100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十九節 円卓にて集う

「大変な事になっちまったもんだな。なぁ、ラビリンシア王」

 

 豪奢な置物が飾られ、真ん中に円卓が置かれた一室。

 その一室は、下に置けない国賓が複数来訪されたために、急遽用意された応接室だ。

 そこで、国賓の1人であるサタンが、バーニンへ同情を向けていた。

 他に集った者たち、ゴッホ、グウィバー、エクラタントも面持ちに差異はあれど、皆似たような心境である。

 ゴッホとグウィバーは同じく敵対者の潜入を許している。

 彼らは糾弾できる立場ではないし、酷似した被害を受けた者としての同情心があった。

 エクラタントは己の体裁を気にしている。

 仮にも教皇が他国を(おとし)めようとするのは問題であるし、個人的にテノールの故郷を貶めたくはなかった。

 サタンは今回の事件に多少責任を感じている。

 パンデモニウムが魔物の国であるため、魔物の入国を拒否するという万全にして強硬策をラビリンシアが取れなかったのだと、口に出さないまでも自責していた。

 このように、敵対者の潜入を許したラビリンシアに対し、糾弾しようとする者は奇跡的にもこの場に居ないのだ。

 むしろ、強国の(おさ)から少なからず共感を得られている。

 

「今回の事件、責任は余にある。警備の強化、入国の規制、記念祭の縮小。取れる対策はいくらでもあった。それを指示しなかったのは、余の認識が甘かったからだ」

 

 そんな共感が得られているとは知らず、バーニンは責任を自身だけで背負おうとした。

 自身に対する処罰だけで、国の汚名を雪ごうとしている。

 

「我はこの件に対し、国際的な罰は必要ないと考える。もし必要だと言うのであれば、我々も罰せよ。我々は敵対者、それも魔王軍幹部の潜入を我が国も許した。あまつさえ、その解決をラビリンシアからの使いに任せたのだ」

「私も同意見です。罪があるならば、このグウィバーも背負いましょう」

「ゴッホ殿、グウィバー殿……」

 

 誠意でも以て庇うゴッホとグウィバー。

 そんな偉大なる王の寛大さに、バーニンは感激していた。

 これが国を長く維持してきた王かと、畏敬の念すら抱きつつある。

 

「確かに、敵の潜入を許した事は、王として責任を取らなければいけない事でしょう。ですが、それは国際的に罰するモノではありません。各々が各々の国民に対し、責任を果たせば良い事です。そうですね?サタン」

「元より責めるつもりはないんだよ、こっちは。俺を除け者にするんじゃない」

 

 エクラタントは国際的処罰の不要を明言し、全員の意見が統一されているのか、サタンの意見を念のため確認していた。

 それで返ってきたサタンの答えによって、この場の誰も処罰不要としている事が確定される。

 

「……総意として、処罰は降さぬと?」

 

 一応強国から責め立てられる事態も想定していたバーニンにとって、酷く拍子抜けで、とても意外だった。

 つい、もう1度確認してしまう程である。

 

「それよか、もっと話しなくちゃいけない事があんだろ。あのエリーって奴がどうか不明だが、魔王軍が随分と活発に動いてる。その魔王軍をどうするのか、話し合うべきじゃないか?」

 

 サタンは疑り深いバーニンに呆れながら、処罰を降さない訳、自身が来訪した真意を述べる。

 活発化する魔王軍の前で、愚かにも戦力を削りたくはないと、暗に示したのだ。

 

「ストーリーの軸……じゃなくて、魔王軍への具体的な方針はお互い話しておこうぜ。足並み揃ってない状態なんて、あいつらの台本で踊るみたいなもんだ。一流劇作家の台本なら踊ってやらなくもないが、魔王軍のなんか勘弁だね」

 

 サタンは第1次魔人戦争での失敗を、苦々しい記憶も合わせて思い出していた。

 だから、失敗を繰り返さぬよう、今度こそ手を取り合いたいのだ。

 

「そうだな。前回のように手酷くやられるのは懲り懲りだ。ならばこそ、正式な同盟を設立しようではないか」

 

 ゴッホはサタンの意を汲み、話を1歩進めた。

 足並みを揃えるに留まらず、同盟という確固とした共同戦線を組み上げる。

 それが、ゴッホとグウィバーの望むところなのだ。

 

「同盟ですか、とても良いですね。(われ)らが巨悪の前で一丸となる。その光景に、『友情・努力・勝利』の教えを説いた『主神スタッカート』様がお喜びとなるでしょう」

「良いねぇ、熱くなる展開だ。やっぱ、魔王には皆の力を合わせて挑まねぇとな」

 

 エクラタントとサタンは同盟の設立に賛同した。

 両者はそれぞれ別の考えで、とても乗り気である。

 

 同盟の設立に異論を唱える者は居ない。もちろん、バーニンも異論を唱えない。

 だが、口を挿む者は現れる。

 

「ちょっち待ってぇな。それ、ウチも噛ませてくれへん?」

 

 エクラタントの護衛として控えていた者が、そのように口を挿んだ。

 護衛という身分でこの(おさ)の会談に混じるなど、本来無礼が過ぎる行為だ。

 しかし、その者が口を挿む事がなんの無礼にもならない事は、お察しいただけるだろう。

 

「貴公は……?」

 

 バーニンはあからさまに態度がおかしく、エクラタントに諫められもしないその者の正体を訝しんだ。

 その訝しみに、その者は待っていましたとばかりに、口で弧を描く。

 

「初めましてになるなぁ、ラビリンシアの王様。ウチはクミホ。ジパングの帝王や」

 

 得意げに頭巾を剥ぎ、むき出しにする狐の耳。

 お洒落に偽装していたのを解き、自由に動かす狐の尾。

 そして名乗ったその正体。

 バーニンは目を見開かずにはいられなかったのだった。

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