとはいえ、魔術は魔術。『魔術式崩壊』は可能です」
「ま、まさか……。変化魔術で霧に変えていた私の血を、『魔術式崩壊』で元の液体に戻し、口に溜めておいたのか!」
「ええ。貴女に悟られないよう、零さずにいるのは中々大変でした」
エクスカリバーは事もなげに実行しているが、エリーが唖然とするくらい妙技を行っていた。
体内に『魔術式崩壊』が起こせる程の魔力を溜め、侵入してきた霧にぶつけているのだ。
何をどうすればそういう事ができるのか。理解が到底及ばない。
「詰みです、エリー・ポナー・ドラクル」
エクスカリバーは内心ほくそ笑み、己の勝利を宣言した。
ラビリンシア王立近衛兵の総長、1・2・4番隊隊長がエリーを囲むこの現状。誰が見たって、エリーの負けである。
「……この勝負は、勝ちを譲ろう。だが、私の命運までは譲れん!」
心折れていないエリーは、自身を一気に霧へと変化させた。
辺りは霧に包まれる、吸引すれば眷属化されかねない猛毒の霧に。
セイザー、トリス、パースの3人にエクスカリバーも、吸引しないように口と鼻を塞いだ。
唯一防御ではなく攻撃を選んだランテは、剣に魔力を帯びさせて霧変化魔術の『魔術式崩壊』に挑む。
だが、少量の血だけだったエクスカリバーの時と全身を変化させている今では、魔術式の強度が違った。
近衛兵総長の魔力を以てしても、その魔術を破る事はできない。
「勇者テノール!次に相まみえる時こそ、貴様を滅ぼす時だ。そして、ゆくゆくはこのエリー・ポナー・ドラクルが、我が国を、ポナーを取り返す!我が怒り、貴様らの罪、努々忘れるな!!」
エリーは最後に捨て台詞を吐き、風に乗って逃げ
不死身とされるヴァンパイアであっても、日の下で戦う事は避けたのだ。
そうして霧は晴れ、敵が侵入していた事実のみ残る。
「……敵将、撤退。近衛兵全体に通達。これよりドラクルを巡回。敵の潜伏を警戒する。指揮は一時セイザーに委任する」
「「「はっ!」」」
ランテはエリーの撤退を見ても安心せず、エリーもしくは彼女の協力者が潜んでいる可能性を鑑みた。
それらの対処に動くべく、セイザー、トリス、パースに都内の巡回を指示。
その3人は即座に指示された任務の遂行に動く。
(ここまで巧妙に潜入されたんじゃ、あいつも、あいつの仲間も見つかんねぇだろうな)
近衛兵らが緊張感を持っているのに対し、エクスカリバーは事が決着したように振る舞っていた。
聖剣を鞘に収め、体の主導権を俺に返す。
「今年も、またやられたのか……」
前年に続き、今年も敵の侵入を許してしまった事を、俺は憂いた。
1度までならまだしも、2度目だ。ラビリンシアの面目はかなり汚されてしまったのだ。
エリーが魔王軍だったのかは不明瞭だが、敵対心のある魔物を潜入させてしまった事実は変わらない。
人類の防波堤とするラビリンシアの国際的な立場が、怪しくなるかもしれない。
(国を守るのは王の責務だが。バーニン王はどう動く)
王族の席である特別席を見上げるが、そこにバーニン王の姿はない。
早くも行動に移しているのだろうか。
俺は、特別席に1人で佇むルーフェ様を目が合った。
少しでも安心させようと、微笑みかけておく。
そうすれば、ルーフェ様は不安げながらも、手を振り返してくれたのだ。
(やっぱり、ルーフェ様。変なところはあるが、可愛い人だよな。……最悪、彼女だけでもミナ・ミヌエーラに連れていくか)
(いや、そこは故郷のために奮闘しろよ。何自然に亡命を考えてんだ)
誰も奮闘しないとは言っていない。
あくまで最悪の事態を想定し、対策を思案したのだ。
人の考えを察する事ができない奴は、これだから困る。
(お、そうだな。じゃあオレはお前の考えなんて一切分かんねぇから、次主導権奪ったら好きに暴れさせてもらうわ)
(本気で止めろ!俺が悪かった!)
(あー、試合で結構疲れたし、英気を養いたいなー。美味い飯とか風呂に入れば、英気を養えるんだけどなー)
(分かった、食事時と入浴時は主導権を渡す!それで良いんだろ!?)
(お前が担い手で良かったぜ、相棒)
何が相棒だと、俺は歯噛みを固く結んだ口の下に隠した。
国が大変だと言う時に、俺は聖剣のご機嫌伺いに気を割くのだった。