100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十八節 見えぬ傷は深く

「罪には罰を。なら、貴女にも罰が必要ですね」

「何?っ!」

 

 エリザが勝ち誇って油断しているところで、エクスカリバーは彼女の兜を聖剣で叩き飛ばした。

 そうすれば、エリザは弱点である日光を浴びる。

 

「ぐあああああああああああ!!!」

 

 火で燃やされるように、エリザの顔から煙が立ちのぼっていた。

 エクスカリバーが苦しみ始めた時とはまるで違う。

 

「き、貴様!!何故眷属に、ヴァンパイアになっていない!!?」

 

 そう。エリザが気付いた通り、エクスカリバーはヴァンパイアになっていなかった。

 あの苦しむ様子は、エリザを油断させるための演技だったのだ。

 エリザの血を霧として吸っていたのに、何故ヴァンパイアにならなかったのか。

 その訳を示すように、エクスカリバーは血を吐き出した。

 その血が、全てエリザの血である。

 

「貴女の使った変化はヴァンパイア種族固有のモノとはいえ、魔術は魔術。『魔術式崩壊』は可能です」

「ま、まさか……。変化魔術で霧に変えていた私の血を、『魔術式崩壊』で元の液体に戻し、口に溜めておいたのか!」

「ええ。貴女に悟られないよう、零さずにいるのは中々大変でした」

 

 エクスカリバーは事もなげに実行しているが、エリーが唖然とするくらい妙技を行っていた。

 体内に『魔術式崩壊』が起こせる程の魔力を溜め、侵入してきた霧にぶつけているのだ。

 何をどうすればそういう事ができるのか。理解が到底及ばない。

 

「詰みです、エリー・ポナー・ドラクル」

 

 エクスカリバーは内心ほくそ笑み、己の勝利を宣言した。

 ラビリンシア王立近衛兵の総長、1・2・4番隊隊長がエリーを囲むこの現状。誰が見たって、エリーの負けである。

 

「……この勝負は、勝ちを譲ろう。だが、私の命運までは譲れん!」

 

 心折れていないエリーは、自身を一気に霧へと変化させた。

 辺りは霧に包まれる、吸引すれば眷属化されかねない猛毒の霧に。

 セイザー、トリス、パースの3人にエクスカリバーも、吸引しないように口と鼻を塞いだ。

 唯一防御ではなく攻撃を選んだランテは、剣に魔力を帯びさせて霧変化魔術の『魔術式崩壊』に挑む。

 だが、少量の血だけだったエクスカリバーの時と全身を変化させている今では、魔術式の強度が違った。

 近衛兵総長の魔力を以てしても、その魔術を破る事はできない。

 

「勇者テノール!次に相まみえる時こそ、貴様を滅ぼす時だ。そして、ゆくゆくはこのエリー・ポナー・ドラクルが、我が国を、ポナーを取り返す!我が怒り、貴様らの罪、努々忘れるな!!」

 

 エリーは最後に捨て台詞を吐き、風に乗って逃げ(おお)せる。

 不死身とされるヴァンパイアであっても、日の下で戦う事は避けたのだ。

 そうして霧は晴れ、敵が侵入していた事実のみ残る。

 

「……敵将、撤退。近衛兵全体に通達。これよりドラクルを巡回。敵の潜伏を警戒する。指揮は一時セイザーに委任する」

「「「はっ!」」」

 

 ランテはエリーの撤退を見ても安心せず、エリーもしくは彼女の協力者が潜んでいる可能性を鑑みた。

 それらの対処に動くべく、セイザー、トリス、パースに都内の巡回を指示。

 その3人は即座に指示された任務の遂行に動く。

 

(ここまで巧妙に潜入されたんじゃ、あいつも、あいつの仲間も見つかんねぇだろうな)

 

 近衛兵らが緊張感を持っているのに対し、エクスカリバーは事が決着したように振る舞っていた。

 聖剣を鞘に収め、体の主導権を俺に返す。

 

「今年も、またやられたのか……」

 

 前年に続き、今年も敵の侵入を許してしまった事を、俺は憂いた。

 1度までならまだしも、2度目だ。ラビリンシアの面目はかなり汚されてしまったのだ。

 エリーが魔王軍だったのかは不明瞭だが、敵対心のある魔物を潜入させてしまった事実は変わらない。

 人類の防波堤とするラビリンシアの国際的な立場が、怪しくなるかもしれない。

 

(国を守るのは王の責務だが。バーニン王はどう動く)

 

 王族の席である特別席を見上げるが、そこにバーニン王の姿はない。

 早くも行動に移しているのだろうか。

 俺は、特別席に1人で佇むルーフェ様を目が合った。

 少しでも安心させようと、微笑みかけておく。

 そうすれば、ルーフェ様は不安げながらも、手を振り返してくれたのだ。

 

(やっぱり、ルーフェ様。変なところはあるが、可愛い人だよな。……最悪、彼女だけでもミナ・ミヌエーラに連れていくか)

(いや、そこは故郷のために奮闘しろよ。何自然に亡命を考えてんだ)

 

 誰も奮闘しないとは言っていない。

 あくまで最悪の事態を想定し、対策を思案したのだ。

 人の考えを察する事ができない奴は、これだから困る。

 

(お、そうだな。じゃあオレはお前の考えなんて一切分かんねぇから、次主導権奪ったら好きに暴れさせてもらうわ)

(本気で止めろ!俺が悪かった!)

(あー、試合で結構疲れたし、英気を養いたいなー。美味い飯とか風呂に入れば、英気を養えるんだけどなー)

(分かった、食事時と入浴時は主導権を渡す!それで良いんだろ!?)

(お前が担い手で良かったぜ、相棒)

 

 何が相棒だと、俺は歯噛みを固く結んだ口の下に隠した。

 国が大変だと言う時に、俺は聖剣のご機嫌伺いに気を割くのだった。

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